陰陽師を騙る悪魔憑き
雪宮明羅
#00 悪魔が終わりに騙る始まりの噺
人は何故、光の届かぬ暗闇に恐怖するのか。
火が使えず野のもの一切合切が敵だった原初の記憶が刺激されるから?今も主ら只人の周囲は敵ばかりであろうに。
これが平和ボケというやつであるか。
情報の入手の殆どを視覚に頼っているのにそれが通用しなくなるから?ふむ。少しばかりましにはなったな。あと少しばかり近づけんか?
いや、あまり答えを出し惜しみするのも雅ではなかろう。
平易なことだ。闇は我等、人ならざる者の領域であるからよ。妖怪、物怪、幽霊、化生、怪物、悪魔、化物等々、呼び名は様々あれど主ら只人と異なる存在である。
古来より、と言っても数千年前のことであるが只人は己と人ならざる者との境を定めた。すなわち光が届くか否かである。
陽光が照らす時間は大いなる力が加護を与えた人間の時間であり、光なき暗黒は醜悪な者等の過ごす時であるとな。
偶然にも我等、人ならざる者にとってもその境界で区切られた領域は心地のいいものであった。とはいえ近頃の主ら只人は徐々にその境を侵し、一切を己が物にしようとしておる。
只人というのは傲慢なことよ。我が言えたことではないがな。
偉そうなことを言っているがそもそもお前は誰だ?なんだ今頃になって我の名前を欲するか?最初の問いかけには辿々しいながらも答えを返しておったのに。
まあ良い。
我が名はバアル。或る時は愚民どもが崇め奉る存在であり、或る時は10を超える軍団を率いる支配者、また或る時は契約を交わしたものに知識と真理、力を与える至高の存在。
強欲の系譜から出でし随一の存在。
我が何を言っているか分からずとも月光に照らされしこの優美な姿を見れば我がどう言った者かは理解できよう。左様、人ならざる者である。所謂人外だ。
矮小なその脳にも通ずるように示すならソロモン72柱が筆頭の悪魔であったと言えば無知蒙昧なる主等只人であっても知っておろう。
何?悪魔は分かるがソロモンにバアルも知らぬだと…… 。大いなる力に惑わされることもなく、信心深くないのは好ましく思えるがここまで知識がないのも困り物であるな。
馬鹿にするな?嗚呼、喧しいことだ。危険でないと思えばこうも騒ぎ出すか、厚顔無恥な連中よ。
む?しばし待っておれ。
おい!どこへ行く⁉︎まだ本調子ではなかろう、そもそも身体を適応させる為に態々ぬしを此処へと―― 何?つまらなそう?ぬしはそうやって何時迄子供じみたことを……。
そんな者は放っておくが良い。いい加減ぬしも多くを従える系譜の長となった自覚を持たぬか。いつまでも只人のような振る舞いをしてはならぬ。あー聞こえませんではない。耳を多少塞いだところでこの程度の距離で聴力が損なわれるわけも無かろうに。おい、勝手をするなと言うておろうが!
はぁ立場が変じようとも苦労は絶えぬものだ。ぬ?まだ主らは此処におったのか?そもそもここで何をしておる?
嗚呼、そうであった日向を生きる只人に此方側の一端を案内してやるつもりであった。
ふむ、どうせなら始まりから語ってやるとするか。物語は主等只人にとっては良い娯楽になるのであろう?数多の喜怒哀楽に存分に心を揺れ動かされよ、より深く享楽にふけるがよい。それが我等の望みでもある故に。
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