第6話 大騒ぎ
「え、えぇ?」
「どうなってんだあれ」
「何か不正でもしたんじゃね?」
「樋口に限ってやると思うか?」
「でも不正じゃないとしたらあれは何?詠唱もしてなかったよね?」
「たしかに」
ようやく動き出したかと思ったらなんかやばい方向に傾いてる気がする。中村に限っては今すぐ掴みかかって来そうな勢いだ。
とりあえず誤魔化すか。
「あ、あれー?魔法陣間違えたのかなー?」
「まだファイアーボールしか習ってないのに間違えることなんかあるか!」
「いや書き順ミスったとかさー?」
「魔法陣に書き順とかありませんよ」
「ウッ」
フィリアに指摘されて、何も言い返せなくなってしまった。
そこにフィリアが続ける。
「それにあの魔法陣はファイアーボールのものでした。私が知らない書き方でしたけど」
(え、知らない書き方ってどういうこと?あれ以外のファイアーボールがあるの?)
誰かが先生の変な言い方に疑問に思ったのか質問した。
「先生、知らない書き方ってどういうことですか?」
「実は同じ魔法でも複数の書き方があったりします。と言っても大体魔力効率が良くて強い魔法陣によって他のものは淘汰されるのですが。」
「つまり、樋口くんが使ったものもそれと同じようなものだと」
「そうです。しかし、彼が使用したのはこの教科書に載っているものよりも何倍も魔力効率が悪いものに見えますね。あれでは魔力をこめてもあまり強くならないでしょうが、あの威力はどうなっているのでしょうか」
フィリアはそう説明したが、それでは矛盾が生じてしまっている。あの魔法陣はある一定以上の魔力をこめることで魔力効率と威力が通常の数十倍に跳ね上がる代物だ。しかも通常のファイアーボールでは魔力のこめすぎで暴発する危険性があったがこの魔法陣ならばその恐れはない。
再び皆の視線がこちらを向く。そこに後ろの扉が開かれ、ローブを着た人たちが現れた。その中にはサーシャもいる。
「フィリア、先程の爆発は何があったんですか?」
サーシャがフィリアに質問する。
「サーシャ様、それは彼が...」
「彼のファイアーボールが暴発したんですか!?リョウスケ様、怪我はありませんか?」
フィリアの話を遮り、サーシャが慌てた様子で俺に尋ねる。
「いえ、ありませんよ」
「それはよかったです」
「あの、サーシャ様」
フィリアがサーシャに問いかける。
「何でしょうか?」
「先程の爆発はファイアーボールの暴走なんかではありません。その証拠にあちらの的が完全に破壊されております。」
「え?」
「ありえない。魔法を習って初日の人間が、オリハルコンでできた修復魔法つきの的を完全に破壊できるとは思えん」
サーシャの後ろにいた初老の男が反論する。そのまま誰かに(たぶんフィリアになる)濡れ衣を着せてさっさと終わらせたいのだが、そんなに甘くはなかった。
「嘘だと思われるなら魔力痕を確認してください」
フィリアの言葉によって初老の男が的の近くに残っていた魔力痕を確認する。
「たしかに...フィリアの魔力痕ではない。それなら本当に彼がやったのか?」
それだけ言うと俺の方に来た。
「君、もう一度ファイアーボールを撃ってくれないかな?」
「嫌です。魔力も残ってませんし」
今撃ったら確実に面倒なことになることがわかりきっていたので適当な理由をつけて理由に断った。だがこの初老の男、それが通じる相手ではなかったらしい。
「私は宮廷魔法師になって50年近くなる。その間にいろんな人を教えて来たのだが、魔力切れかどうかは雰囲気でわかるのだよ。君からはその雰囲気がない。なんなら有り余る魔力を持っている雰囲気がある」
まさかの鑑定とかではなく経験で判定したらしい。せっかく魔力ゼロに偽装したのに。
「わかりました。1発だけ撃ちますよ」
もうこうなったら撃ってから考えよう。そう思い、頭の中で魔法陣を書く。
さっきの威力を出すと周りの人が危ないので、こめる魔力は半分くらいにしておこう。
「よし、撃て!」
合図とともにファイアーボールを放つ。放たれたファイアーボールはさっきと同じように真っ直ぐ的に向かって行き、当たった瞬間爆発する。威力を下げたつもりだったのだが、それでも足りなかったようで当てた的が完全に破壊された。
「撃ちましたよ」
そう言って後ろを見ると初老の男が固まっている。何かぶつぶつ言っていたが突然俺から離れ、拘束する鎖が現れた。
初老の男は着地すると俺に向かって話しかけた。
「貴様、邪賢者ラークだな?」
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