Act.18
蒼子は聞こえているのか、いないのか、もうわからない状態になった。
「晴海君」
蒼子の母親が、涙声で呟いた。
「蒼子はもう、今日明日の命だそうよ」
蒼子の命の火は消えかけていた。蒼子の周りには、医師と看護師はもちろん、両親や親族も集まっていた。ぱっと見、場違いな他人の晴海が、最優先で蒼子の右手を握りしめていた。左手は両親が握っていた。蒼子がふっと意識を取り戻したように、目を開けた。
「みんな……来てくれたんだぁ~」
「蒼子ぉ~」
親族の中でも、特にものすごく髪の毛が長い女性が、両親の横に寄り添っていた。ヘアドネーションのために、髪の毛を伸ばしているという従姉だとすぐにわかった。
「ありがとう。……今まで……」
蒼子の目から涙がこぼれた。
「蒼子」
父親が声をかけた。
「お父さん。……ごめんなさい」
父親は嗚咽を漏らした。
「晴海君。いるの?」
「いるよ。蒼子」
晴海は蒼子の細い手を握った。
「……大好きよ」
「僕もだよ!」
「忘れないで……。あの空を……見上げているときのあなたを……」
晴海は涙をこらえて、何度も頷きながら笑った。
「あの……青い空に染まりたい……。いえ……。染まる」
蒼子は天井に貼られた真っ青な空の写真を、うつろな眼差しで見つめた。大きく息を吸い込んでいったん止めると、深く吐きながら晴海に語り掛けた。
「約束よ……。あなたが見つめてるあの空への憧れを……。私の分も……」
「もう、『またね』って言ってくれないの?」
晴海の涙声に、蒼子は弱々しく微笑んで、唇だけを小さく動かした。
(ご……め……)
そして、蒼子は――――
―――――逝った。
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