パート29: はじめての共同作業

「クレープ……ですの? それは一体、どのような食べ物ですの?」

「なんか甘くてうまいやつだろ! 俺、食ったことあるぜ!」

「わ、私、作れるか不安です……」


 模擬店の準備日。

 温室に運び込まれた調理器具を前に、三人は相変わらずバラバラな反応を見せていた。

 特に、箱入り娘のセレスティアと野生児のフェンリルは、料理経験など皆無に等しい。


「まあ、見てろ。まずは僕が手本を見せる」


 僕は手際よく生地を作り、熱した鉄板の上に薄く広げる。

 じゅわー、という音と共に、甘い香りが温室に広がった。


「わあ……! いい匂い……!」


 リナとフェンリルが、目を輝かせて鉄板を覗き込む。

 セレスティアも、興味がないという顔をしながら、横目でちらちらと僕の手元を見ていた。


「よし。役割分担だ。リナ、君は手先が器用だから生地を焼く係。セレスティア、君は美的センスがあるから盛り付け係。フェンリル、君は元気が取り柄だから呼び込み係だ」


 それぞれの特性に合わせた役割分担。これもプロデュースの一環だ。

 最初はぎこちなかった彼女たちも、僕の指導の下で練習を繰り返すうちに、少しずつ様になってきた。


「リナ、生地が厚すぎますわ。もっと薄く均一に」

「う、うん! ごめん、セレスティアさん!」


「セレスティア! クリームもっと盛ってくれよ! そっちのが美味そうだろ!」

「黙りなさい、このわんこ! 品性がありませんわ!」


 相変わらず口喧嘩は絶えない。

 だが、そのやり取りは、以前のような険悪なものではなくなっていた。

 同じ目標に向かって作業する中で、彼女たちの間に、かすかな連帯感が芽生え始めているのが分かった。


(いい傾向だ)


 リナが焼いた少し不格好な生地に、セレスティアが文句を言いながらも綺麗にクリームを絞り、フェンリルがそれを嬉しそうに頬張る。

 その光景は、僕の心を温かいもので満たした。

 これは、僕が作りたかった「チーム」の、最初の形なのかもしれない。

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