Act.9-1

 そんな日々の中で、晴海がちょっと頬を赤らめながら、小さな紙袋を蒼子に差し出した。


「これ……。プレゼント」


 百均で見かけるような小さな袋だった。


「え? なに?」


 蒼子はびっくりしながら受け取って、中を覗き込んだ。


「あっ! うちに帰ってから開けてみて」


 晴海はさらに顔を赤らめた。


「? うん。わかった。ありがとう」


 蒼子は不思議そうに返礼した。家に帰ってから、自室で晴海からもらった紙袋の中に入っているものを取り出した。


 十センチ角ほどの小箱だった。


 リボンがかけてあったが、お世辞にも上手に箱にかけられてるとは言えなかった。さらに包装紙は箱をつつむために「これでもか!」というくらいセロハンテープが張り付けられていた。その2つも、けっしてセンスがいいという配色はなかった。


 それを見て、蒼子はえくぼをつくってくすくす笑った。


 丁寧にセロハンテープを剥がし、そっと蓋を開けると、卵大の白い巻貝が、緩衝材のシュレッダーされたピンク色の紙クズの中に埋まっていた。蒼子はそっとそれを右耳に当てた。遠くで「潮騒」の音がしていた。瞬時にそれは、いつも見ている風景と重なった。


 蒼子は耳に当てたまま、微笑んでベッドに倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る