エピローグ 数百年後の邂逅
――そして、時は流れた。
現代、東京の片隅にある小さな私設美術館。その薄暗い展示室の一角に、一枚の小さな絵が、ひっそりと飾られていた。
縦三十センチ、横二十センチほどの、絹本着色の小品。描かれているのは、深い藍色の夜空を背景に、月下に佇む一匹の白狐。その夜空の青は、他のどんな日本の古画にも見られない、独特の深みと透明感を湛えていた。
キャプションには、こう記されている。
「
作者不詳 江戸初期(十七世紀中頃)か
近年発見された作品。当時としては異例の写実的描法と、特異な青色顔料の使用が見られる。作者の特定には至っていないが、江戸初期の画壇に、知られざる革新的な絵師が存在した可能性を示唆する貴重な資料である――。
その絵の前に、一人の若い学芸員が立っていた。彼は、どこか懐かしむような、それでいて切なさを湛えた瞳で、その絵をじっと見つめている。
「不思議な絵…この青、どこかで見たことがあるような気がする…。」
青年の呟きは、静かな展示室に吸い込まれて消えた。
(この青を、俺の手で生み出してみたい――)
なぜ、そう思ったのか。彼自身にも分からなかった。ただ、根拠のない、しかし、どうしようもなく強烈な渇望が、彼を捉えて離さない。
その絵の作者が、かつて伊吹新太と名乗り、江戸の世に新たな色彩の息吹をもたらそうと奮闘した魂の持ち主であったことを、誰も知らない。ただ、その絵に込められた情熱と、時代を超えて輝きを放つ「青」だけが、確かな真実として、そこに存在していた。
THE 江戸ブルー ストパー野郎/いんそむにあ @straight21
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