僕が見下した中年派遣、まさかのベストセラー作家でした ~しかもあの新作、もしかして僕がモデル!?~
江良 双
第1話 僕は悪くない
僕の名前は
だけど不景気のせいか、僕が引継ぎをしてからというもの、徐々に受注が減ってきたんだよね。相手が言うには、以前から発注を減らそうって話になってたみたいなんだよ。たまたま引継ぎのタイミングで発注が減ったって訳。
僕が悪い訳じゃないのに社内は険悪なムードで、
「なんでお前が引き継いでからこんなに売り上げが減ったんだ?」
と、現場を知らない課長が僕のせいにしようとするんだよ。やってられるかっての。当然、引継ぎした斉藤先輩にも話があったみたいで、まさかそんなに受注が減るとは思わなかったなんてブツブツ言いながら方々に連絡入れてたけど、今更遅いってんだよな。
斉藤先輩、課長代理みたいなポストで別の仕事するみたいだけど、ほんとに大丈夫かな? 他人事ながら心配だよ。しっかりしてくれよな。
地方の支社勤務なのだがほとんど支社には顔を出さず、グループ会社のオフィスの共用スペースで仕事をしている。そのオフィスのスタッフが、僕の受注した業務を請け負う事になるので、現場と密な関係を築くために僕たちがそこにいる訳だ。
グループ会社の課長である山本さんは、得意先を回る時に付いてきて貰ったり、受注内容の確認の会議に参加したりしている。しょっちゅう電話してるけど、先方からのわがままだったり、無理な注文を安請け合いしてるみだいだ。
オフィス内は大半が製作を担当するスタッフで、それとは別に製作物を校正するスタッフも存在する。
製作スタッフはクリエーターなので、営業の僕が想定するよりもはるかに良い物を作ってくれたり、突然舞い込んだ仕事も文句を言いながらもきっちり仕上げてくれるのでとても頼もしい。
しかし校正の奴らは違う。出来上がった物の間違いを見つけるだけの、間違い探しと塗り絵のような単純作業ばかりしてるんだよ。仕事に貴賎は無いなんて言葉があるけど、あんな仕事は機械ですればいいんじゃないかと常々思っている。人件費の無駄遣いだよな。
しかも、最近は受注が減ったせいで稼働も随分少なくなっているようだ。暇そうにしている派遣社員たちを見ていると、夜遅くまで働いている身としては腹が立ってしょうがない。
特に定時になったらさっさと帰る
僕らが企画した忘年会なんかにも一度も参加した事がないし、同僚と飲みに行ってるなんて話も聞いた事がない。本当に何のために生きているんだか分からないような地味で暗い奴だ。
最近、新入社員の
頭の良い
「君、人生何周目?」
なんて言っちゃった。ほんと優秀な女性社員だよ、わが社は安泰だな。しかも彼女は見た目もかわいらしい。すらっと背が高く、隙の無いスーツ姿できびきびと仕事をする様は、まさにデキる社員の鏡だ。
「分からない事があったら何でも聞いてよ」
頼もしさをアピールするために僕は先輩風を吹かせた。
「そうですか。ではこの件は……?」
とたんに結月ちゃんから驚くような鋭い質問が飛び出す。そんな事、僕に聞かないでよ、と思ったけど何でも聞いてと言った手前、そんな事は言えない。
「うーん、ちょっと分かんないな。でも大丈夫、誰に聞けばいいかは分かるから」
僕はそう言って
「柴田さーん、これってどうでしたっけ?」
僕は柴田さんに結月ちゃんから聞かれた事を尋ねた。
「あん? それは前にも説明しただろ? しっかりしろよ」
柴田さんは呆れたように僕に言った。くそぅ、新人の前で恥かかせるなよ。
「ああ、そうでしたね。思い出しました」
僕はそう言って自分の席に戻った。しょうがない適当に
「……、分かりました。ありがとうございます」
結月ちゃんはふうとため息を吐いて話を終わらせた。良かった、これ以上突っ込まれたらしどろもどろになるとこだった。物分かりが良くて助かるわぁ。
「おっと、もうこんな時間か。今日はどうするの?」
僕は結月ちゃんに今後の予定を確認する。予定が無いのは分かっている。何しろ今は僕の下で教育を受けているのだ。
「今日は一度支社の方に顔を出してから帰ります」
結月ちゃんはテーブルの上を片付けながら言った。そっか、直帰ならどっか飲みに誘おうと思ったんだが、支社に戻るならしょうがない。
「そっか、お疲れ」
僕はそう言って結月ちゃんを見送った。
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