好きだった人にできた彼氏が性格が悪いようなので潰します

@sink2525

第1話 恋は突如と始まる


 もし、もしも俺が君の彼女になれるのなら幸せを与えると違う。そして、どれだけの悲しいことがあったしても絶対に幸せにすると誓う。


 そんなくさいセリフを頭の中で考える。隣に座っている南川美帆みなみかわみほに視線やる。


 肩まで伸び艶のある髪が特徴的で天使そのもの。視線を感じたのか美帆は俺に視線を向けた。

 小さい顔に小さな瞳。どこまでも広がっている美しさを前にして俺は呆然とする。


 目が合う。逃げるように視線を逸らす。



 ドキドキと高鳴る胸は踊っている。なんせ恋をしているんだから。


 恋は人を良くも悪くも変える。その人のことに夢中になり生活に支障をきたすとか、イケメンや可愛くなろうと頑張ったりとか。


 本当に恋は人をよく変える。


 もう夏だ。窓から見える海と空がそう告げている。光を放っている太陽に負けじと海も反射している。そんな小さな景色が今の俺には大きくてたまらない。



 美帆のことを好きになってから3年が経過している。中学の時に一目惚れしてからずっと一途でいるのだ。長年の想いに花が咲くことはなくて、いまだに芽のままであるが今はそれでいい。


 いつか、いつか花になってくれると思っているからだ。



「ねぇ、私のこと好き?」


 不意に甘い声が俺の耳を突いた。はっきりとしない空気の中でもその言葉と声は確かに聞こえた。


 勢いよく横を見る。意地悪そうに楽しそうに笑っている美帆がいた。


 日光のせいだろうか今の俺は顔が熱い。それに、美帆が光っているように見える。

 きっと気のせいだ。気のせいなのだろう。

 そんなはずはない。


 焦りと緊張と嬉しさが混じった頭は思考を停止させる。言葉を紡ごうとしても決して出てこない。

 それでもなんとか口を動かす。


「……うん」


 逃げるという考えは出ない。なんでだろう、今がチャンスだと思ってしまった。


 すると美帆は頬を緩めてははにかんだ様子を浮かべた。それだけでもう幸せを感じる。


「気持ちは嬉しいよ……でも――――――」







 人の恋は簡単に終わるものだ。数時間前に終わってしまった恋を蹴飛ばし学校を出る。



 好きだった人に……彼氏ができたのだ。そう……美帆に彼氏ができたのだ。


 あの瞬間に感じた思いはジェットコースターのように気持ちが昂っていたが今はもう深海の奥底だ。


 はぁ、失恋だ。初恋にして初失恋。ぶっちゃけ俺には無理だとは思っていたさ。


 まず住む世界が違う。それにあんな容姿端麗な子と付き合えるなんて無理がある。


 いや、そんな自分を卑下する必要はないか。別に住む世界が違えど想うことは自由だ。


 いやーでも悔しいな。

 夏だからか、分からない。頬を濡らす汗は思ったより透明だった。




「待って!!!!金城斗真きんじょうとうま!!」


 大きな声が薄い道路に響く。その声は俺の名前を呼んでいる。

 手で涙を拭いハッと後ろを向く。


「……誰?」



「……はぁ、はぁ、待ってね」


 膝に手をつき呼吸を整えている謎の彼女。


「大丈夫??」

「うん……だい、大丈夫だから……待ってね」


「えっと、初めまして山城紅音やましろあかねです!」


 短めの髪をサラッと手で上げデコを見せる。小さな顔と小さな顔が俺の心臓を打つ。


可愛い、というかかっこいい。そんな安直な考えが浮かぶ。


「好きです。付き合ってください!!」


 紅音は腕を伸ばし深く頭を下げた。

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