呪法奇伝Ascension～金鱗龍嬢仙奇譚～

幕間 龍神領域支配構造について

※　以下は本作品の世界観を深く知るための解説です。読まなくてもある程度お話を楽しむことは可能ですので、こういった内容が好きな方のみお読みください。

■【龍神族の本質】

　龍神族は遥か古代より続く古の妖魔族ではあるが、一般的な人類のように同族同士のコミュニティを作って群れて生活するようなことはしない。

　龍神族における基本的コミュニティは、その主となる龍神とその配偶者（ほぼ間違いなく、力関係的に目下の者を娶る）、そしてそれの世話をする配下達による【龍宮】という形を取る。

　龍神族はその基本能力として、異界を創造する【龍宮建築】の権能を持ち、それで自分個人の家を生んで生活をしている。更に言うならば、龍神族は極めて子孫を残すということにこだわらない種であり、自分の意志で子を残すかどうか決定できる事も相まって、ふつうに自分を越えて脅威になりうる次代の龍神を産まないように、制限をくわえてもいるのである。

　ようは自分以外の龍神は、例え子であってもライバルに等しく、それでも子ができた場合、独り立ち出来る頃になるとすぐにその子を、自分の龍宮から追い出してしまうのである（子どもが出来る事自体希少なので、そういった話はそんなに広まっていない）。ただ、性欲がないかと言えばそうではなく、よく下界に降りては子をなす龍神というのはよく聞く話で、そういった【遊び】の場合は適当に孕ませた挙げ句に、その子を放置するということを行う（日本の龍神族は、特に古代蛇神との血縁が濃いので、性欲的なものが強い傾向にある）。

　なお、これらは龍神族のオスであろうがメスであろうが同じ性質を持っている。雌雄の力関係的な格差はないので、オスの【龍宮】とメスの【龍宮】が日本中に乱立しているのである。

　血筋的に弱くなる傾向の強い【半龍】を生み出すのを特に気にせず行うのは、【同族の龍神族とは違い、自分の脅威にはならないであろう】という考えがあるからと言える。

■【龍神族の個人主義的社会組織】

　龍神族が複数一つの領域にいるならば、その間には当然諍いというものは起こる。

　それを適当に扱うと、不要な犠牲も増える事は確かであり、それ故に龍神族達も、他の龍神と関わった際のルールというものが自然と生まれてきた。

　現代では【天龍逐位制（てんりゅうちくいせい）】と呼ばれる制度がそれであり、ようは【強いものが優先され、弱いものは強くなれるよう努力する】という、かなりパワー第一主義の社会制度である。この名は【天を目指す龍は、ただ「位階」を巡って闘争する】という言葉より生まれたものである。

　この自然発生的社会制度は、龍神族であるならば自然と理解して、誇りを持って受け入れる制度である。これを最低限守ることも出来ず不用意に破る者は、そもそも龍神族としての誇りも精神も足りないゴミとして同じ龍神族から蔑まれる立場になる。

●天龍逐位制の基本原則：

　この制度における基本原則五箇条は以下の通りである。

　一つ、全ては個の実力によってのみ評価される。

　一つ、原則として上下関係は存在せず、上位者への敬意も強制されない。

　一つ、「挑戦制度」により序列が流動する（挑まれた者は断れない）。

　一つ、協力は「一時的同盟（血誓契など）」としてのみ認められる。

　一つ、敗者には「撤退の自由」と「再挑戦の権利」が保障される。

●天龍逐位制の主要構造：

★【逐位榜（ちくいぼう）】：龍神族序列リスト（≒ランキング）

　常時更新される実力ランキング形式の名簿。

　位階は「星位（せいい）」で表現され、最上位が「九星」、最下位が「無位」。

　上位にいることは社会的地位・発言権・信仰獲得に直結する。

★【逐戦場域（ちくせんじょういき）】：挑戦者同士が戦う指定領域

　あらゆる挑戦はここで行われ、観戦可能・記録保存される。

　一種の「神格競技場」のような位置づけであり、各逐戦場域は「属性・条件・制限」が設定されており、闘いにおける戦略性も試される。

★【代行龍令（だいこうりゅうれい）】：上位者の任務を代行する制度

　高位の龍神が面倒な任務を「代行者」に報酬付きで委託できる制度。

　この制度下で実力が認められると「星位無し」でも一部の影響力を得られる。

●天龍逐位制の副制度：

★【血誓契（けっせいけい）】：一時的な共闘・協力契約

　血液と神気もって、特別書面で行われる「一時的協力関係」契約。

　機能としては「一人の上位龍神をリーダーとして組織化する契約」と「同格の協力関係としての契約」という二種類の協力契約を締結できる。

　契約中のみ共闘・支援・連携が可能になる。期間・目的が明確で、終われば情義ゼロに戻る。

　いわゆる「口約束だけのなあなあな協力関係」というのは、龍神族にとっては忌避すべきものという考えがある。

★【龍印抹消（りゅういんまっしょう）】：重罪による記録抹消（社会的死）

　「卑怯な勝利」「虚偽報告」「敗者への過剰加虐」など、龍神族としての誇りを傷つける行為は、逐位榜から抹消される。

　抹消された者は、「龍神族として存在しないもの」とされ、挑戦も名乗りも不可能である。

●特例的組織ポジション：

★【天極龍座（てんきょくきゅうざ）・盤牛王（ばんごおう）】：位階九星の座

　天龍逐位制の頂点に立つ一名のみが座す名誉称号（≠支配者）。

　正式な法としての命令権や権威はないが、「最強の象徴」として龍神族からすら信仰される対象となる。

　無論、その存在を倒した者が新たな九星となる。

★【五龍帝王】：位階八星の座

　九星直下八星である五名のみが座す名誉称号。

　【青帝青龍王、赤帝赤龍王、白帝白龍王、黒帝黒龍王、黄帝黄龍王】という五つの称号を示し、彼らも同族から信仰される存在である。

　彼らは【血誓契】に従い、一定の目的をもって組織的な活動を行っている。

　【青帝青龍王・蒼輪（そうりん）】は東日本（関東～東北）一帯および沿岸地域や港湾都市、【赤帝赤龍王・紅燄（こうえん）】は西日本（近畿・四国・南九州）一帯および火山地帯、【白帝白龍王・鋼律（こうりつ）】は近畿～中部および日本全土の審理・規律の整備、【黒帝黒龍王・幽深（ゆうしん）】は北陸～北海道一帯および地下世界や冥府接続領域、【黄帝黄龍王・聖衡（せいこう）】は日本全土の地脈・霊脈・均衡管理および五龍帝王の意志のまとめ役として動いている。

　この五者は一応同格としての【血誓契】ではあるが、純粋な実力として【黄帝黄龍王】がリーダーとなっている。

★位階七星以下：

　上位の位階の龍神族は、当然より下位の龍神族との間に【血誓契（一人の上位龍神をリーダーとして組織化する契約）】を行うことが出来る。

　その契約規模から【龍公（領主格）】【龍侯（軍団長級）】【龍卿（隊長級）】に呼び方が変わる事になる。

★外位階：

　いわゆる正式な龍神族とみなされていない存在も、龍神族の社会には関わってくるのだが、龍神族ではない配下を【龍使】、未だ成人していない子龍を【龍童】と呼ぶ。

　彼らは当然、【逐位榜】には名が乗らず、【逐位榜】における「無位」ですらない、【外位階】として扱われる。

■【青帝青龍王・蒼輪の正体】

　現在、八星の地位で【青帝青龍王】を名乗る【蒼輪】は、芦ノ湖に居を構える【九頭竜大神｜（別名、九頭竜権現）】その人であり、もう一つ別名を持っている最強に近い水龍神である。

　その別名とは【毒水悪左衛門】であり、現在、播磨法師陰陽師衆蘆屋一族の当主の後見人兼顧問としての仕事もしている。