第13話 運命に抗え(ハーレムのために)!
太陽のような輝く金髪。透明度の高い海のような瞳には、好奇心が宿っている。
少年のような顔立ちは愛らしさもそなわっていた。スカウト職だからか軽装で、ブラウスとズボン姿と男装の麗人を思わせるが、胸ははちきれんばかりだ。
たとえ相手が、王子様系ボクっ子巨乳娘であっても迂闊になびいてはいけない。
義賊フィリオ・ヴァルシェイドはやんごとなきお方なのだ。
「やめなよ、君! 女の子が嫌がっているじゃないか!」
フィリオは俺を凛々しく睨んでいる。
どこからか爽やかな風が吹いてきて、その懐かしさに俺は顔をしかめた。
どうして……。ああ……お忍びで市井にまぎれるようなお転婆お嬢様だったな……。
俺が前世でフィリオが高貴な身分だとわかった経緯はこう。
いつもどおりフィリオに捕まって、依頼に行くことになる。
『勇者君、悪い貴族にお姫様が捕らえられているんだ! 一緒に助けようよ!』
なにを馬鹿なと思ったが、依頼はガチで正式なもの。
半信半疑で貴族の屋敷に侵入。なぜかトラップがしかけられた通路をぬけて、大広間に到達したときだ。俺はいきなりスポットライトを浴びる。
そしてフィリオは爽やかな笑顔で言い放ったのだ。
『御覧になりましたか! 彼こそが
大広間には俺を一目みようと、貴族が集まっていた。
『サプライズだよ、勇者君!』
あのしてやったりの顔は今でも覚えている。
俺が勇者で、フィリオが金髪碧眼で童顔巨乳じゃなかったら、笑って許しはしなかった。
そして無駄に凝りまくった勇者お披露目パーティーのあと、俺は本格的に勇者への道を歩むことになる。クエスト内容も難易度がはねあがり、他人からの期待は爆上がりに増えた。
…………。
もう二度と、王族貴族と関係をもってたまるか!
「んだぁ、てめぇは!」
ってーことで輩ムーブで威嚇する。
「弱きを助け、悪をくじく盗賊……フィリオ・ヴァルシェイドさ!」
「はっ、そんなお優しい盗賊さまがいてたまるかよ!」
名乗り変わってないな。
周りの冒険者たちも呆れて……いないな。フィリオの爽やか王子様オーラに誤魔化されている。ずっるーい。
「そういう君は誰だい? ボクが名乗ったからには答える義務があるよ」
「義務だぁ? んなもねーよ、頭ボケてんのか!」
義務義務義務……ふふっ、前世でしこたま聞いたわい。
彼女のなにが一番怖いって、みんなの笑顔のために笑顔で死のうとするからな……。
フィリオは表情は特に崩さず可愛らしい顔のままだが、内心ではかなり不機嫌だろう。めちゃくちゃキライだものな、傲慢で暴力的な奴。
「……礼儀がなってないようだね」
「だははっ! こちとら躾のなってない野蛮な冒険者なんだわ!」
よーしよしっ! 好感度がガシガシ下がっているぞ!
やんごとなきお方に無礼は怖いが……二度と会う気はない。俺が三下ムーブをかましていると、眼鏡の美人ギルド員が俺に声をかける。
「ハルヤ様、なんです? そのキャラ」
フィリオがまばたいた。
「……え? これが、ハルヤ=アーデンなの?」
「はい、これがハルヤ様です。普段はだらしないだけで、粗暴な方ではないのですが」
ネタ晴らしやめてくんない⁉
フィリオは怪しむように俺を見つめる。
「そう……君が噂のハルヤ=アーデンなんだ」
面白くなさそうな顔だな。って噂なっているの、俺?
あー、たしか……ギルド創設以来の快挙だのなんだの注目は浴びていたか。
ということはフィリオの行動原理的に『実力のある冒険者が青銅位に留まっているのはよくないよ』で、俺に会いにきたか?
力ある者に求めるものが、基本大きいんだよな……。
「君の話は聞いているよ。青銅位でぬるま湯につかっているって」
ほらーーーー。
そんでもって責任と義務だろ?
「はーん? だからなんだってんだよ」
「君には責任がある。世が世なら…………勇者候補、かもしれないほどの素質があるのだよね? 君はその力でみんなを笑顔にする義務があるんだ」
前世とぜんぜん変わってない‼‼‼
当たり前か。さっさと好感度を最底辺まで落としておかなければ!
「責任義務? なにそれ? 俺っちのハーレムに必要なことなのかなー?」
高速で腰をへこへこしてみせる。
「なるほど……君には教育が必要のようだね」
「教育だぁ~?」
「傲慢になっている君の鼻っ柱を叩き折ってあげよう」
フィリオは爽やかな笑顔のまま、腰の細剣に手をそえた。
好感度を下げすぎたか⁉
前世は俺の実力を試すために決闘をしかけてきて、そのあとでフィリオは仲間入りする。決闘の流れはよくなさそうだ。
「おいおい、冒険者同士で決闘か? こんな場所で? 頭おかしーぜ」
「かまいませんよ、許可します」
眼鏡の美人ギルド員はさらりと言った。
えっっっ? なんで???
もしかして裏で手回し済みか?
冒険ギルド的にも俺を教育する気満々でした? 問題児で実力あるのに昇格しようとしない俺に、実は不満をめちゃ抱いていたりしましたか???
ソウデスヨネ。
「ということだね、ハルヤ君」
フィリオはすでに勝ったように微笑んだ。
周りの冒険者たち、特に女冒険者は俺がボコボコにされる空気を察してか、超盛りあがっている。
「くたばれ」「もげろ」「二度と勃たなくしてやれ」など熱い声援をいただく。
ぐぞうっ、運命がどこまでも邪魔をしやがる!
運命なんかに、負けてたまるかよ!
「ふひひっ! いいのか、お嬢ちゃん! そんな巨乳をぶらさげて俺と戦うなんて……思わず、もんじまうかもなあああ!」
俺にすごい勢いで野次が飛んできた。
ふははははー! 無様なやられ役として場を盛りあげてやんよー!
ついでに冒険ギルドからの評価も下げてやるぜ!
フィリオは相変わらず爽やかな笑顔だが、静かな怒気がもれている。
「見下げ果てるね……」
「ぐひひっ! 勝負に勝ったら俺のモノになってもらうか? あーん?」
「少し……痛い目を見てもらおうか。さあ、いつでもかかってきなよ」
「グゲゲゲ! オデ、オマエをヤッツケル!」
いかん。ちょっとキャラが迷走した。
さてさて、お言葉に甘えて不意打ちの先制攻撃をかまそう。
そしてフィリオにはかっこいい王子様キャラとして俺をやっつけてもらうんだ。
「ふひっ、じゃあお互いに距離をとってから……なーんてなっ!」
俺は距離を離すふりをして、剣をぬき先制攻撃をしかけた。
フィリオに剣をふりかぶる。
出会ったときの彼女の腕を思い出して、そこそこ早めでいいだろう。
案の定、俺の剣は細剣にからめとられ、床に叩き落とされた。
「君のような品性に欠ける人の考えることはいつも一緒だね」
「ば、馬鹿な⁉ 俺の剣が⁉ あ、ありあり……」
「ありえない? 腕に覚えはあったのだろうけど、君は世界の広さを知らなすぎだよ」
……現状フィリオの腕前は、白金位の上ぐらいか?
このあたりではトップクラスの冒険者か。
まあ、彼女は遠距離攻撃主体だしな、実力が正確に測りきれん。前世では俺に張りあってか、剣の腕まで磨いていたけど。
おっと、やられ役ムーブをせねば。
「オ、オマエはいったい何者なんだ⁉」
「弱きを助け、悪をくじく盗賊……フィリオ・ヴァルシェイドさ!」
ここが決めどころと察したか、フィリオは片手で顔を隠しつつ、バチーンと決めた。懐かしいポーズだ……。よく付き合わされたな……。
彼女がそこまで決めたのなら俺も情けないやられ役に徹しよう。
俺は慌てるように近くのテーブルからステーキナイフを手にとった。
「く、くるな! お、おれに近寄るんじゃねええええ!」
「それで戦うつもりなの? ……無様をとおりこして、もはや呆れるよ」
フィリオはそう言い、王子様のように細剣を凛々しくかまえる。
かんぺきーーーーーー!
勝った! 俺は運命に勝ったんだ!
ざまあみさらせ運命! 二度と俺の人生に逆らうんじゃねぇぞ‼‼‼ あとは我慢して、痛いを思いをするだけだ!
「……じー」
誰かの探るような視線を感じる。
リリィだ。
リリィは騒ぎを聞きつけたのか、野次馬にまぎれて戦いを観察している。……まずい、リリィは俺の技量をある程度知っている。手をぬいたのがバレたか。
フィリオになにかあると悟られる前に事を終わらさなければ!
「う、うるせえええええ!」
俺はステーキナイフでフィリオに立ち向かう。
さあっ‼ 早く俺に剣を打ちこんでくれっ‼
「君の目を覚ましてあげる」
やられちまえーと野次が飛ぶ中、リリィは俺に聞こえるように口をひらく。
「ハルヤ様。負けたら、出しはナシでございますよ」
知らない人にとってはなんのことかと思われよう。
だが中出〇ができなくなるとわかった俺は、全細胞が反射的に動いた。
もはや本能だと言っていい、というか本能だ。本能でしかないさ!
フィリオの刺突に合わせて、ステーキナイフをふるう。
ナイフで細剣を斬り刻んだ俺は、そのまま彼女の首筋に刃を押し当ててしまった。
冒険ギルド内の空気がシーンと一気に静まりかえる。
「ボ、ボクが……負けた……? うそ……ステーキナイフで……?」
フィリオは世界の広さを知ったような顔で驚いている。目が覚めたような表情でもあった。
俺の本能おおおおおおおおおおおお!
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