前世は大悪党の補佐でした。~今世は普通を目指します~

@Shirahase99

第1話 転生しました。

「これでおしまいになりますね、シェザ。」

 

 この言葉道理の状況だった。私は今、目の前の男を断罪しようとしている。

 私の後ろには、息子を心配した王妃や剣を持った複数人の騎士の男達やこの国の未来を背負う侯爵家の人々がいる。

目の前の男はこの国、ウィルフィアンセの第二王子シェザライアだ。絹のようにサラサラした黒髪に、漆黒の目を持っている男は森のはずれの小屋に身を寄せていた。

王子として似つかわしくない格好で、背後の森を背にしてこちらを睨んでいる。今の状況はいうなら、逃亡した犯人を捕まえようとしている瀬戸ぎわだろう。

 

 彼の罪状は殺人。この国だ最も尊い人、国王を殺した犯人として身柄を拘束されていた。しかし彼は第一発見者であったはずだ。けれどなぜだか、駆けつけた時国王の遺体の傍らに立っていた彼の顔は笑みを浮かべていたという使用人の言葉と、部屋が密室であったことなど彼以外には犯人が考えられないという状況に陥ってしまったのだ。

 王国に反旗を翻した、極悪人、殺人犯、親殺し。この国で一番の悪人だと新聞の一面を飾っていた。

 

 かくいう私はその人の友人であり、文官として補佐をしていた。そして、裏切った振りをした。補佐でありながらも、主人を裏切った国の協力者というのが私の立場だ。

 王子をシェザと略称で言えるほど仲が良かった印象だったため、王子の抑止力としての人質としての役割を貸されながらも、後ろの男たちに私は調査に協力し、今、まさに第二王子は断罪されているところだった。私は、彼のことを助けるために彼らと協力者となって情報を集めた。けれど、今の状況では、シェザにとっては私は完全な裏切者となったであろう。

まずは敵を欺くには味方からというが、けれど時間が足りなかった。時すでに遅く、彼は今、死の瀬戸際に立たされている。私は本当に裏切になってしまった。彼は眉間に皺を寄せ、目には、憎しみが詰まった憎悪と悲しみの目で私の姿をとらえている。当たり前だろう。

 

 私はその目を見て、フッと微笑んでいた。

 そして、前に進みながら手に持っていた剣を抜き、振り下ろした。

もう、解決策なんてない。手練れの騎士たちに叶う剣術もない。でも彼らの意表を突く何かが欲しかった。ほんの少しでいいから、ほんの少しでも彼が逃げられる隙が欲しかった。真実を暴けるための彼の生き続けられる時間を延ばしたかった。後ろを振り向いて、王妃を人質にとっても良かったし、足止めのために誰かの足を挿しても良かった。


 けれど、私は赤の他人でも、私よりかは価値があるような人生に思えた。、天涯孤独の私と比べれば家族がいるであろう人たちを傷つけることは出来なかった。

一人には慣れていた、けれど一人だったからこそ、当たり前の日常を送る人たちのその生活の価値をよく理解しているつもりだ。

   

 どこかふわふわした気持ちで、軽い足取りで彼の前に立つ。

 

 彼の目の前は真っ赤に染まっているだろう。なぜなら、私の体から血が流れ出ているからだ。剣は私の胴体に突き刺さり、体を貫いている。そう私はこの場で、自害した。そして、息を吸いめいいっぱい叫んだ。


「走って、走ってください!振り向かないで!」


彼はこちらの状況に理解が追い付いていないが、迫力に圧倒され背後の森に急いで走り出した。彼の顔は困惑と悲しみの表情をしていたが、指示された通り振り向くことはしなかった。

 そして、この状況に困惑したのは彼だけではなかった。困惑させれただけでも成功だろう。騎士たちは、私の指示に裏切ったとすぐに気づき、シェザを追いかけようとするが私が必死に彼らの足をつかみ、この場に押しとどめる。もう意識も朦朧としながら、一生分の力を籠める。

「おい、放せ!なぜ、極悪人を庇う!」

 

 私もどうして一人の人間に命を懸けられたのか、私だって不思議でたまらない。

私が知る彼は、極悪人なんかではないし、彼は私にとって初めての友達だったのだ。孤児の私に、こうして価値あるようにしてくれたのも彼だった。もともと、この世に執着はなかったように思える。ただ、いつまでも笑って、くだらないことを言い合える日常を守り抜くために努力していたにすぎない。そんな、人生全部の理由を託していた友達にいなくなられたら、それこそたまったもんじゃない。


体を蹴られるも、まだ懸命に足をつかむ。

だが、徐々に力を失っていく。


最初にシェザにかけた言葉どおりとなった。


『これで(共に歩める道は)おしまいですね。シェザ。』


ああ、平穏を私たちにくれないくそったれな神様。観てますか。

ただの日常が続くことをお祈りし続けたはずなのに、どうしたらあなたは日常をくれますか。


この問いは、知性の化け物と呼ばれた、第二王子女性補佐官セレスティアをもってしても解けない謎であった。

 こうして、天才、奇才と呼ばれながらも平凡をのぞみ日常を送っていた女性文官セレスティアの人生の幕は閉じた。

彼女が最後に見たものは、顔を覆ってうなだれている王妃の姿だった。


来世は普通の家族のもとに生まれて、普通の生活を送りたい。


そして、転生した。なんの因果か、神を罵った天罰か、彼女の期待は裏切られ前世と一緒の孤児からの再スタートだった。


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