第44話 ハーレム王、その名はハルヤ=アーデン!

 俺たちは、とある廃城にやってきた。


 交易都市グランニュールからそう離れていない場所にあり(といっても往路で1~2日はかかる)、廃城はダンジョン化していた。


 危険なモンスターが住みついた可能性があるらしく、調査を依頼したいとのこと。ダンジョン化した廃城は、複雑な迷路のようになっていた。


 玉座の間。

 天井が崩れて城の住人がいなくなっても、王の帰還を待つように荘厳な空気が満ちている。場の雰囲気もあるが原因は他にあった。

 冒険ギルドの予感は的中したようで、ドラゴンがいたのだ。


「グオオオオオオオオオオオオッ‼‼‼」


 四足歩行の赤竜が頭を低くしながら俺たちをにらんでいる。


 全長は10メートル程か。

 言語を解さないので低位ドラゴンだろう、それでも竜は竜だ。鋭利な爪は並の防具を切り裂いて、炎は城塞を水飴のように溶かすだろう。熟練の冒険者パーティーでなければ討伐はできない。


 よーしよしよし、ドラゴン相手なら『体調がすぐれない感を出しつつ、ある程度戦ってから撤退して、援軍を呼べる作戦』で時間を稼げるはず。アムハヤ様倒したじゃんと言われたら、あれは龍だから別と言い張る方向で!


 そう、のらりくらりやりすごそうと決めていたが。


「――第5の鍵・蜘蛛糸キアーヴェ・チンクロ‼」


 フィリオが魔力の糸を巧みにあやつって、ドラゴンの全身にひっかける。


 吸精ドレインが発生しているようでドラゴンは苦しそうにもがいているが、相手は強大な生命力を持つ竜だ。すぐに破られるだろう。


 しかし、だ。


「かしませかしませ、舞い踊らん! 裏・牡丹ぼたん!」


 ココノが鉄扇を広げてくるり舞うと、彼女の足元から青い炎をまとった頭蓋骨が何体も飛び出していき、ドラゴンにすがるようにまとわりつく。


 練習中らしい死霊呼びだ。

 相手を虚脱状態にする効果があるらしい。


 第5の鍵・蜘蛛糸キアーヴェ・チンクロと裏・牡丹でデバフをもろに食らったドラゴンだが、それでも決定打に欠ける。倒しきれないはずだ。


 しかししかし、だ。


聖印・細胞大活性ヒールブラスト


 リリィが聖杖をかまえると、ドラゴンの胴体に光輪がいくつも発生する。


 細胞活性化で肉体を破裂させる、リリィお得意の聖術だが、ドラゴンのような生命体の強いモンスターには効きづらい。

 技判定は失敗に終わると思いきやだ。


「⁉⁉⁉ グオオオォォォォ……!」


 ドラゴンは心臓が破裂したのか、口から血を吐き出して、その巨体を床にめりこませながら倒れてピクリとも動かなくなった。


 ……。……手持無沙汰になった俺は、その場で剣をふるう。

 風を斬り、魔を斬り、そして空間すらも切り裂くようにふるう。俺が本気を出したのが誰もわかっていなくても剣をふるう。


 剣を真横に大きくふるう、リーンッと聖気が漏れた。


「悪しき邪竜よ――」

「ハルヤ様ー、もう終わっておりますよー?」

「そうみたいだなー。わかってるー」


 勇者モードをキャンセルしながら俺は納刀した。


 聖杖を下げたリリィに仲間たちが駆けよって、それぞれの健闘をたたえている。周囲の安全を確認してから、俺たちはさらに奥へと向かった。


 俺は廊下を歩きながら腕を組む。


 ……強くない?


 低位ドラゴンでも討伐隊を組まなければ太刀打ちできないのに、あっさりと。

 彼女たちは前世の実力にはまだ達していないはずだ。

 でも以前より連携力があがっているし、各々できることが増えたのでパーティーとして比較したら、そこまで劣っているわけじゃないか。


 それに、戦略面の幅も増えている。


 青空にはフィリオの鷹と、アムハヤ様が飛んでいる。

 どうやら仲良くなったようで、鷹の言葉をアムハヤ様が翻訳してくれるので斥候時に得られる情報が増えた。


 勇者らしい行動にも囚われなくなり、リリィは奇襲を提案していたりした。


 あれ? まじで強くない???


 ゴッセの町もカムンコタンの件も教会案件で処理したが、冒険者パーティーとしてこの調子で活躍していくなら大陸中にすぐ知れ渡りそうだぞ?


 うごごごっと頭を抱えていると、リリィがおかしそうに微笑んだ。


「そんなに活躍したかったのでございますか?」

「そ、そんなわけねーだろう。俺は楽ができて万々歳だぜ」

「で、ございますか」

「そうでございます」 

「……そのときがきたら、頼りにしていますからね。リーダー」


 リリィは信頼の笑みを見せると、奥に向かって行った。


 やれやれ、ああも素直に信頼されちゃあ俺だってがんばるしか……ん?


「今さりげなくリーダー扱いされたか?」


 俺は立ち止まって考えた。


 もしや、俺を冒険者パーティーのリーダーに仕立てあげようとしている?

 そうきたか! そうくるか! リリィ!


 リーダーは冒険者パーティーの顔となる存在だ。

 公の場にでれば一番目立つポジションだし、パーティー名ではなく、リーダーの名前が覚えられることもある。仲間と共に冒険すると決めた俺を、そうやって光のプロデュースするつもりだな⁉


 ふはは‼ 舐めるな! 俺は無責任セッス〇を狙う男ぞ‼ 

 俺を頼りにしているようだが、貴様らの信頼などを簡単に砕いてくれるわ‼


 というかな! 最近俺チョロく扱われている気がしてですね!

 なんか『コイツ軽いスキンシップで堕ちるぞ』と思われていそうでね! 未来のハーレム王なんですけども!


 く、くっそー……。

 ここはクソカスドスケベ的ムーブをかましてやるか?


「ぐへへ……やってやる、やってやるぜ……!」


 リリィは……逆に、反撃を受けそうだな……。

 ココノは……死霊の件もあるし、ココノに泣かれたら俺の心が壊れてしまう。


 セクハラしても怒るだけで許してくれそうな……。

 むしろセクハラを望んでいるような大いなるドスケベを内に秘めた都合のいい子なんて……。


「ハルヤ君、考えごと?」 


 都合のいいフィリオが声をかけてきた。


「……リリィとココノは?」

「廃城の安全は確認できたし、ダンジョン化の原因を調べにいったよ。魔道具が悪さしているんじゃないかって」

「……元城だしな、可能性は高いな。つまり今はフィリオと二人っきりなわけか」 

「そうだけど……? どうしたの?」


 隙だらけな彼女に俺はほくそ笑む。


「ぐへへっ! 二人きりならドスケベカーニバルの時間だなあ!」

「またなにか良心の葛藤があったの?」

「ま、ま、またってなんだよ⁉ 俺にはドスケベ心しかないっての!」

「はいはい、じゃあ先に奥で待っているからね」


 フィリオは俺のクソカスムーブをいとも簡単に流してみせた。


 く、くっそおお! 俺はきちんと相手を選べるカスなんだぞ⁉


 背後に向けて去ろうとしたフィリオに、俺はすすすっと近づいでやる。

 やるぞ、やるぞ……よーし、ら、乱暴にや、やってやるぞおおおお!


 俺はハーレム王ハルヤ=アーデンだあああ!


「背後から失礼いたします!」

「えっ⁉ ひゃわっ」


 俺が背後から巨乳を持ちあげるように揉むと、フィリオは可愛い声をあげた。


 や、やわらかーい、なのにずっしりと重ーい!

 そう! 俺は仲間の乳をつかめる男‼ 吸精ドレインは手からのみだし、そこに気をつければいい!


「どーだフィリオ! 俺を甘く見るんじゃない! 揉ませてもらうぜえええ!」

「……今から、サキュバスの特訓……する?♥」


 乱暴にされるのを待っていましたとばかりに、フィリオは顔だけふりむいてきた。


 俺は唾を呑みこみ、股間の一部が一瞬でガッチガチになる。


「胸……揉まないの……♥?」

「も、揉ませていただきます……。い、いや、揉むぜ。ぐ、ぐへへ」


 ずっしりふわふわな重さをさらにたしかめようと、背後から指を沈ませる。


「ど、どうよ、グへへ」

「ん……♥ もっと……揉まないの?♥」

「え??? あ、はい、ぐへへー?」


 俺がおそるおそる揉むと、彼女はねだるように言う。

 

「もっと強く……いやらしく……ボクをイジメるように揉んでいいんだよ……?♥」


 フィリオの瞳孔はハートの形になっていた。


 ……ドスケベ‼ 想定以上のドスケベ‼‼‼ 

 今思えば彼女はオ〇ニーのときもM気質がぷんぷんと漂っていた。

 現在進行形で巨乳をむにょむにょ揉んでいるのに、フィリオは嫌がりもせず男に媚びるような視線を向けてくる。


 大丈夫か⁉ あまりにも男に都合よすぎて、逆に心配だぞ⁉


 俺は家畜の搾乳を思い出すように、しぼるように巨乳を揉む。


「んんんんーーーーっ♥♥♥」


 それがお気に召したのか、フィリオは人差し指を噛んで快感を耐えた。そして巨乳で目立ちはしないが、よく育ったお尻を俺の股間に押し当てる。

 

 硬化した股間の一部にグリグリと押し当てつつ、お尻をふってきた。


「お、おおおおおお⁉⁉⁉」

「ふーっ……♥ ふーっ……♥ 特訓の強度をあげる……ね……♥」


 フィリオは特訓だと言い訳しながら、胸を揉めと、瞳で強く訴えてくる。

 未来のハーレム王である俺は負けじと胸を揉む、揉む、揉む、揉んでいる内にはたと気づく。


 俺が胸を揉んでいるんじゃない‼ 

 まさか、これは揉まされているのか⁉


「あっ、あっ、熱いものが……暴れちゃう……♥」


 禍々しい風が吹き、フィリオに尻尾と羽根と角が生える。どうやらその部分に吸精ドレイン判定があるようで、俺は軽く触れただけでも脱力に教われる。

 彼女の性質を改めて知った。


「さきゅばしゅううううううう⁉⁉⁉」


 男に都合のよすぎる性格が罠になっているのずるいいい!

 生粋の淫魔だわ、この子!

 お、おおおお、どんどん脱力していく⁉⁉⁉ 意識を失いそうだ‼


 ま、負けるかあああああ!

 ここでまた負けたら『ハーレム王(笑)? ああ、あのドスケベに弱いクソざこ勇者のことですか?』なんて、運命に思われちゃう!


 んぬおおおおうと、サキュバス部分の接触を避けて奮起していたら、俺に尻尾が絡みついてくる。


「んん……♥ ハルヤ君、もっとぅ……♥ もっともっともっとぅ……♥」


 あ、あ、あっさり負けちゃううぅぅぅぅぅぅ………………………。



 ざんねん! おれのぼうけんはおわりかけたけど、まだつづくぞ!


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