【第十二話】輸送列車を守れ
ロイドが気がつくと、分析開始から一時間ほど経っていた。
レックスが神妙な面持ちで台座の横に立っている。
「もう分析は終わったのですか? 予定ではもう二、三時間かかると聞いていたのですが」
「申し訳ないが助けてほしい。先程、レアメタルハンターの
「あの赤い
「すまない。マナ通信でフォローはさせて貰うよ。気をつけて行ってきてくれ!」
ロイドが台座から転送装置へと移動したのを確認すると、レックスは手元の
「計算完了! 転送する!」
圧倒的な速度で計算を完了させると、レックスはロイドを転送させるのだった。
◆◆◆ ◆◆◆
ボード大陸での物流は様々な乗り物によって
輸送列車は陸の動脈ともいうべき物であり、非常に重要な役割を担っていた。
そんな輸送列車を希少金属の為にレアメタルハンターの
当然、希少な資材の輸送には護衛の冒険者や
次の瞬間、光の球がマナの収束とともに現れ、雷の様な閃光が貫通し、光とともにロイドが姿を現した。
「転送だと!? 馬鹿な!」
しかし、そのいずれもロイドに傷を付ける事は出来なかった。
「マルチロック完了! ライトニングフラッシュ行使!!」
ロイドが拳を突き合わせると同時に凄まじい閃光が走り、雷光が生き物のように獲物を絡めとる。
最後尾に取り付いていた
残っていたのは、真紅の
「……む? ダメージが無い? これは一体……」
『ディレクトリ、聞こえるか? 増援をそちらに転送した。協力して事に当たってくれ』
『成程、ワイズマンの
「大丈夫か? 君がディレクトリで間違いないよね?」
「……ああ、俺がディレクトリだ。こちらは問題ない。どうやら奴らの目的は中央車両のコンテナの様だ。前方車両にも敵が取り付いている状態だ。前の方とコンテナを頼めるか? 後ろは俺達で抑える」
そういうと、ディレクトリは後ろを頭で指し示した。
背後には冒険者らしき女性達が必死に応戦していた。
「ちょっと! ディレクトリ、勝手な事を言わないでよ! こんなの長く持たないわよ!」
「文句を言うな、手を動かせ姉貴。
「ちょっとー、ディレクトリもサボってないで早よ戦えー」
非難轟々である。
「……すまん、後は頼む」
肩を落としたディレクトリだったが、気を取り直し仲間の元へと向かって行った。
「……頼まれた!」
大変そうだと思いながらも、ロイドは足早に前方車両へと向かって行った。
『コンテナまで結構距離があるみたいだ。機動力のあるフォームで急行してくれ!』
『了解!』
ロイドは
すると、頭部に旋風が巻き起こり、渦を巻く。
全身の色も緑色へと変化してウィンドスタイルへと変身した。
続けてウィンドアーチェリーを
真空不可視の矢が殺到する
ある程度片付いた所で、風に乗りロイドは宙を舞った。
凄まじい速度で走り抜ける列車を物ともしない速度で追い抜く。
真空の矢を放ちながら列車と並走し、
敵の目的のコンテナ車に取り付こうとする対象にロイドは徹底的に矢を
右側から迫り来る大型
「ストームアロー、行使!!」
真空の渦が嵐のように殺到し、大型
そして、嵐がうねる様に渦を巻き、渦から真空の矢が無数に生まれると、中型
「……やり過ぎた、かな?」
『いや、良くやってくれた。今の損害で相手が撤退に移ったのを確認した。後は騎手や残骸を回収すれば……何!?』
『どうしました?』
『……すまん、やられた。マントの男に騎手が
その直後、マントを羽織った何者かが背後から迫ってきた。
ロイドは素早く弓を両剣として斬りかかったが、スライディングで避けられてしまう。
そのまま車両に残った残骸を回収すると、先頭車両へと去っていった。
「待て!!」
ロイドは風の魔法で加速をかけるが、中々追いつけなかった。
明らかに人外の動きを見せるマントの男に
『
『いや、妨害魔法だ。断定するにはまだ早い。……追いつくぞ!』
先頭車両で対峙するロイドとマントの男だったが、マントの男は背後の
ガタンと車両に衝撃が走り、ロイドは身じろぎした。
その一瞬の隙を突き、マントの男は車両から身を投げ出す。
「何ッ!?」
慌てて後方を確認した頃には遥か後方へマントの男は姿を消していた。
『ロイド! このまま直進すると停止線を突き抜けて住宅街へ突っ込んでしまうぞ!』
『先ずはこの列車を止めましょう! 運転室に向かいます!!』
『こちらは管制室に連絡をつけておく。そちらは頼んだ!』
ロイドは急いで運転室へ入ると、運転手が気絶していた。
抱き起こしてゆすってみると、運転手は意識を取り戻す。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……一体何が……」
「今この列車は暴走状態にあります。停止させたいので協力をお願いします!」
「何!? わ、分かった。直ぐに停止させよう……!」
運転手は慌てて運転席に着くと、速度を落とし、ブレーキをかけようとした。
しかし、一向に速度が落ちない。
「馬鹿な……故障している!? いや、破壊されたのか! 止まらない!!」
『魔力炉の火を落とせるか聞いてくれ。後、非常用ブレーキも』
「魔力炉の火は落とせますか? 後、非常用ブレーキは使用できますか?」
「魔力炉は緊急停止させている最中だ。非常用ブレーキは反応が無い!」
「……私が行きます。速度が急に落ちるかもしれないからしっかり
そういうが早く、ロイドは外へ飛翔した。
先頭車両の正面に回ると、背中を押し当て、風魔法で凄まじい向かい風を起こした。
勢いが削がれ、速度がガクッと落ちた所で、脚部のエアスラスターで前方向に噴射する。
徐々に出力を上げ速度を殺す。
『段階的エアブレーキか! しかし、ロイド、このまま速度を落とし切るには距離が足りないぞ!』
『承知の上です。ここからが……本番だ!』
ロイドはそういうと、
全身の色も緑色から茶色へと変わってゆく。
グランドスタイルへと変身したのだ。
腰の
「大地の精霊よ、我が声に応えよ! 古の契約に基づき、彼の者達に、その大いなる力で包み込み給え!
ロイドは地属性の魔法を唱えた。
本来は滑りやすい足元を滑り難くする魔法である。
地属性に属する金属とは相性が良く、非常に強い効果が発揮された。
これにより、急激に車両の軸、車輪、レールそれぞれの摩擦が増し、ブレーキをかけるのと同じかそれ以上の効果をもたらしたのだ。
しかし。
『駄目だ! 間に合わない! 距離が足りないッ!』
レックスのマナ通信が悲鳴を上げる。
周囲を見ればもう既に住宅街に差しかかっていた。
「南無三!」
ロイドは跳躍して列車の前に身を晒した。
周囲のマナを取り込み、重量を最大化し、グランドアックスで
ガッシャーン!!
凄まじい金属の悲鳴が周囲に響いた。
ロイドが正面から輸送列車を受け止め、ガリガリと枕木と
事前に速度を落としきっていたのと、ロイドのグランドスタイルの馬鹿力でどうにか暴走していた列車を停止させる。
『輸送列車、完全に停止。住宅街に損害無し。完璧だよ、ロイド!』
『よ、良かった……』
緊張から開放されたロイドは思わずその場にへたり込む。
こうして、
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