パート12: 片鱗と波紋

 リナが起こした氷結事件は、学園に大きな波紋を広げた。

 相手が先に手を出したこと、そしてリナが過剰な反撃をしなかったことから、お咎めはなし。結果として「正当防衛」と判断された。

 しかし、事実は噂となって学園中を駆け巡った。


「聞いたか? 平民のリナが、あの取り巻きを無詠唱魔法で一蹴したらしいぞ」

「ああ。今まで落ちこぼれだと思ってたが、実は力を隠してたのか?」

「いや、危険なだけだ。いつ暴走するか分からん」


 賞賛、驚愕、そして警戒。

 様々な視線がリナに突き刺さる。以前の憐れみの視線とは違う、得体の知れないものを見る目に、彼女は少し戸惑っているようだった。


「マスター……。私、なんだか怖くて……」


 放課後、秘密の温室でリナは不安げに僕に打ち明けた。

 僕は彼女の頭を優しく撫でる。


「気にするな、リナ。これは計画通りだ。むしろ、波紋は大きければ大きいほどいい。君はもう、誰にも見くびられる存在じゃないんだ」


「計画、通り……」


「ああ。そして、この波紋を決定的なものにするための、次の舞台が用意されている」


 僕は壁に貼った学園の年間スケジュールを指さした。

 そこには、赤丸で囲まれた文字が書かれている。


「――2学期、実技試験」


 それは、生徒の成績に大きく関わる重要なイベントだ。


「この試験で、君の力を学園の全てに見せつける。君がただの落ちこぼれではないこと、そして本物の天才であることを、連中に思い知らせてやるんだ」


「私が……天才……?」


「そうだ。君は僕が選んだ最高傑作なんだからな」


 僕の言葉に、リナの瞳に再び強い光が宿る。

 不安は消え、マスターの期待に応えようという決意がその顔に浮かんでいた。


(そうだ、その顔だ、リナ)


 僕たちのショーは、まだ始まったばかり。

 最初の小さな勝利に満足している暇はない。

 次の舞台で、もっと大きな花火を打ち上げてやる。

 僕を、そしてリナを蔑んだ全ての観客が、度肝を抜かれるほどの、盛大な花火を。

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