心の花の国

いりえ。

序章

とある妖精の森について

 私が生まれる何十年も前のことでした。

 その森にはたくさんの妖精が住んでいて、

 綺麗で透きとおるような歌声がよく聞こえていたそうです。


 だけど、妖精たちは歌を歌うよりも人間をおどろかすイタズラが大好きでした。

 森に入ってきた人間にウソをついたり、幻を見せて迷わせたり……。


 人が慌てふためく様子を、木陰からのぞいてクスクスと笑ったりして。

 それはもうとても楽しかったのでしょう。


 何人も何人もだまし、誰が一番多く人間をこわがらせることができるか、

 妖精たちのあいだで競争までしていたそうです。


 とくに、子供は格好の標的でした。

 手のひらにおさまるほどの小さな体で近づき、突然大きなクマに化けたり。


 最初は親切そうに優しく話しかけてきて、最後にウソをついて森に迷わせたり。

 大人よりも、子供のほうがだましやすかったようです。



 ある日、大変な事件がおきてしまいました。


 イタズラで幻を見せた子供が足をすべらせ、川におぼれてケガをしました。

 命に別状はなかったのですが、人間の大人たちはとても怒りました。


 妖精たちもやりすぎたと反省して謝ったのですが、人間は許してくれません。

 何度も何度もだましてきた妖精を人間は信用しませんでした。


 そして、ついには森からおいだされてしまったのです。

 妖精たちは途方にくれて、新しく住める森を探す旅にでました。


 おいだされた妖精がいまはどうしているのか、誰も知りません。



 ここまでが、私の聞いた「妖精の森」にまつわるお話です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る