『俺達のグレートなキャンプ47 地球侵略に来た宇宙人にタンメンを』

海山純平

第47話 地球侵略に来た宇宙人にタンメンを

俺達のグレートなキャンプ47 地球侵略に来た宇宙人にタンメンを


夕焼けが湖面を黄金に染める中、石川はテントの設営を終えたばかりだというのに、すでに次の行動に向けて目をギラギラと輝かせていた。汗で額に張り付いた前髪を手で払いながら、彼は仲間たちを見回す。その顔には、いつもの「また何か思いついた」という危険な笑みが浮かんでいた。

「よっしゃー!今回のグレートキャンプはこれだ!」

石川の両手が勢いよく空に向かって突き上げられた瞬間、湖畔の静寂が木っ端微塵に砕け散った。近くで釣り糸を垂らしていた中年男性がビクッと竿を跳ね上げ、水面に波紋が広がる。夕涼みを楽しんでいた家族連れが一斉にこちらを振り向いた。

千葉は石川の後ろで荷物を整理していた手を止め、期待に満ちた瞳を輝かせて振り返った。新人キャンパーとは思えない手際の良さでコンロを組み立てながら、「今度は何ですか?」とワクワクした声で尋ねる。その表情は、まるでサンタクロースからのプレゼントを待つ子供のようだった。

一方、富山は薪を積み上げる手を完全に止めて、石川を睨みつけていた。長年の付き合いで培った「嫌な予感レーダー」が最大値を振り切っている。彼女の眉間にくっきりと刻まれた縦じわが、今回もまた常識を超えた何かが始まる予感を物語っていた。

「『地球侵略に来た宇宙人にタンメンを振る舞う』キャンプだ!」

石川が胸を張って宣言した瞬間、富山の口から出たのは人間の声とは思えない音だった。

「はぁぁぁぁ?!」

その絶叫は湖を三周半して山にこだました。驚いた水鳥たちが一斉に羽ばたき、対岸のキャンパーたちがざわめき始める。富山の顔は夕焼けよりも赤く染まり、手に持っていた薪がポロポロと地面に落ちていく。

「待って待って石川君!」富山が両手をひらひらと振り回しながら、明らかにパニック状態で声を上げる。「今なんて言った?宇宙人って...え?え?宇宙人にタンメンって...それキャンプですること?!」

一方、千葉の目はさらにキラキラと輝きを増していた。まるで宝石でも見つけたかのように瞳孔が開き、興奮で頬が紅潮している。

「うおおお!すげぇ!宇宙人だって!」千葉が勢いよく立ち上がり、コンロの部品を散らかしながら石川に詰め寄る。「石川さん、どうやって宇宙人呼ぶんですか?!通信機とか使うんですか?それとも何か儀式みたいな?」

「そこがミソだ!」石川がビシッと人差し指を立てて、探偵が謎を解いたかのような得意げな表情を浮かべる。「俺が徹底的に調べたところによると、この湖畔キャンプ場では過去に15回もUFOの目撃情報があるんだ!しかも今夜は新月で星空が最高に美しく見える!大気の透明度も抜群!つまり、宇宙人がやってくる確率は...」

「83.7パーセント!」

千葉が石川の言葉を受けて力強く拳を握りしめながら叫んだ。その顔は完全に石川ワールドに染まり切っている。

「おお千葉!よく分かってるじゃないか!流石俺の相棒だ!」

石川が千葉の肩をバンバンと叩く。二人の間に生まれた謎の連帯感が、まるで秘密結社の暗号でも交わしているかのような雰囲気を醸し出していた。

「全然分かってないよ!!」富山の声が再び湖畔に響き渡る。「なんで宇宙人の来る確率が数字で出るのよ!しかもなんで83.7なのよ!キリが悪すぎるでしょ!どこから出た数字なのよそれ!」

富山が両手で頭を抱えている間に、石川はすでにリュックから怪しげな道具の数々を取り出し始めていた。まるでマジシャンが手品の準備をするように、次から次へと見慣れない調味料や器具が地面に並べられていく。

「まぁまぁ富山ちゃん、そう慌てるなよ」石川がニヤニヤしながら手をひらひら振る。その笑顔には「どうせ最後は付き合ってくれるんでしょ?」という確信が込められていた。「どうせ来なかったら普通にタンメン食べればいいし、来たら来たで人類史上初の宇宙外交の第一歩だ!一石二鳥だろ?」

「一石二鳥の使い方完全に間違ってる!」

富山のツッコミを完全に無視して、千葉が目をさらにキラキラさせながら石川の隣にしゃがみ込んだ。

「でも確かにタンメンって美味しいですもんね!あの麺の弾力とスープの濃厚さ、野菜のシャキシャキ感...宇宙人も絶対喜びますよ!地球の食文化の素晴らしさを伝えられますね!」

「そうそう!さすが千葉は分かってる!」石川が膝を叩いて喜ぶ。「しかも今回は普通のタンメンじゃない。俺特製の『宇宙人歓迎スペシャルタンメン』だからな!」

「特製って?」富山が嫌な予感に全身を包まれながら、恐る恐る聞いた。その声は震えており、石川の料理実験を何度も見てきた経験が警鐘を鳴らしていた。

「じゃーん!」

石川がリュックから取り出したのは、この世のものとは思えない調味料の数々だった。ブルーハワイシロップの鮮やかな青、わさびの刺激的な緑、練乳の純白、カレー粉の濃い黄色、そして最後に現れたのは...

「秘密兵器のココア!」

「料理じゃなくて化学実験だよそれ!!」

富山が絶叫する中、千葉は感嘆の声を上げながら調味料の瓶を一つずつ手に取っていた。

「うわー!カラフルで本当に宇宙っぽい!これなら宇宙人も『地球の文化レベル高いな、技術が進んでるな』って思ってくれますよ!」

「違うよ!『地球人の味覚完全におかしいな、頭がイカれてるな』って思われるよ!」

しかし石川と千葉は富山の悲痛な叫びを聞いていなかった。すでに二人の世界に入り込み、宇宙人との遭遇シミュレーションを始めている。

「まずはこのブルーハワイシロップで宇宙っぽい神秘的な青色を演出」石川が瓶を振りながら説明する。「そこにわさびの刺激で『地球人は強い味を好む』ということをアピール。練乳で優しさを表現し、カレー粉でスパイシーさを...」

「そして最後のココアで深みとコクを!」千葉が興奮して続ける。「完璧な宇宙外交ツールですね!」

富山はもはや言葉を失い、ただ呆然とその光景を見つめるしかなかった。

午後8時。石川特製の『宇宙人歓迎スペシャルタンメン』がコンロの上でコトコト煮えていた。鍋から立ち上る湯気は、なぜか虹色に輝いて見える。ブルーハワイシロップの甘い香りと、わさびの鼻を突く刺激、カレー粉のスパイシーな匂いが複雑に絡み合い、周囲に今まで嗅いだことのない不思議な香りを漂わせていた。

「うわ、なんか...香りがすごいことになってますね」千葉が鍋を覗き込みながら、目を細めて湯気を吸い込む。「甘いような、辛いような、でも確かに食欲をそそる...これは間違いなく宇宙人の興味を引きますよ!」

富山は風上に避難しながら、「興味じゃなくて警戒心を引くと思うけど...」とつぶやいた。

三人は焚き火を囲んで空を見上げていた。新月の夜空には満天の星が瞬き、天の川がくっきりと見える絶好の天体観測日和だった。石川は双眼鏡を構え、千葉は首を90度に曲げて真上を見つめ、富山は諦めたような表情で焚き火の薪をいじっていた。

「あ!」千葉が突然立ち上がって空を指差す。「あれ!あの光!飛行機じゃないですよね!?動きが不規則です!」

「おお!ついに来たか!」石川が双眼鏡を向けながら興奮する。「準備はいいか千葉!タンメンの最終調整だ!」

「あれはただの人工衛星よ!」富山が冷静にツッコむ。しかし内心では「まさか本当に来たりしないよね...?」という不安が芽生え始めていた。

その時だった。

「あのー、すみません...」

三人が振り向くと、隣のテントの家族連れのお父さんが困ったような、でも興味深そうな表情で立っていた。その後ろには小学生らしい男の子と、エプロン姿のお母さんがひょこりと顔を出している。

「何か...とても不思議な良い匂いがするんですが...」お父さんが鼻をひくひくさせながら鍋の方を見る。「カレーのような、でも甘いような...一体何を作られているんですか?」

「あ!これですね!」石川が胸を張って誇らしげに答える。「宇宙人専用特製タンメンです!地球代表として最高のおもてなしを!」

「う、宇宙人?」

お父さんが首をかしげていると、その後ろから小学生の男の子がピョンピョン飛び跳ねながら顔を出した。

「宇宙人だって!すげー!ママー!宇宙人が来るって言ってるよ!本物の宇宙人だよ!」

「え?宇宙人?何それ?」お母さんが驚いた表情でこちらを見る。

あっという間に噂は隣のテント、そのまた隣のテント、そして向かいのテントへと広がっていった。まるで山火事のように情報が拡散し、気づくとキャンプ場の半分近くの人たちが石川たちの周りに集まってきていた。

「本当に宇宙人来るんですか?」

「どこから情報得たんですか?」

「子供が興奮しちゃって寝られなくなっちゃいました」

「UFOって本当に見えるんですか?」

石川はまるでスター選手にでもなったかのような満面の笑みで答える。

「皆さん!今夜は人類史上初の宇宙人歓迎パーティーです!みんなで一緒にタンメン食べながら待ちませんか?地球代表として温かく迎えましょう!」

「やったー!宇宙人だー!」「本物見られるの?」「写真撮れるかな?」

子供たちが大喜びで飛び跳ねる中、富山は完全に青ざめていた。

「ちょっと石川君...これ、どうするの...?みんな本当に信じちゃってるじゃない...」

「任せろ!」石川が力強く胸を叩く。「どうせなら盛大にやろうじゃないか!これも立派な地球外交の一環だ!」

そんな中、千葉はスマートフォンを取り出してSNSに投稿していた。

「『宇宙人歓迎タンメンパーティー in 湖畔キャンプ場、今夜開催!みんなで宇宙人を温かく迎えよう!』っと...投稿完了!」

「千葉君!余計なことしないで!」

しかし時すでに遅し。千葉の投稿は瞬く間に拡散され、遠くからも車のヘッドライトがキャンプ場に向かってくるのが見えた。

午後9時30分。キャンプ場は完全に祭り状態になっていた。石川は大鍋でタンメンを大量生産し、集まった人たちに振る舞っている。一口食べた人たちの反応は...

「あ、これ...意外と...」中年の男性が驚いた表情で麺をすする。「甘いんだけど、後からスパイシーで...不思議な味だけど、なんか癖になる...」

「本当だ!」お母さんが目を丸くする。「最初ココアの甘さが来て、次にカレーの香辛料、最後にわさびがピリッと...複雑だけど美味しい!」

子供たちは大興奮で、「宇宙タンメン!宇宙タンメン!」と連呼しながらおかわりを求めていた。

「うおお!みんな喜んでくれてる!」千葉が感動で涙を浮かべる。「石川さんの料理、本当にすごいですよ!」

富山も恐る恐る一口食べてみると...「あれ?確かに変だけど...なんか美味しい...?」と困惑していた。

その時、空の向こうから本当に不思議な光が近づいてきた。今度は明らかに人工衛星でも飛行機でもない、ゆらゆらと漂うような動きをしている。

「あ!あれ!」

「本当だ!光ってる!」

「あの動き...飛行機じゃないよね?」

「宇宙人だ!本当に来た!」

みんなが一斉に空を指差した。光はどんどん大きくなり、明らかにこちらに向かって降りてくる。そして...

シュウウウウウ...

本当にUFOがキャンプ場に着陸した。

銀色に輝く円盤型の宇宙船から、緑色の肌をした小柄な宇宙人が3体現れた。大きな黒い目、細い手足、まさに映画でよく見る典型的な宇宙人の姿だった。

「うわああああ!」「本物だー!」「写真撮らなきゃ!」

キャンプ場は大パニック。しかし石川だけは冷静だった。

「よし!来たな!」石川がタンメンの器を持って宇宙人に近づく。「地球へようこそ!これが我々の心を込めた歓迎の証です!」

宇宙人たちは首をかしげながら、石川が差し出したタンメンの匂いを嗅いだ。そして一体が恐る恐る箸を取り、麺をすすった。

その瞬間、宇宙人の大きな目がさらに大きく見開かれた。

「オオオオ!」宇宙人が興奮したような声を上げる。「コレハ...コレハ...OISHII!」

「え?日本語しゃべれるの?!」

「OISHII!OISHII!」他の2体も一斉にタンメンに飛びつく。「コノ アジ...ワガ ワクセイニハ ナイ!スバラシイ!」

宇宙人たちは夢中になってタンメンをすすり続けた。ブルーハワイシロップの甘さに「アマイ!」と喜び、わさびの刺激に「ピリピリ!グッド!」と興奮し、ココアの深いコクに「フカイ アジ!」と感動していた。

「地球人ノ料理技術...恐ルベシ!」宇宙人のリーダーらしき個体が石川に向かって深々と頭を下げる。「我々ハ侵略シニ キタガ...コノ美味シイ料理ヲ食ベテ、地球人ト友達ニナリタイ!」

「やったー!」千葉が飛び跳ねる。「宇宙外交大成功ですよ石川さん!」

「おお!やったじゃないか!」石川も興奮して宇宙人と握手する。「これからは友達だ!また食べに来いよ!」

「ゼヒ!マタ キマス!今度ハ仲間モ連レテ キマス!コノ TANMEN ヲ ワガ星ニモ 広メタイ!」

宇宙人たちはタンメンの作り方をメモに取り、石川からレシピを教わってから、満足そうに宇宙船に戻っていった。

「地球人...最高デス!サヨナラ!」

UFOは夜空に消えていき、キャンプ場には興奮冷めやらぬ人々が残された。

「すげー!本当に宇宙人だった!」「あのタンメン、宇宙人も絶賛してたね!」「レシピ教えてください!」

翌朝、この出来事は全国ニュースとなり、石川たちは一躍時の人となった。そして何より、石川の『宇宙人歓迎スペシャルタンメン』は「宇宙人も認めた味」として話題になり、後に商品化されることになったのだった。

「次回は何するんですか?」昨夜知り合った家族のお父さんが興味深そうに聞いてくる。

「んー、そうだな...」石川が空を見上げながら考える。「今度は『竜宮城の乙姫様にお好み焼きを』なんてどうかな?」

「はーい!」千葉が元気よく手を上げる。「絶対面白いですよ!今度は海のキャンプ場ですね!」

「もう何でもいいわ...」富山が諦めの境地でつぶやく。「でも確かに...あのタンメン、美味しかったけど...」

そして『俺達のグレートなキャンプ』の伝説は、宇宙規模で語り継がれることになったのであった。石川たちのキャンプ場には、今でも時々UFOが現れては、あの伝説のタンメンを求めていくという噂もあるとか、ないとか...。

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