第5話『祓いの効果』
神門をくぐり、石段を降りる。
右側の緑地、灯籠の傍らになにかいた。
なにか=白い毛のネコさん。
白い毛に黒い毛のブチが混ざっている。後ろ足をダランと伸ばし、ゴロンと横たわっている。まるで、射殺されたみたい。
射殺···
はっ、ネコさんが死んでいる!
わたしはあわてて石段を降りて、グルっと回って、ネコさんに駆け寄った。
う〜ん···
横たわる白いネコさん。
目をつむり、安らかなお顔。
前脚をチョコンとそろえて曲げて、後ろ脚はダラ〜ンと伸びてる。
耳の中、お鼻、肉球はキレイなピンク色。
剥き出しのお腹にはおっぱい。
女の子だ。
血は出てないけど、撃たれたという表現がピッタリ。
ネコさんの体がわずかに大きくなったり、小さくなったりと変化してる。
さわってみた。
よかった!!
温かい。
白いネコさんは射殺体のように寝てただけだった。
優しくネコさんをなでてみたけど、起きる気配がない。
起きたあなたにも会いたかったな。ちょっと残念。
石段の方から声がした。
「そのネコ、そこの喫茶店の飼い猫だよ。
いつも、そこでお昼寝してるんだ」
いかにもご近所さんみたいな、首にスポーツタオルを巻いたおじさんだった。
おじさんが指した方向を見ると、喫茶店があった。お店のガラス窓に白いネコさんの写真がイッパイ貼ってある。
よく見ると、ネコさんは首輪をしていた。名残惜しいけど、わたしはネコさんにバイバイして、その場を離れた。
ん?
いい匂いがする。
匂いの先、町中華があった。
『平和軒』
白暖簾に赤色の字で店名が書いてある。
グ〜っ!
お腹が鳴いた。
入ってみよ。
カウンター席と、2人掛けテーブルが4つのこじんまりとした店内。空いていた手前のカウンター席に座る。
お店の壁に貼られた涼やかな冷やし中華の貼り紙にも惹かれるけど、店内にただようスープの良い香りがたまらない!
ここはラーメン一択だよ。
あ、きたきた♪
ま、ラーメン一択とはいえ、そこはさすらいの食いしん坊、茜ちん。
チャーシューワンタン麺にしてみた♪
へへへ。
そして、そのお供は、瓶ビール中瓶。
こんな飲食店で出る商標登録入りのビール会社グラスって、優秀だよね。瓶ビールを飲むのに、1番適してる。大きさ、そしてこの飲み口の薄さ。
さてと、トクトクトクトク。
では、無事、大祓もできたということで。
ング、ゴクゴクゴクゴク···
プハッ♪
ヤッバい、おいし過ぎて、死ぬ。
グラス1杯飲み干してしまった。乙女にあるまじき行為、といいながらも、2杯目を注ぐ。
脂少なめのチャーシュー。その断面はキレイなピンク色。
鶏ガラダシの醤油スープにひたってやわらかくなったそれを一口。
んま〜っ!
すかさず、ビールをグビリ。
たまらんっ!!!
醤油ラーメンのあっついスープにひたった中華屋さんのチャーシュー、それをつまみにビールを飲む。
こんな黄金色の休日、他にないでしょ。
さて、麺も食べてみよ。
あ、細麺なのにプツンプツンといい歯ごたえ。これ絶対、手打ち麺だ。スープも優しいお味。
ワンタン、パクっと一口。
ん〜! これも手打ちだ。皮の食感が違う。生姜が香るのがいい。
こりゃ、おいしいお店を発見してしまった。
ふ〜、さて、お会計と······
あれ?
お財布、ない!
さっき神社で御守り買ったときまであったよね。
リュックのジッパー開いてる。
落としたな。
チャーシューワンタン麺と瓶ビール、調子にノッて2本。
これを皿洗いに換算すると···
脳内ソロバンをリトル茜が弾いていると、
「あ、いたいた!」
さっき神社の石段にいたタオルおじさんが店に入ってきたなり口を開いた。お店の人がおじさんを見て、毎度と挨拶。近所の常連さんみたい。
おじさんの手にはわたしのお財布。
「はい、これ落としたでしょ」
え!!
おじさんいわく、あのあとわたしが平和軒に入ったのを見たらしい。おじさんは用事を済ましたあと、喫茶店に寄ったら、喫茶店のお店の人が飼い猫のお昼寝場所の近くに財布が落ちてたといい、財布の中身を確認したら、わたしの写真入りの身分証明が。
そして、心優しいおじさんはお財布を届けてくれた。
「ありがとうございます〜!!!」
わたしは何度も、何度も頭を下げた。
すると、おじさんは
「きっと、利家公のお導きだよ」
といって、去っていった。
ありがとう、利家とまつ!
あ、呼び捨てはイカン!
利家様とまつ様!!
店を出ると、
ニャア〜♪
かわいい鳴き声のした方向を見ると、石段の上にさっきの白ネコさん。
ネコさんは神門をくぐって、姿を消した。
第6話『夏越大祓式·終了』へ続く🧳♪
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