異世界転移先で渇愛されても、王子の覚醒聖女候補の従姉の身代わりにはなりたくない。

猫山みみ

プロローグ

プロローグ




 なぜだか不意に想起してしまう、どうしようもない記憶。


 とても拭いきれないもの。


 いつから?


 浜豌豆ハマエンドウの花の形をした、クリスタルの置物。


 祖母から貰った、大切な宝物。


 それが割れてしまった夜のこと?


 今考えてみても、あの日は両親が行方不明になった時と同じくらい怖かった。


 どうしようもない恐怖だけが、自分を覆い、腰まである金色の髪を振り乱して嘆く以外、何も考えられなかった。


 黒檀の瞳を腫らせて泣き疲れ、ようやく眠りについた瞬間。


 クリスタルの置物が割れた時感じた浜豌豆の爽やかな香りが、夢の中で再度鼻を擽った。


 瞬時、囁くような潮騒とともに。


 不意に現れた少年は、淡紫色の髪で、異国情緒溢れた服装をしていた。


 とても神秘的で、今あるすべてが、靄に包まれてしまう。


 何も考えられず、ぼんやりと見惚れてしまった。 


 不思議な流麗で、黄海松茶と茶水晶の両目色違いの眼差し。


 何も言わずに、自分をじっと見ていた。

 

 今も昔も、不意に想起してしまうことがあり、胸奥が熱くなることばかり。


 爽やかな浜豌豆の香りとともに。


 潮騒の音とともに、切なく胸奥が疼く。


 姿なくても、心が何よりも揺らぐも

の。


 あの日を境に、自らの心の拠り所となってしまったのだろうか?


 会えることが叶わなくなった、両親とともに。


 強い願いとなって。


 それでも叶わない、儚い夢。


 とても不可思議なもの。


 そう。


 私の中で、完全に忘れてしまうべきものだったーー。

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