ラッキースケベ体質のTSバニーガールちゃん、ダンジョンへ征く。

ひるね坂ハル@TSバニー連載中

TSバニーちゃんと不運聖女

第1話 #TSバニー誕生の瞬間


「なぁ、おい、俺……おっぱい生えてるんだけど……どういうことだよコレぇ!」


 寝起き早々、叫んでいた。いや、叫ばずにいられなかった。


 つい数時間前まで“普通の男”だった俺の胸に、なぜか柔らかすぎる物体が付いていたからだ。しかも――。


「ことね! 鼻血出そう!! 見てコレ! 揺れる! ゆっさゆっさだよ!?」

「肌を見せんな! 谷間を主張させるな! 顔良すぎて恐怖なんだけど!!」


 目の前には、桃色のロングヘアをバッサバッサ揺らす美少女……いや、元・脳筋タンクの凛が、テンション爆上がりでハイパー自己紹介中。


 その隣、無表情でスッ……と近付いてきた白髪ロリ系美少女が、静かに呟いた。


「……バニーガール、えっちでいいと思う。うん」

「うんじゃねぇよ!!!!!!!」


 なんで俺がバニーガール姿の美少女になってるんだ。

 なんで凛も、ミリムも、女子になってるんだ。

 いや待て、そもそもなんで俺たちTSしてんの!?


 思い返せば――。

 数時間前、このイカれたダンジョンで“あの化け物”と戦ってたはずで……。




 ドゴォ!

 ガッ!

 ギンッ!


「ふっ!」

「疾ッ──────────!」

「“痺れろ”ッ──────────!」


 薄暗い地下の開けっぴろげた空間内で、こだまする幾重にも重なる金属音、それぞれの掛け声や呪文、そして──────────。


「こざか、しいワァ!」


 人間の体躯に山羊の頭部が乗っかったような不揃いな、不気味な生き物。

 しかも図体はデカく、ゆうに五メートルはある。

 そこに握られた身の丈ほどの大きな大剣を振り回す〝アイツ〟は今の惨状を引き起こしたダンジョンボス───ランク測定不能の怪人、山羊髭やぎひげと呼ばれた絶対者だった。


「やら、せるかよぉ!」


 ガチガチの赤い重厚な鎧を身に纏い、戦斧と呼ばれる身の丈以上の大斧と盾を構えた俺らのリーダーであるタンク兼切り込み隊長、紅 凛くれない りんが怪人の重い一撃を受け止め、お返しとばかりに薙ぎ払う。


「ぐ、ヌゥ……ッ!」

 

「凛、下がって! でき、た ……“穿て”!!」

「待ってましたぁ!」


 そしてその後方、優男風の白い法衣を纏った青年は俺らのパーティーの回復兼火力担当の白井戸しらいど ミリムが杖を高く掲げ、最大最強の術式を解放させた。


 グ、オオオオオオオオオオ!!!!


 ミリムの掛け声と共に、凛が渾身の脚力で後ろに跳躍すると同時、魔力を練りに練り上げ圧縮させた術式が解放された。


 “詠唱超短縮”、“魔力圧縮”、“出力倍増”のバフを三連掛けしたとっておきの大破壊を秘めた黒い渦巻きが、怪人の身体に直撃した。

 ──────────が。


「……やり、おる。だがな、それは、己れの致命打にはならン!! もう手詰まりか探索者共ォ! ならば、死ねェ!!」


 黒い渦巻き、ミリムの最大火力さえ耐え切った怪人が、吼える。

 相当なダメージは受けている。

 こっちも疲弊してるが、向こうも決して楽に戦っているわけでないのがわかる。


 故に痛みを力に変えるべく激昂しているのだ。

 怪人の体躯から迸る、尋常ならざる異形の黒い魔力を解き放ち、必殺の術式を行使するべく一層、密度が増した。


 この世に絶望を振り撒く為。

 人間を支配する為。

 そして、今、目障りな俺たちを殺す為に。


 だから。


 トスン、と。

 あまりに呆気なく、背中から胸にかけて、刀身に貫かれるなんてつまらないミスを犯す。


「……クソッ、じいちゃんの形見なんだぞ、これ」


「バカ、な……。どこから……」


「ずっと後ろにいたわ。お前がキレて意識を逸らすのを待ってたんだよ。あの渦巻きは囮だ」


 三人組パーティー、紅式部くれないしきぶの探索兼前、中衛担当の俺、村崎 琴音むらさき ことねだ。


 得意技はそのまんま、気配を消す事や武具の扱い全般である。

 今貫いた刀は元・忍者だったじいちゃんから受け継いだ、魔力で肉体を作るタイプの敵に非常に有効な魔力断ちと呼ばれる一太刀限りの宝刀だった。


 出す所に出せば数億はくだらない一品である。こんなところで使うことになるとは思わなかった虎の子だよ。マジで泣きそう。保険降りる?


「見事……。よもや、この己れがこんなところで死ぬとは……」


 賞賛とかいいから早く死んでくんねーかな。


「あ゛〜、疲れた……」

「やばかった……」

「今回のはさすがに死ぬかと思ったなぁ……」


 刀身に貫かれたまま動けない怪人と、それを放置して横たわる俺たち。


「……あの、死闘を繰り広げた相手に対する賞賛とかない感じ? 己れ、結構イイ線いってたと思うんだけど……」


「早く死ね」

「どうでもいい」

「数億立て替えてくれんのか? あ?」


 ちょっと悲しそうな山羊頭の人外に罵倒をぶつける。


「もうちょっとさ……なんかこう、あるじゃン? 勇敢な探索者に紙一重で負けた己れがかっこよく散る的な……」


「なんでテメーの散り際に一役買わなきゃいけないんだよ」

「死んでほしい」

「もう人生ロスタイム突入してんだがらさっさと消えてくんない?」


「めちゃくちゃ言うじゃン……」


 おめーのせいでこちとらBランク審査の任務中断になってるんだわ。

 この日の為に装備新調して幾らかけたと思ってるんじゃボケカス!

 全部ズタボロになって大赤字だわカス!


「……ククク、クァーハッハッハ!」


「えっなに」

「こわ」

「急に笑うじゃん」


 マジでなに? もう帰りたいんだけど。


「見事だ勇敢なる探索者達よ……。

 このまま死ぬのは惜しい……故に、貴様らに呪いをかけてやる。あとちょっとえっちな仕様にしておいた。TSの狭間に揺られて踊り狂うがいい! ハハハ!!!」


 何言ってんだコイツ頭おかしくなったのか、とか思う間もなく。

 高笑いしたままそう宣った山羊髭から突如として溢れ出す、先ほどとは比べ物にならないレベルの禍々しい魔力の奔流。


「俺の後ろに下がれェ!」


 だが、そこは俺たち探索者である。

 すぐさま危険を察知したリーダーが飛び起きる。

 俺も同じくズタボロで横たわっていた体をすぐさま起き上がらせ、横にいたミリムを抱え盾を構えた凛の後ろに滑り込む。


「さらばだ。良い、TSライフを──────────」


 死に際の台詞がそれでいいのか、オマエ。


 カッ! と光線のような質量を持った光が怪人の身体から放たれる。

 文字通り光速の、視認して反応することすら許されない理不尽な閃光。


 それは、凛の掲げた大盾をも軽々と貫通し、巨大な地下空洞のボスの間を隅々まで照らす程の眩い光に俺たちは気を失う事となった。





「ミリム! ミリムゥ! 起きろォ! 俺がなにに見える!? 美少女か!? 美少女に見えるか!?」


「見える……。あとうるさい……」


「そうだよなぁ! 自分でも引くくらいの美少女だよなぁ! でもお前も相当なもんになってんぞぉ!? ほら!」


「……ワァ、美少女〜」


「もっと焦れや!」


 う、うるせぇ〜!

 死闘を繰り広げた後なんだからゆっくり寝かせろや。

 コイツらはいつもこうである。


 五年前、急に探索者になると宣言し振り回されることになったリーダーに、去年加入したばかりの腕はめっぽう立つがなに考えてるかイマイチ掴みきれない回復兼火力担当。


 悪ノリに悪ノリを重ねる二人であるが故、たまに来る入団希望者が癖の強さに匙を投げ諦め去っていくのを何度見送ったことか。

 Cランク以上のダンジョンの適正人数知ってる? 五人から七人だよ馬鹿野郎。


 三人で挑むのは自殺行為って百万回言われて来たわ。

 表向き少数精鋭みたいな事になってるけど俺たちの投資者はあっ(察し)ってなってるからな。


「な、なぁ! デカくない!? 俺、おっぱいデカくない!?」


「……大きい。ちょっと悔しい」


「順応早くねぇ!? あとこのビキニなに!?」


「……えっちでいいんじゃない?」


「そ、そっかなぁ〜!」


 マジでウルセェ……。

 うぅ、なんだこの二日酔いみたいな最悪な気分。

 あとベッド硬ぇ。なんか土の臭いするし。


 諦めてうっすらと目を開けると、そこに広がるのは桃色の髪をしたやたら身長のデカい女とロリっぽい白髪の女が言い合ってるのが視界に入って来た。


 まず目についたのは、桃色のロングヘアをふわふわと揺らした長身の美女。腰まで伸びた髪に、元気そうな目元。やたらスタイルが良くて、特に胸と尻のボリュームが尋常じゃない。着ているのはなぜか赤いビキニアーマーで、露出度も高め。


 なぜビキニ?


「えっちなのはいいこと。うん」


 その隣にいるのは、白銀のサラサラなストレートロングに、淡い水色の瞳を持つ儚げな美少女。

全体的にスレンダーで、いかにもクール系。着ているのは白を基調とした清楚な法衣。


 表情はあまり変わらないが、なんかずっとこちらを観察している感じがして落ち着かない。

 この女二人に共通してるのは、普段ちょっとお目にかからないレベルの美少女ってところだ。


 ……いや誰だよ。

 マジで誰?

 て言うかここさっきのボス部屋じゃん。

 なぜ俺は正体不明の女二人が言い合ってる横で呑気に寝てたんだ。


「あ、ことね起きてる」


「なに!? アッ! ほんとだ! ことねぇ! 見ろぉ! 美少女だろぉ!?」


「アッアッ、やめてくださいやめてください。美少女怖いんでマジでやめてください」


 俺と目が合った白髪の女が呟くと、ぎゅるんっとこっちに視線を合わせる桃色髪の女。

 戦士顔負けの挙動でこっちに突っ込んで来たかと思えば俺を起き上がらせてガクガク肩を揺さぶりながら至近距離から叫んで来た。


 顔面良すぎてちょっと直視できないから離れてほしい。

 お前みたいな面のいいやつはみんな俺のような日陰者を笑って楽しんでるんだろ詳しいんだよ俺は。


「そんなしょーもない童貞ムーヴ今はいいんだよぉ! お前も美少女になってんだよぉ! ていうかことねだよなお前ぇ!」


 なぜ俺が童貞なの知ってるんだ。

 そもそも何言ってる。俺は村崎琴音だが、美少女ではない。美少女みたいな名前だね(笑)みたいな弄り方はされるが。

 学生時代の灰色の記憶が蘇ってきてブルーになってきちゃったな。


「ほい」


 いつの間にか隣に近付いて来た白髪の女が手鏡で俺の姿を見せてくる。


 ──────────そこには、息を呑むほど艶やかな美少女が映っていた。


 光を吸い込むような深い黒髪は、ゆるやかな波を描きながら背中まで流れ、まるで濡れ羽色の絹のよう。少し吊り上がった目元は艶を帯びた暗い瞳と相まって、どこか退廃的な陰りを孕んでいる。左目の下に小さく浮かぶ泣きぼくろが、そのアンニュイな色気に拍車をかけていた。


 形のいい鎖骨が覗く細い肩、うっすらと浮いた腰のくびれ。肌は透けるように白く、バニーガール衣装に包まれた身体は、思わず目を逸らしたくなるほど曲線的で――何より胸元の膨らみが、現実感を持って迫ってくる。


 見た目はどう見ても、男を破滅させそうなタイプの美少女。


 ……いや、誰だよこれ。


「……なんぞこれ」

「その反応やっぱことねだなぁ!?」

「……美少女になったね。良き良き」


 各々の反応を返してくる美少女二人組。

 いや、薄々わかってた。わかってたさ。多分コイツら……。


「ミリムと、凛、か……?」

「そうだよぉ! 五年来の親友凛だよぉ!」

「ミリムだよ〜。やっほ〜」


 天真爛漫に笑顔弾ける桃色髪の女、凛と無表情に手を振ってくる白髪女、ミリム。


 どっ、どういうことだよコレェ!!!!!!






【ダンジョン関連総合】スレ part2127


~ネームド討伐速報・探索者情報もあるよ~



552 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:20:11.32 ID:tYqgW8Mf

【速報】山羊髭、討伐された模様【え?】



553 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:21:01.55 ID:HG3sLO42

ファッ!? マジかよ!



555 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:21:37.81 ID:Wlq21qqY

ソースあるんか?



556 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:22:12.88 ID:0eAjTxY4

連合会の討伐済リスト見てきたけど、確かに「山羊髭」って名前載ってるわ。マジで終わったらしい。



558 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:23:08.23 ID:4nOAvxUX

どこが倒したんだよ? 紫電剛拳か?百鬼夜行?それとも刀剣連盟あたりか?



580 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:27:55.33 ID:Tx9kd0Zn

紅式部ってとこらしい



583 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:28:49.02 ID:h57QdN9P

どこやそれ……



585 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:29:05.16 ID:JmPdN3rB

聞いたことないな。Bランクの無名か?



591 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:30:19.47 ID:M8u9TzD1

Cランクやで。わりと最近結成した若手パーティーっぽい



593 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:30:56.00 ID:nq5m0eIo

は??? Cランクがネームド討伐!? 嘘だろ?



595 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:31:47.60 ID:FT4pXWsK

山羊髭ってデバフと自己バフ完備で、近接もこなす上に重力系の高位魔術まで使えるイカれ個体やろ。Cランクじゃ無理ゲーやん



598 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:32:40.11 ID:sFjLO0xX

近接で詰めるとカウンター飛んでくるしな、俺はあいつに一発で肋持ってかれた



600 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:33:20.67 ID:Ge8W4Ye8

ほんとになんで討伐できたのか謎すぎて草



601 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:33:58.92 ID:cfSOba8v

戦闘記録も今のとこ非公開らしいし、誰も真相わからんらしい



603 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:35:04.32 ID:TzfIY3OC

そういや山羊髭から逃げ切ったやつもいたよな、あの不運聖女アンラッキーシスターとか呼ばれてた子



605 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:36:15.29 ID:epkBzq7H

あの子の配信マジで草だった。走って逃げ回るだけで回避しまくって、最後は山羊髭側が諦めてたの笑ったわ



607 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:37:44.92 ID:4cB7RqZ7

配信きっかけでバズってたよな。不運なのに生き残ってるってどんな体質だよ



609 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:38:11.47 ID:Lt4vG8Ek

紅式部、今後どこのギルドからも声かかりそうやな。若手枠で注目されるかも



610 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:39:03.77 ID:RfXHuzp9

ぶっちゃけ今、人手足りてないしな。新人であれ倒せるなら引く手数多やろ



612 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:39:55.82 ID:D9s8NaI6

争奪戦の予感。でも、あのパーティー、身内感強そうだからフリーじゃなさそう



613 名前:名無しの探索者 投稿日:2025/06/30(月) 14:40:34.09 ID:zUnkMaXL

こういう若手が上がってくるの、正直好きだわ。

紅式部、マジで期待してる




-あとがき-

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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