第10話「王都からの使者と、再会の気配」

 地下迷宮での依頼から三日。バルトラムの片隅にある酒場で、俺とティナは静かに報告書をまとめていた。


「ギルド《リビルド》──名前は地味だけど、“地下で影を斬った”って噂、ちょっとずつ広まってるみたいだよ?」


 ティナが嬉しそうに言う。実際、宿の受付でも態度が少し変わってきていた。新米扱いではあるが、“無視される”段階は超えたようだ。


 そこへ、酒場の扉が静かに開いた。


 入ってきたのは黒いマントを羽織った男──その背には、王都騎士団の紋章が輝いている。


「……王都からの使者?」


 俺が立ち上がるより早く、男は一通の封筒をテーブルに置いた。


「クロウ=イシュトリア殿。王都より、指名依頼だ」


「指名、だと?」


「“地下の封印に触れた者”として、王城魔導院より照会があった。詳細は書面にて確認願いたい」


 男はそれ以上何も言わず、振り返るとすぐに酒場を後にした。


 俺は封を開け、中身を読んで──息を呑んだ。


「“王都魔導院上席術師・エルナ”──あいつが関わってる」


「エルナ……って、クロウお兄さんの昔の仲間?」


「いや、もっと複雑だ。……幼馴染で、俺を“追放”する決定にも関わっていた人物だ」


 ティナがそっとこちらを見る。


「再会……するの?」


「ああ。どうやら、逃げられそうにない」


 そのとき、ティナが急に頭を押さえた。


「ティナ?」


「……なんか、変。スキルが、暴れてる感じ……」


 彼女の瞳に、一瞬だけ赤い光が宿った。


《警告──スキル:空間察知/応力演算 進化状態:不安定》

《影響源:未知の魔力干渉/遠隔干渉の兆候あり》


 俺はティナの肩を掴み、静かに言った。


「……これも、結晶の影響か。まだ終わってないんだな、あの地下の件は」


 王都からの使者、再会する“かつての仲間”、そしてティナに忍び寄る進化の代償。


 静かに、だが確実に、新たな局面が幕を開けようとしていた。

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