異世界転生して孤児になったけど、最強スキル"封印(S)"が開花して最高の冒険者になる

彦彦炎

転生

「……俺は、死んだのか?」


 視界は暗く、体の感覚もない。あるのは、ぼんやりとした意識だけだった。


 普段通りの通学途中、突然近くにいた女性の甲高い悲鳴が耳に響いた。鈍い痛みを感じ、手を腹に当てるとそこには、あるはずのない鋭い金属の感触があった。


 刃渡30㎝もあろうかというナイフが、俺の背中から腹を貫いていた。


 死んだという確信だけが、霧の中に差す微かな光のように、脳裏に焼きついていた。


「勇敢な魂よ。汝の行い、確かに見届けた」


 空間に響く声は、老いた男とも女神とも知れない。


「汝に新たな命と可能性を与えよう。異世界で、汝の真価を示すがよい」


 光が、降り注いだ。


 それが──俺の、新たな人生の始まりだった。


 ⸻


 目が覚めると、そこは薄暗い石造りの小屋だった。


 藁のような匂いが鼻をつき、薄汚れたボロ布が掛けられたベッドに寝かされている。身体は小さく、手足も細い。


(……子供の体?)


 鏡はなかったが、床に映る自分の姿は、七、八歳程度の少年だった。黒髪にやや色の薄い肌。人間族のようだが、周囲の子供たちと比べて明らかに浮いている。


「起きたか、カイル」


 そう呼んだのは、髪の薄い壮年の男。孤児院の院長だと名乗ったが、その目は慈愛よりも義務感に満ちていた。


「飯は一日一回、働かなきゃ抜きだ。お前、最近拾ったばかりで名前もなかったから、適当にカイルと名付けた」


 カイル──それがこの世界での俺の名前になった。


 異世界に転生したのは間違いない。だが、与えられたのは貴族の身分でも、英雄の称号でもなかった。


 俺はただの孤児だった。


 ⸻


 この世界、ヴァルゼルには魔法、スキル、モンスターが存在する。


 スキルは生まれた時に神から与えられる祝福であり、個人の価値を決定づける重要な要素だ。


 十歳になると《神殿》でスキルの鑑定を受けるのが一般的で、それまでの間、孤児たちは基本的に差別され、労働力としてこき使われる。


「おい、カイル。お前またパンの端っこしか残ってねえぞ」


「雑用だけは上手いもんな、無能くん!」


 同じ孤児院の子供たちも、容赦なかった。


 彼らは幼くとも、力のある子、器用な子、魔力の兆しがある子は重宝される。俺のように何もない「無印」は、最底辺の扱いだった。


(でも……待てよ)


 俺は“転生者”だ。ということは、何か特別なスキルが与えられている可能性がある。


(10歳になるまで我慢だ。スキルが判明すれば、すべてが変わる)


 そう信じて、日々の辛苦に耐えた。


 ⸻


 そして──その日が来た。


「10歳になったカイル、お前も神殿でスキルの鑑定を受けろ」


 ようやく訪れた、転機の時。


 神殿の奥、静かな光の中で俺は一人、祭壇の前に立った。


「スキル鑑定を開始します」


 祭司が神聖文字を唱えると、額に温かな光が注がれた。


【スキル:封印(S)】


 その瞬間、場が凍りついた。


「……封印?」


「な、なんてことだ。これは“スキルを封じるスキル”……いや、それだけではない」


 スキル名の横に輝く『S』の文字──それはこの世界で最も希少で、最も恐れられるランク。


「こ、こんな忌まわしいスキル……追放されて当然だ!」


 鑑定の直後、俺は神殿から追い出された。


 孤児院にも戻れず、身一つで街をさまようことになった。


(ふざけるな……!)


 ようやく掴んだチャンスだと思ったのに、結果は“恐れられる存在”としての追放。


 だが俺は、腐らなかった。


(なら、力で証明するしかない。最強のスキルで、俺を見下した全てを覆してやる)


 腹の奥で、何かが燃え始めた。


 それが──俺の本当の冒険の始まりだった。


 ⸻


 三日後。飢えと疲労の中、辿り着いたのは「ギルバーク」という中規模の冒険者都市だった。


 道端で倒れた俺を助けてくれたのは、一人の女冒険者。


「ちょっと、子供がこんなとこで倒れてんじゃないよ。名前は?」


「……カイル」


「ふうん。いい目してるわね。ウチの宿、手伝いながら泊まってく?」


 彼女の名前はリア。快活な剣士で、独り身ながら、宿兼酒場を切り盛りしていた。


 彼女の好意に甘えながら、俺は新しい生活を始めることになる。


 リアの店で働きながら、冒険者の世界を知り、強さを求めて剣を振るう日々。


 そして、ある日──俺のスキル「封印(S)」が、真の力を見せ始めるのだった。

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