Act.13-3

「晴海君……」


 彼らがいなくなると、蒼子は、しがみついている晴海の胸の中で、彼を見上げた。


「まさか、今日会えるとは思ってなかったよ」


 晴海が蒼子をもう一度強く抱きしめた。


「あなたがここにいるって……。なぜか、わかったの。晴海君は、『魂が引き裂かれる』って言ったけど、私にはそうは考えられないの。なんだかね、私の感覚が広がっているような感じなの」


「感覚が広がる?」


「うん。ほら、水族館で見たクラゲが、重いものをみんな捨てて、半透明な姿が、まるで海水に溶けてるようねって話したでしょう? 私も空に透けて、空に同化して、個体という概念じゃなくって、そのものになるって感覚なの。その中に晴海君もいて、あなたの気配を感じ取れるの。私たちは引き裂かれるんじゃなくて、空に逝った私があなたの魂を取り込んで、一つの魂になる気がする。そして、それがいつになるかは、私はもちろん、あなたも絶対にわからないことだけど、あなたはやがて、私たちの魂の片割れと出会う気がする」


 晴海は驚いて蒼子を見下ろした。


「僕らの魂の片割れ? そんなことない! 僕の魂の片割れは君だもん。他にいるはずないじゃんか!」


 晴海が少しの怒りと、たくさんの悲しみを込めて叫んだ。


「いいえ。あなたと私の魂はきっと融合する。その魂の片割れが、必ずいるはずなの。いつかはわかんない。でも、きっとあなたはこの先、私の代わりに……。じゃないの。私たちの魂の片割れに必ず出会うわ。その時に、私に罪悪感を持たないでね。あなたの魂の片割れは、私の魂の片割れでもあるの。その人を必ず私に紹介してね。私は、私たちの魂の片割れとあなたが一緒にいる日を、空から見守ってるから……」


 晴海は、早すぎた魂の片割れとの出会いと、そして出会った時にはもう決まっていた、避けられない別れ。蒼子は別れるんじゃなくて、一つになるんだと言っているけれど、晴海はまだそう思える気持ちにはなれなかった。蒼子はまだ生きているし、自分の腕の中が温かい。まだ、別れなんか考えられなかった。


(今はまだ、蒼子の言葉をそのまま記憶しておくだけにしよう。気持ちが追い付かない。だって、僕は蒼子を愛してる。愛してる? そんな生易しい気持ちじゃない。自分の魂の片割れなんだ。離れられるわけがない! 僕は蒼子と一緒に過ごす時間が、一秒でも長くあれ! としか願っていない)


 晴海は、自分の魂に融合して、一緒に生きるんだと言い切る蒼子の言葉を、いつか納得する日が来るのだろうかと思った。


 でも、それを考えるには、晴海はまだまだ幼過ぎた。


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