第22話 魔王のいざない。あらがえ、勇者ハルヤよ!
その日、俺は聖なる泉と名高い、ファームの泉にやってきた。
森のひらけた場所にある小さな泉で、水の透明度は高く、ふりそそぐ太陽の光が溶けこむように澄んでいた。小さな滝も流れていて、風が吹くたびに清涼に満ちた空気が肺いっぱいに届いてくる。
わずかに聖気も漂っているな。
泉中央には石造りの足場があり、座禅を組めるようになっている。
迷いがある者、悩みがある者は、ここで己と対話するのだ。
俺は姿勢を正して坐り、己の迷いを晴らしに来ていた。
「ほっほっほっ、調子はどうかね? 若者よ」
老人が泉のほとりから話しかけてきたが、俺は座禅に集中する。
「うむ、よく集中しておる。しっかり迷うのじゃぞ、若者よ」
老人の声はどことなく嬉しそうだ。
ちなみにファームの泉に住む仙人とかじゃなくて、泉を管理している近所のお爺さんだ。悩める者が答えを見出す姿を見るのが好きらしい。
拝観料は少しお高いが、場の空気はかなり良いな。
俺は座禅に集中して、己の自意識を高めていく。世界と自分の境を判然とさせることで、もう一つうえの意識が広がってきた。拡張した意識のなかで己の迷いを見つめていこう。
俺の迷いは一つ。
そう、もちろん、童貞の捨て方だ。
今までの俺は高級娼館でトップクラスの嬢たちを並べて、気持ちよく捨てる。それを一点にがんばってきた。なぜなら一生の思い出にしたいからだ。
だがしかし、ここにきて【仲間で童貞を捨てるのもアリでは?】と。
リリィとフィリオ、二人とも魅力的な子だ。オナネタにもよく使っている。
仲間と絆を深めてずっこんばっこんなんて煩わしい、そう考えていた俺にまさかの迷いが生まれてしまった。
冒険ギルドの純愛派閥のテーブルに混ざって、雑談したこともあった。
『ハルヤ、なんでお前がここにいんだよ? オレたち今、純愛トークしてんだが?』
『俺もトークに混ぜてくれよ』
『はあ~~~? お前が~?』
『仲間と絆を深めて愛し合うのもいい、そう思うようになってさ』
『おおっ⁉ だろだろ! 純愛っていいよな!』
『今までいいようにやられてきた相手とずっこんばっこん……アリだよな』
『誰か塩もってきてくれ‼ コイツを魔祓いすっぞ!』
前世でいいようにやられてきたリリィとフィリオとずっこんばっこん。
絶対に気持ちいい。
今もいいようにやられている感があるからこそ余計気持ちいいはずだ。
だがしかし、諸々解決しなければいけない問題はある。考えても答えは見つからず、俺はファームの泉にきていた。
わからない……俺の迷いが晴れない……。
女神フローラ様……に祈って、ひょっこりと降臨されても困るし……ここは、魔王クロノヴァ! 魔王クロノヴァを相談相手にしよう!
おいでませー、魔王クロノヴァー、お話ししましょー。
うにょうにょうにょーん(頭のモヤが形になる感じ)。
『我を呼ぶのは貴様か……勇者ハルヤ=アーデンよ』
『お前は、魔王クロノヴァ(俺の妄想)!』
『くくくっ……ずいぶんと迷っているようではないか、勇者よ(妄想の産物)』
魔王クロノヴァ(妄想)が、威厳たっぷりに語りかける。
世界の半分を貴様にやろうと言いそうな重厚な口ぶりだ。
『俺、童貞の捨て方を迷っていてさ……。いまだ答えが見つけられず……元勇者として情けないよ』
『ふむ……貴様は童貞をこじらせた人間だからな。理想が高くありすぎるがゆえの迷い、悩み、そこに恥ずべきことはなく、前に進むための停滞と思うがいい』
『魔王クロノヴァ……』
さすが魔王クロノヴァ(妄想)。
ずいぶんと俺に都合のいい。
『して勇者よ。貴様はどう迷っているのだ?』
『今までどおり高級娼館で豪遊しての脱童貞。プロお任せだし、絶対に一生の思い出になるはずなんだ。……そして』
『リリィとフィリオ、だな』
『……彼女たちで脱童貞、絶対一生に思い出になる。俺はそう確信している』
『そして願わくばハーレム、だろう?』
『仲間と絆を深めてのハーレムセック〇。そこには夢と希望しかない……はずなんだが……』
今までいいようにしてきてやられた相手とセッ〇ス。
あの子のエッチでドスケベな表情を見たい。
見たい見たい見たい、見たーい。いけないこともなさそうなんだ。だが、だが……。
『リスクだな? 勇者よ』
『彼女たちに手を出すには、あまりに
リリィに手を出した日には、輝かしい光コースだ。
だからこそ彼女もハニトラを仕掛けてくる。責任もとらされるだろう。
フィリオに手を出した日には、最悪不能になってしまう可能性がある。
危険なラインを探りながら【フィリオとの特訓♥】には付き合う。断る理由なんてないし、ギリギリを見極めるつもりでいる、が。
実際、
それでも俺は絶対にあきらめない‼
だって俺は世界を照らす元勇者で……フィリオは巨乳だからだ‼‼‼
あと彼女にその気がなくとも、家柄的に周りが無責任を許さない可能性もある。何事にも見極めが大事だ。
俺は懊悩しながら心情を吐き出す。
『魅力的な二人なんだ……魔王……』
『ふむ』
『さまざまな問題点に目をつむれば……すごく魅力的な二人なんだ……』
『……オナ〇ーの回数が増えているようだな』
『ふっ……恥ずかしいぜ。でもこだわりを捨てて、プロの人にお任せするのがよいのかなって……。そもそも二人がハーレムを受け容れてくれるか怪しいのに……』
恥しかない俺の本音を、魔王クロノヴァは黙って聞いてくれている。
死闘の果てに、俺たちは絆を結べたのかもしれないな……。妄想の産物だけど。
『勇者よ、迷ったままでよいではないか』
意外すぎる言葉に、俺は戸惑う。
『しかし迷ったままじゃあ――』
『誰かが困るのか? 誰かが責任をとらねばならぬのか? ……勇者よ、貴様がただ童貞であるだけではないか』
『あっ‼‼‼』
迷ったままでもいい。
天啓に近いひらめきが、俺の脳にどびしゃーんと落ちた。
『勇者よ、迷いながらも仲間と絆を深めればよいではないか』
『仲間たちと、絆を深める……?』
『仲間とさらに絆を深めることで、また新しい視点が見えるやもしれぬ。時間が経つことで関係が変化して、彼女たちを受け容れられるようになるやもしれぬ。そのとき、彼女らと心から繋がればいいではないか』
『魔王クロノヴァ……』
俺が魔王の言葉に感服していると、奴は威厳たっぷりに笑った。
『ふははは! わかったようだな、勇者よ!』
『つまり、このままの関係性を維持していって、絆はそれとなく深めつつ、あわよくばの無責任ハーレムセック〇の隙をうかがうと! さすが魔王! なんて考えだ!』
『は? いや、そうは言っておらぬ』
『なあなあの関係を目指す! おそろしい発想だ!』
『貴様! 我がそそのかしたようにする気か⁉』
『さすが魔王、いや魔王クロノヴァ様~~~!』
魔王クロノヴァは悔しそうに吠える。
『おのれええええ、勇者ハルヤ=アーデン……!』
『それじゃあばよ! 俺の中の闇……いや、光!』
『本当にいいのか⁉ それでは貴様、カスだぞおおぉぉぉ………』
魔王クロノヴァは叫びながら俺の妄想の中に消えていった。
目をゆっくりとあける。実に清々しい気持ちだ。
俺の迷いが晴れたのを察してか、お爺さんが話しかけてくる。
「ほっほっほ、迷いは晴れたようじゃの」
「はい! すべての答えは保留にして中途半端なままでいます! ハッキリしない関係と、あわよくばな未来を目指す感じにしました!」
「それは迷いが晴れたのか……?」
お爺さんは困惑していたが、俺の心は澄んでいた。
ここしばらくいろいろあったが、人生は山あり谷あり、そろそろ俺にとって美味しいイベントが待っていることだろう。人生ポジティブでいるぐらいがちょうどいい。
………………二人の心に触れたことは、悪いことだとは一切思わんけども。
ま! 今の感じなら女神フローラと邂逅することはないだろう!
聖なる勇者ルートへの道も少しずつ狭まっている気がするしな!
ふはははははー、今度こそ俺の人生を歩むんじゃーい!
…………。
……ポジティブでいようとしたのに一抹の不安がよぎる。
フラグじゃないぞフラグじゃない絶対にフラグじゃないぞ。自分にそう言い聞かせても心に暗雲が立ちこめる。
大丈夫、大丈夫さ、大丈夫だよな。ですよね、魔王クロノヴァ様!
そう、なにも起こるわけがないんだ。
翌日。
――なにか起きた。
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