パート30: 笑顔と連携

 学園祭当日。

 僕たちのクレープ店『アランの秘密の温室』は、開店と同時に長蛇の列ができていた。


「へいらっしゃい! うまくて安くて可愛いクレープ、どうだー!」


 狼の耳と尻尾をぴこぴこと動かしながら、フェンリルが元気いっぱいに呼び込みをしている。

 その隣では、リナが真剣な表情で生地を焼き、セレスティアが芸術品でも作るかのように、フルーツとクリームを盛り付けていく。

 美少女三人が甲斐甲斐しく働く姿は、それだけで最高の客寄せだった。


「すごい……! すごい行列です、マスター!」

「当たり前だ。僕のプロデュースなんだからな」


 僕は裏方で材料の補充や指示を出しながら、その光景を満足げに眺めていた。

 最初はぎこちなかった三人の連携は、目の回るような忙しさの中で、見違えるようにスムーズになっていた。


「セレスティアさん、次の生地、いきます!」

「ええ、分かっていますわ、リナ。……フェンリル! チョコレートソースが切れていますわよ! 早く補充を!」

「おう、任せとけ、セレス!」


 いつの間にか、彼女たちは互いを名前で呼び合うようになっていた。

 特に驚いたのは、セレスティアの変化だ。

 リナが生地を焦がしそうになると、すかさず「火が強すぎますわ!」とフォローを入れる。

 フェンリルが客の対応に手間取っていると、さりげなく横から助け舟を出す。

 その口調は相変わらずぶっきらぼうだが、行動には仲間を気遣う優しさが滲み出ていた。


 次々と売れていくクレープ。

 鳴りやまない客の「おいしい!」という声。

 そして、忙しさの中でお互いに顔を見合わせ、自然と笑みをこぼすヒロインたち。


(ああ、いいな。この光景は)


 誰かを蹴落とすためのざまぁでも、自分の優越感に浸るための娯楽でもない。

 ただ純粋に、彼女たちの笑顔が、僕にとっての最高の報酬だと感じていた。

 僕たちのチームは、この一日で、戦闘訓練一ヶ月分以上の成長を遂げたに違いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る