Act.4-3


 蒼子は家に戻ると、倒れ込むようにベッドに横たわった。彼女を待っていた母親が、少し心配そうに彼女を見つめた。


「最近外出が多いようだけど、身体の調子はどう? 辛くない?」


「私に体調がいい日なんてないわ。でもね、お母さん。心の調子はとてもいいのよ」


 蒼子は枕に半分埋もれた顔で笑った。


「あら? 何か良いことがあったの?」


 母は布団を整えながら蒼子に尋ねた。


「魂の片割れに出会ったの」


 蒼子は嬉しそうに笑った。


「まぁ? 蒼子がそう思える人に出会ったの?」


 母はおどけたような表情で、楽しそうに笑った。


 蒼子に「人間が天にいるときには、男女一対で背中合わせにくっついているのだ」と、話してくれたのは母だった。


「七瀬晴海君という、1つ年上の男の子。私と一緒で、空の青がとても好きなのよ」


 蒼子は天井に貼ってある、父が撮ってくれた大きな空の写真を見上げた。


「この空の青さが、私を癒してくれる。晴海君の眼差しや言葉も私を癒してくれるのよ」


 蒼子の声は嬉しそうな色を帯びていた。


「それで毎日のように、M美術館へ行ってるのね」


「うん」


「無理はしないのよ」


 母は心配そうに言った。


「まだ大丈夫。私はまだ大丈夫よ……」


 蒼子は自分に言い聞かせるように呟いた。


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