パート31: 芽生える独占欲

 大盛況のうちに模擬店を終え、夜は学園祭の締めくくりである後夜祭のダンスパーティーが待っていた。

 きらびやかなシャンデリアが輝くホールで、生徒たちは思い思いに着飾り、ダンスを楽しんでいる。


「みんな、今日はよく頑張ったな。ご褒美に、プロデューサー直々にダンスのお相手をしよう」


 僕がそう言うと、ドレスアップした三人の顔がぱっと華やいだ。


 まずはリナ。緊張でカチコチになっている彼女の手を取り、優しくリードする。

「マスター……私、夢みたいです」

「僕もだよ、リナ。君は本当に綺麗になった」

 僕の言葉に、彼女は幸せそうに頬を染めた。


 次はフェンリル。ワルツなんて踊れるはずもなく、僕たちは二人で元気なステップを踏んだ。

「マスター! ダンスって楽しいな!」

「ああ。君と踊ると、こっちまで元気になる」

 彼女は犬のように、僕の胸に頭をぐりぐりと押し付けてきた。


 そして、最後はセレスティア。銀色のドレスをまとった彼女は、まるで本物のお姫様のようだった。

「……光栄ですわ、アラン」

「僕の方こそ。君のような美しいレディと踊れるなんて」

 僕たちは、吸い寄せられるようにワルツを踊る。彼女の氷のような仮面が、少しだけ溶けているのが分かった。


 だが、その時だった。

「失礼。麗しのセレスティア嬢。この私と一曲いかがかな?」

 横から声をかけてきたのは、他校の制服を着た、いかにもキザな王子様タイプの男だった。


 セレスティアが困ったように僕を見る。

 僕はにっこりと笑って、その男の前に立った。

「申し訳ありませんが、彼女は本日のMVPでしてね。プロデューサーである僕が、今夜は独占する契約になっているんですよ」

 僕が適当なことを言うと、男は「プロデューサー?」と眉をひそめ、レベル1の僕を見て鼻で笑い、去っていった。


「……ありがとうございます、アラン」

 セレスティアが、ほっとしたように息をつく。


「気にするな。僕の最高傑作を、他の男に渡すわけにはいかないからな」


 僕がそう言って微笑んだ、その瞬間。

 セレスティアは、突然僕の胸に顔をうずめ、ドレスの裾をぎゅっと握りしめた。


「……っ!」

「セレスティア?」


「……ずっと、そばにいてくださいまし」


 か細い、しかし強い意志のこもった声だった。

 その言葉と行動は、明らかに他の二人への牽制。

 それを見たリナとフェンリルが、「あ!ずるい!」「俺も!」と僕に詰め寄ってくる。


(おや、これは……)


 僕の周りで、可愛らしい正妻戦争の火蓋が、今、切って落とされた。

 プロデューサーとして、この新たな問題も、実に興味深い育成案件になりそうだった。

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