第3話「愛されること」

 今日の猫はそれなりに大人しい。先ほどエサを食べていたからだろうか、ぐっすりと寝ている三匹が転がっている。全く、野生を失った猫たちだ。

 そんな中、一匹の猫が目を覚まして近づいてくる。これはかなり珍しいとことだ。私の心の中の猫は基本的に「私」という存在を知らない。私も、猫たちに干渉しないし、干渉することもできない。なのに、近づいてきて一声鳴いた。鈴の音のような、可愛らしい声だった。どういう風の吹き回しだろう?

 その猫は綺麗なグレーの猫だった。近づいてくるので、そっと喉元を撫でる。まず、触れられた事に驚いた。実際には「存在しない」猫なのに、それは仄の温かくて、猫は私に擦り寄ってくる。

 可愛いなぁと思った。

 少しだけ、心も温かくなってきた気がする。

 しかし今は夏に向けてじわじわと暑い。クーラーをつけないと猫たちはぐったりしてしまうだろう。

 私はリモコンを取って除湿のスイッチを押す。

 猫たちの心配もそうだが、私が使っているパソコンは結構デリケートにできていて、オーバーヒートさせすぎると寿命が縮んでしまう。最近新調したものなので、できれば8年以上保って欲しい。

 ふと気づいたが、私はどうも自分に対して疎いんじゃないだろうか? 自分が汗だくになるのは構わないが、パソコンの調子が悪くなったり、猫たちがぐったりするのには過剰に反応してしまう。

 自分を「疎か」にしているんだとして、それは周りから見てどう映るんだろう? 昔、職場の同僚たちから「困っていると助けたくなる」と何人かに言われた。何か関係があるんだろうか?

 かつて私は3人の人から「愛している」と言われたことがある。これも「助けたくなる」の延長線なんだろうか? でも、私は意味が分からなくて、その場でその問いに答えられなかった。答えられないというより、「理解」できなかったんだ。

 最後の3人目には「あなたは両親に愛されていないから、自分が代わりに愛して『あげる』」と言われた。今になって考えてみると、答えられるかどうか、というより、愛される定義がまずおかしいと思う。私は意味が分からないのでぼんやりと「沈黙」で答えた。

 後日友達にその話をすると、その「告白」の言葉が「気持ち悪すぎる」と引いていた。私にはよく分からなかったけど、「普通」にみても「おかしい」んだ、と思った。

 友達たちからは、昔から「男運が悪い」と言われ続け、自分でも実際そうなのは分かっていた。もうこの年になって恋愛なんてしたくないし、誰かを好きになる「体力」も持っていない。

 きっと、誰かを愛するって、すごくカロリーが高い事なのだろう。

 足元で、また鈴の音が聞こえてくる。

 擦り寄ってくる猫に、「愛」はあるんだろうか?

 とりあえず、可愛いからいいや、と、私は思考を手放した。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る