接吻《キス》×KISS《キス》×XOXO《ハグ&キスィズ》
シィータソルト
キスで世界を救っちゃう!?
「ふぇふぇふぇ、お主は魔法少女になる使命がある!!」
「は?」
帰り道、中学二年生である破魔雅と天海愛理はおかしなことをほざく老婆に出会った。雅は思わず反応してしまい、愛理はオロオロしていた。
「ちなみに、どっちが? それとも両方?」
「そちじゃ。髪の長くて一本縛りの。名前は?」
「破魔雅」
「雅、お主は心の存在を信じるか?」
「そりゃ、生物なら心を持っているんじゃない?」
「そうか。ならば、お主はこれからその心を浄化する役目を担ってもらう」
「何で、俺が」
「そうですよ、雅ちゃんを魔法少女にして、私との時間はどうしてくれるのですか!!」
オロオロしていた愛理はやっと口を開く。
「ふぇふぇふぇ、安心せぇ。お主にも使命がある」
そう言って、老婆は手を四拍子の指揮のように手を振ると、雅と愛理の体を魔法で向かい合わせにさせる。そして、二人を無理矢理口づけさせたのだ。
「「!?」」
すると、雅は服装が執事服に変化し、愛理はオコジョに変化したのだ。事が済むと二人の口づけは開放された。
「なんじゃこりゃ!!」
「何故、私はオコジョに!?」(大好きな雅ちゃんとキスしちゃった……!!)
「ふぇふぇふぇ、お気に召したかね? 雅は口調が俺と言うところからボーイッシュじゃから、魔法少女と言っても執事服みたいな服装にしてやったわい。そして、もう一人のショートカットのお前さんは使い魔としてやったわい。さぁ、世の中は病んでいる。それを救う役目がお前さん達じゃ」
「私は天海愛理です~。そして、お婆さん、私は二度と人間の姿には戻れないのですか? 一生をオコジョとして雅ちゃんの使い魔として過ごさなければならないのですか?」
「愛理よ。大丈夫じゃ。人間の姿に戻りたい時は戻れる。だが、これから、雅が魔法少女に変身や変身解除する時はオコジョ姿でキスをせねばならない。それが使い魔としての役目じゃ」
「えっ!?」
そりゃ、雅ちゃんのことはお慕い申しあげていたけど、それは隠していた秘密な恋心なわけで、でもでも、オコジョとしてだけど、雅ちゃんとキスが……!!でもでもでも、キスするなら今みたいに人間の姿が良かった……
愛理は雅へのキスの想いに悶々としていた。そう、生まれた時から近所で幼馴染に恋愛感情を抱いていたが、雅が自分なんかを恋愛対象として見てくれるはずがない。同性であるからという点は問題ではない。雅はむしろ大の女好きである。でも、幼い時より一緒に居た私になんてトキメキを感じないだろう……
「愛理とキスか……幼い時よくしていたな、懐かしい」
「そういえば、そうだったー!!」
ますますダメじゃん!! 幼い時にファーストキス捧げられていたのは良かったけど、恋愛意識は向かないじゃん!! 倦怠期来てるよ! いや、それより幼馴染だから恋愛対象として見て貰えないんじゃ……でも、魔法少女してくれている間は雅ちゃんとキスができるんだ……
「うぅ……使い魔として頑張ります。でも、何故、オコジョ姿じゃないといけないのですか?」
「オコジョである意味は特にないが、肩に乗せられて、気軽にキスができる動物を使い魔の姿にしようと思ってな。それに人間に魔力を注ぐのは雅で限界じゃ。ワシがもっと若ければ、愛理も魔法少女にしてやったのだがなぁ。生憎、魔力不足で使い魔が限界じゃ」
「そうでしたか……」
「まぁ、そうがっかりするなよ、愛理。可愛い幼馴染とキスができて嬉しいぞ」
そして、もう一度、雅と愛理は口づける。そうすると、老婆のいう通り魔法少女の恰好から制服に戻る。
「雅ちゃん……」
「なぁ、婆さんよ。魔法少女ってのはわかったけど、俺はどんな魔法が使えるんだ? そして、どのようにして心を浄化するんだよ?」
「火、水、雷、草、光、闇など自然のものは魔法に変換できる。魔法を頭の中で想い描くのじゃ。そして、心を浄化する方法。それは……ハグとキスじゃ」
「ほぉ、つまり……自然を操ってドンパチ戦って、最終的に女の子とハグとキスをし放題……ということだな?」
「まぁ、そういうことじゃな」
「えぇ、雅ちゃんが……そんな……」
私以外とキスをする雅ちゃんを見守っていないといけないの……!?
愛理はふらりふらりと揺れ、そして倒れた。
「どうした、愛理。貧血か!?」
「灯台下暗しとはこのことを言うのう。身近にいるのに想い人に想いを気付いてもらえぬとは……」
「? どういう意味だ? とにかく、愛理を介抱しないと……」
鈍感な雅は老婆の言葉を理解しないまま、オコジョの愛理を手のひらに乗せ撫でてやる。
「大丈夫じゃ、ただの立ち眩みじゃ。寝かせておいてやりなされ。では、ワシはそろそろ帰るとするよ。あぁ、そうだった。ワシと連絡が取れるようにこの水晶玉を雅にやろう。落として割るんじゃないぞ」
「わかった。貰っとく」
老婆から水晶玉を受け取ると中学の鞄の中に入れた。リュックだから余裕で入った。
「んぅ……私、どうしたんだっけ……?」
「おぉ、愛理、目が覚めたか。帰ろう。荷物持ってあげるから、オコジョのまま、俺の肩に乗ってな」
「雅ちゃん……ありがとう」
愛理は雅の言葉に甘え、肩に乗っていることにした。小動物になったとはいえ、いかり肩の雅の肩にちょうど良い大きさとなっていた。
「それにしても……フリフリな衣装着せられなくて良かった。そんなん着せられたら反吐が出る」
雅は、女であるが女っぽいものは嫌いだ。だからと言って、男になりたい願望はない。女が好きな男っぽい女なのである。女である自分は好きだし、この姿を愛してくれる人を探している。だが、見た目は、長髪と大変女らしいのだが、一人称からして男っぷりを徹底している。
「あの、執事服のタキシード良かったな。あれ着て、女の子助けまくったらモテるかな?」
「ただいま~」
「あら、雅、お帰りなさい。その肩に乗っているのは何?」
あ、しまった。愛理そのまま連れて帰ってきちゃった。って、言っても人間に戻す方法わからないし……あとで、愛理のお母さんにも家に居るって言っておかないとな。
「これは、ぬいぐるみだよ。ゲーセンで取れた」
「あら、そうだったの。可愛いわね、オコジョ」
「でしょ、部屋に飾るから触らないでね」
「触らないわよ。早く手洗いうがいしてお風呂入りなさい」
「はーい」
愛理とは幼い頃からお風呂に一緒に入っている仲だから気にせず脱衣所に行く。
「うーん、雅ちゃんの肩の上が心地よくて寝てしまっていました……ってお風呂!?」
「おぉ、愛理、起きたか。一緒にお風呂入ろう。後で、愛理のお母さんに連絡もしておくから」
「う、うん」
一方、愛理は雅とお風呂を昔、よく一緒に入っていたけど、恋心を意識するようになってからの雅の裸は刺激が強いと感じる。
「さて、入るか」
愛理が悶々としている間に、雅はささっと服を脱ぎ、そして愛理を抱きかかえて浴場に入る。
雅ちゃんの胸の感触……私、挟まれているみたい……
「なぁ、愛理、体が熱いけど熱ないよな? オコジョの平熱って何度だろ?」
「あはは、大丈夫。気にしないで、元気だから」
桶にお湯を溜めて、そこへ愛理を入れる。雅はシャワーで体を洗い流し、頭にかけ、シャンプーをつける。
「愛理はそこで温まってて。俺が洗い終わったら、洗うから」
「わかった」
あわわ、雅ちゃんの裸……見慣れているはずなのに……何だか恥ずかしいよ~。愛理はバシャバシャ顔を洗う。
「あはは、何か猫みたいだな。オコジョなのに。体が痒いかな。早く洗ってやらないとな」
雅ちゃんと顔が合わせられないだけです……とは言えない愛理であった。その時、ビビッと何かの予兆を感じた愛理。
「雅ちゃん、もしかしたら外で心を病んだ人がいるかもしれない」
「あ、愛理も感じた? 俺も何かビビッと来た。あーあ、のんびり体を洗ってられねーな。愛理も帰ってきてからだな」
雅は勢いよく出したシャワーでシャンプーを洗い流し、体にもかけ、愛理を抱きかかえて浴場から出る。
一応、一緒に脱衣所に持ってきていた老婆から貰った水晶玉に話しかけてみる。
「おい、婆さん。現れたのか?」
「おぉ、雅か。その通りじゃ。ワシの魔力をしっかり引き継いでいるようじゃのう。さぁ、魔法少女よ、ゆくのじゃ!!」
「わかった!」
ただ、家の中で変身するわけにはいかないので、一旦、バスタオルを巻いて部屋に私服を取りに行った。何事もなければ用意してあるパジャマに着替えられたというのに。
「母さん、出かけてくるからご飯いらないわ」
「あら、もしかして愛理ちゃんと? 気をつけてね」
「うん」
母親に怪しまれることもなく、外へでると、雅は、愛理を口元に寄せてキスをした。服装が執事服のタキシードに変化する。
「ん……よし、変身できたな。行くぞ! 愛理!」
「行こう! 雅ちゃん!」
気配を感じる方へ、雅と愛理は飛んでいく。さっそく魔法を試してみた。背中に天使のような翼を生えていると想像して。そうすると本当に背中から天使のような翼がはためかせて生えてきた。愛理は雅の肩に乗っている。
「あぁ、私はもうダメだ……」
消え入りそうな声で膝を抱えて泣いている女性が見えた。その周りには立方体の鉄格子のような黒い物体があり、頂点には闇に染まったハートがあった。
「婆さんが確か、心を浄化する方法はハグとキスって言ってたよな?」
「うん、確かそうだったよ……」
「どうやってしろと?」
「あの鉄格子みたいな闇をどうにかしないとだね。雅ちゃん、何か魔法を使ってみようよ」
「よし……ファイヤースネーク!!」
蛇状の炎が雅の手から噴射され、鉄格子に向かっていき、とぐろを巻く。だが、鉄格子はびくともしない。
「おぉ、単純だけど想像した通りの魔法が出た。鉄に穴を開ける方法って、漫画の戦闘シーンとかで見たことあったけど、どうやってやるんだったけな?」
「燃焼と冷却を交互にするんじゃなかったっけ?」
「それだ! じゃあ次は氷系だな……アイスソフトクリーム!!」
氷の渦が炎と同じように鉄格子にとぐろを巻いていく。鉄格子がピキピキという音が鳴った。
「雅ちゃん、鉄格子にひびが!!」
「よしっ! 手ごたえあり!! この調子で行くぞ!」
雅は、ファイヤースネークとアイスソフトクリームを交互に放ち、鉄格子にひびをいれていく。そして、鉄格子は破裂し粉々になった。頂点にあったハートが落ちてくる。すると、水晶玉が喋りだした。
「雅や。そのハートは心じゃ。闇に染まっておろう?」
「あぁ、真っ黒だ」
「それを手に持て。そうすると持ち主の中に入っていく」
「おう」
老婆に言われた通り、雅が手にハートを持つと、持ち主に向かってスーッと溶け込むように入っていく。
「さて、お待ちかねのハグとキスじゃな。この者にハグとキスをしてご奉仕してやれ」
「何という役得。では……可愛いお嬢さん。あなたのために俺がご奉仕致します」
雅は膝を抱えて泣いている女性を優しく抱きしめた。
「……誰?」
「今宵、あなたのために参上した執事でございます。さぁ、お嬢様、目を閉じて……」
「はい……」
心が弱っているせいか、何の疑いもなく見知らぬ者の言葉に従順となる女性。目を閉じ、何かをされるかなんて思いもしない。そこへ、頬に手を添え、顔を近づけていく雅。あぁ、いよいよ好きな女性とキスができるんだ……
「ちゅ……」
唇同士が重なった途端、女性の胸元が光りだした。先程吸い込まれていったハートがまた飛び出し、闇は払拭され、明るい赤色になり、また元に戻っていく。雅は名残惜しいが、唇を離した。
「あれ、私、どうしてたんだろう? キャッ、カッコイイ人が目の前に!! あなたが助けてくださったのですか? ありがとうございます!」
「カッコイイだなんて照れますね……いえいえ、どういたしまして……麗しい人……」
「あぁ、雅ちゃんの惚れっぽさが発動しちゃってるよぉ……」
愛理の嫉妬が発動し、雅の肩に噛みついた。
「痛っ!! どうした愛理!?」
「雅ちゃんのバカバカ!! デレデレしちゃって!!」
「えぇ~何でバカ扱い……」
「あ、あれ? オコジョが喋っている?」
「あ、あー、違いますよ。これは喋る玩具ですよ。ご心配なく、お嬢様」
「そうでしたか……あの私のこと元気づけてくれて本当にありがとうございました。最近、仕事が上手く行ってなくて……では、私はこれで……」
「あぁ、麗しい人が行ってしまう……せめて連絡先だけでも……痛っ!! 愛理!! 噛むな!!」
「雅ちゃんのバカバカ~!!」
「あぁ、イチャイチャしているところ申し訳ないがのう」
「何だよ、婆さん。これのどこがイチャイチャしているんだよ! 愛理が急に怒って俺が何をしたっていうんだよ」
「女にだらしないところかのう」
「しょうがないだろう? 俺は女性が大好きなんだ。魔法少女やってなくたって、ハーレムいつか築く!!」
「身近に好いておる者がいるのに浮気しておるからじゃ」
「はっ? 愛理が? まっさかー!!」
と、言いながら、オコジョの愛理にキスをして、魔法少女から私服に戻る雅。
「こやつ、自分への好意には大変鈍感なようじゃのう……まぁ、それはさておいて、最初の任務、ご苦労であった。最初にうってつけの病んだ者であったのう」
「まるで、チュートリアルだったな。あぁ、もっと魔法でドンパチ戦うのかと思ったぜ~。魔法少女業、楽勝じゃん!!」
「いや、今回は、かの者が心を閉ざしている場合だったからじゃ。もし、心が荒んでおったら、暴力を働いておっただろうな」
「なるほど、精神の状態でハートから闇が発生してそれが形状を成すのか」
「さよう」
「今回の場合は気持ちが塞ぎがちだったから、鉄格子みたいな闇が現れたんだな。次はどんな人が現れるだろうな」
「この社会はストレス社会。次から次へと現れるだろう。だが、今日はとりあえず、反応はなくなった。風呂に入り直すが良い」
「そうだな。あ、そうだ。愛理を人間に戻す方法ってどうやってやるんだ?」
「指パッチンじゃ」
「は?」
「だから、親指と中指使ってやる指パッチンで愛理は人間に戻る」
「マジかよ。愛理。私の肩から降りて」
愛理は言われた通り、肩から降りて地面に立ち、雅は右親指と右中指をパッチンとはじいた。愛理はたちまち人間の姿に戻った。
「わぁ、私の姿が人間に戻った~」
「まるで、手品みたいだな。良かったな、愛理、これで必要な時だけオコジョでいればいい」
「そ、そうだね……」
正直、オコジョのままでいれば四六時中、雅ちゃんと一緒にいられるのに……でも、お父さんやお母さんに心配かけちゃうか。いくら雅ちゃん家にいたとしても電話かけてくるかもしれないし。もしかしたら、隣だし、急に来るかもしれないし。その時、オコジョだったら、どうやって説明したらいいかわからないし……
「じゃ、風呂は各自の家で入るってことで」
「さっき、約束したじゃない。終わったら洗ってやるからなって。だから、今日は雅ちゃんの家でお風呂入ります!」
「えっ、いやぁ、別に構わないけど」
「お疲れの雅ちゃんの背中流します!」
そう言って、ずんずんと雅の手を引いて帰る愛理。
「おわわっ、おい愛理。そんなに急がなくても大丈夫だって」
「あ、もしもしお母さん? 今日、雅ちゃん家に泊まるから! お夕飯の残りは明日食べるから! またね!!」
「電話も済み!! そこまでして俺ん家に来たいか!」
「だって、雅ちゃんと久しぶりにお風呂入りたいんだもん」
「そうか! ならお互いの背中を流し合いっこしようか!! あと、ご飯は今日、外食な」
「手軽に済ませよう。コンビニのおにぎりでいいよ」
「あぁ、そうするか。あまり小遣い使いたくないし」
帰途の間にコンビニに寄り、おにぎり二つを購入し、食べ歩きながら破魔家に向かう二人。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「あら、愛理ちゃん。いらっしゃい。雅もお帰りなさい」
「今日、愛理、家に泊まるから、よろしく~」
「お世話になります」
「あら~。最近、お泊りしてなかったもんね。ゆっくりしていってね」
「はい」
「じゃあ、もっかい風呂入ってくるから~」
そして、脱衣所へ。雅は何の恥じらいもなく服をささっと脱いでいくのに対して、愛理はまたしても恥じらいがこみ上げてくる。
「雅ちゃん、指パッチンしてくれない?」
「へ? 何で?」
「は、恥ずかしいから……」
「今更、恥ずかしいも何もないだろうって……って、かなり恥ずかしいみたいだな。顔真っ赤だ。仕方ない」
雅は右親指と右中指をパッチンとはじいた。愛理はたちまちオコジョとなった。
「オコジョの体を洗う方が楽でしょ? ね? ね? 雅ちゃん!」
「何、誤魔化しているんだよ……ま、いいか。その姿も可愛いよ、愛理」
ポーッ。(出たよ、雅ちゃんの天然たらし……)
「もう全身が真っ赤だな。本当、熱でもあるんじゃないか?」
「大丈夫だよ。さ、洗ってください……」
「あぁ、俺が洗い終わったら、洗ってやるさ」
雅は体をゴシゴシ洗い始めた。
「それにしても、今日、急遽、魔法少女になるとはな……フリフリした典型的な魔法少女なら、愛理の方が似合うのにな!!」
「そんな、美人な雅ちゃんなら、フリフリだろうが、今のタキシードだろうが、似合うよ」
そう、女好きという点があるが、雅は容姿端麗なのである。だから、女装も男装もどちらも似合うのである。いわゆる残念なイケ女である。
「おいおい、やめろよ。フリフリなの嫌いなこと知ってるだろ? それに愛理は可愛いじゃないか。昔からスカート履いていてお洒落しているし」
「そうだけど……似合っているのは雅ちゃんだと思うよ。破魔家は、代々、巫女の家で巫女装束の雅ちゃんとても美人だし」
「うげぇ。あれは嫌々着ているんだぜ? あーあ、ズボンにならないかなぁ」
「由緒正しき服だから無理じゃないかな……」
「ちぇっ。あー、もしかして霊力があるから魔法少女にも選ばれたのかな?」
「そうかもしれないね。私はからっきしだもん。服はフリフリの魔法少女服着たかったけど、適性は間違いなく雅ちゃんだよ!」
「婆さんの魔力があれば二人共魔法少女になれたって言っていたけどな……」
「服着られないのは残念だけど、雅ちゃんをタキシードにおめかしする役頑張るね!!」
「そうだな。俺好みのタキシードだ。カッコ良くしてくれよな! よし、洗い終わった。愛理、体洗ってやるぞ!!」
「はーい。優しく洗ってね」
「オコジョってどうやって洗ったら良いのだろう? 犬と同じで良いかな?」
まず、前肢・後肢にタオルをあてがい洗う。
「わぁ、くすぐったい……」
次にデリケートなお尻・内股を洗う。
「ひゃぁ~……」(人間の姿だったら、もっと恥ずかしかっただろうな。いや、そもそも、自分で洗うか)
次に胸、背中。
「……」(こここそ、人間の姿だったら恥ずかしいだろうな。雅ちゃん、胸触るの好きだし。愛理は巨乳だから触り心地良いとか言って……雅ちゃんは、家で弓道やっているから胸鍛えられてて硬いもんね)
最後に頭部・顔を洗う。(頭はわしゃわしゃしてもらうの何だか物足りない気分……頭は人間の髪でやってもらう方が気持ち良いかも)
雅は桶にお湯を溜めて、愛理にザバーッと勢いよくかけてやる。愛理はブルブルッと震えてお湯を払う。
「うぉ、動物だと皆、濡れたら本能的に震えて払うんだな」
「そうなのかも、私、無意識でやっていたよ」
「よし、風呂に浸かるか」
そうして、雅は愛理をつまんで一緒に湯船に浸かる。愛理は雅の谷間に挟まっていた。
「雅ちゃん……こここここって……」
「俺の胸だ。一応そこそこあるからそこにいれば落ちないだろう」
(あぁ、雅ちゃんの胸……硬くて、安心感があるよぅ)
「昔からこうやってくっついて入っていたもんね」
「あぁ、浴槽がもっと広ければ良いのだけど、これ以上は大きくできないからな」
「広くなくて良いよ。雅ちゃんとくっつけるから」
「それもそうだな。よし、愛理を元に戻すか」
パチンと指パッチンをする雅。オコジョから人間の姿に戻った愛理。人間二人になった故にお風呂のお湯が溢れ出す。
「どうして!?」
「愛理の胸を揉みたくなって」
と、言いながら雅は愛理の胸を形が崩れないよう下から優しく揉む。
「ひゃんっ!」
「良い声で鳴くじゃないか……そそられる」
「のぼせそうだから、そろそろ上がろう、雅ちゃん!」
「それもそうだな、乳がんの恐れもなさそうだし、上がろうか」
「触りながら、私の胸にしこりがないかチェックしてくれていたの!?」
「ああ」
「雅ちゃん……」
(本当、女たらしだけど、優しいんだから……)
「いやぁ、一仕事終えた後の風呂は最高だったな~愛理の胸も揉めたことだし!!」
「もぉ~雅ちゃんったら……素直にお疲れ様って言えないじゃん」
「はっはっはっ、つい煩悩がだな。明日はどうなるやら」
「そうだ、宿題しないと!」
「おぉ、そうだな。やってからでないと寝られないな」
二人で協力して宿題を終わらし、ベッドで共に寝た。この時は雅も疲れていたのか愛理の胸は揉まなかった。愛理はほっとしたようなちょっと残念な気持ちで寝た。
次の日、授業中は病んだ者の気配が感じられなかった。放課後になったが、今のところ、何もない。
「おいおい、平和じゃないか。幼女向けアニメみたく毎週で現れないのか?」
「まぁまぁ、平和なことは良いことじゃない、雅ちゃん」
今日は、愛理の家に居た。部活に所属していない為、二人は放課後、雅が巫女の仕事しており、愛理はそれの手伝いと、部活所属の学生並みに忙しいのだ。結局は境内を掃いて、宮司である父から遊んできてもいいよとのお達しがあったので、現在は商店街をうろうろしている。
「なんだかパトロールしている気分だな」
「わかる。だけど、気配は感じないね。この辺は病んだ人はいないのかも」
「不景気でも商店街は活気が湧いているからなぁ」
結局、この日は何事もなく終わった。
それから六日経った放課後。今日は境内の掃き掃除をしている。
「中々、現れないな」
「そうだね、私達お役御免かな?」
「それでも良いけどな~ただでさえ、学生に巫女に忙しいというのに……はっ!!」
「雅ちゃん、来たようだね……」
雅は指パッチンをして愛理をオコジョにして、口づけを交わす。
そして、魔法少女になると天使の翼を背中に生えさせ、オコジョの愛理を肩に乗せて現場へ向かう。
現場に到達すると、セーラー服を着た学生らしき女子がいた。
「まだ、闇が展開されていないようだな。このままキスに持ち込めば……」
「何で、魔法少女なんて引き受けちゃったんだろう……辛い……」
途端、ドクンという大きな心臓が鼓動する音が響いた。
「なんだ、何の音だ!?」
女子学生の胸の辺りから闇色に染まったハートが出てくる。ハートがネックレスに変化すると、少女は、闇の炎魔法を放ってきた。
「あの人、魔法少女なんじゃない? 雅ちゃん!」
「かもな、応戦しないと……ウォータードラゴン!」
勢いのある水龍が、闇の炎魔法を鎮火する。
「炎を得意とする魔法少女だろうか? まぁ、でも魔法で何でも出せるから問題ないか……いや、待て、向こうもそれは同じか」
と疑問に思っている間に、鬼火が雅の周囲に展開されていた。
「やっぱ、炎系統の魔法少女なのかな。鬼火って火傷半端ないんだよなぁ……ウォーターポンプ!」
地面から勢いよく水が噴き出る。鬼火は鎮火する。
「いたちごっこだね」
「あぁ、キリがないな。何か武器でも出すか」
雅はフェンシングの剣を召喚し、この剣に水を纏わす。
「これで、炎が放たれても消すことができる。そして、接近もできる。はぁ!!!!!」
少女は、近づいてこようとする雅に向けて、無数の火の玉を繰り出す。雅は水を纏うフェンシングの剣で薙ぎ払っていく。そして、ハートにフェンシングの剣が触れた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「よし、手ごたえありか!?」
だが、ハートから大量の闇が溢れ、少女を呑みこむ。少女は何と形容して良いかわからない化け物に変化した。
「ぼおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
闇の鉤爪で雅を引っ搔こうとするが、雅は紙一重で避ける。避けた隙に水のフェンシングの剣でハートを突く。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
少女は悶え苦しみ号哭した。
「何とかして、ハートのネックレスを外さないと」
「雅や。聞こえているか」
「婆さん、相手が魔法少女なんだがどうしたらいい?」
「ハートが同化しておるが、元には戻せる。この方法を試せ、投げキッスじゃ!!」
「投げキッス!? そんなん通用するか!!」
「それが通用するのじゃ。魔法少女時のキスは特別で、赤いハートが出てくる。それを当てれば、相手を一時的に虜にすることができる。その隙に、ハートに手で触れ、中へ元に戻し、抱きしめキスをすれば完了じゃ」
「わかった、婆さん。やってみる!」
雅は自身の唇に剣を持っていない左手の人差し指と中指を添える。そして、解き放った。そうすると、赤いハートが現れて、少女の方へ飛んでいく。
「がああああぁぁぁぁ」
少女は黒い炎を吐く。赤いハートは灰となった。
「タイミングよくぶつけないと、ハートが灰になっちまうな」
「あの人め……よくも雅ちゃんの愛を灰にしちゃうなんて……」
「愛理? 怒っているのか?」
「怒るに決まっているよ! 私だってしてもらいたいくらいなのに!! 雅ちゃんの寵愛を台無しにするなんて!!」
愛理は、雅の肩から飛び出し、化け物の少女の上に乗る。
「雅ちゃん、敵の注意を引き付けておくから、その間にハートを当てて!!」
愛理はちょこちょこと敵の上を這い、隙を作る。化け物の少女も、雅を狙えば良いのか、愛理を狙えば良いのかオロオロしている。
「ありがとう、愛理、これで狙いやすくなった! 食らえ!」
雅は自身の唇左手の人差し指と中指を添えて解き放った。赤いハートが現れ、化け物の少女の黒いハートに重なる。
ドクンッ!! 力強く脈打つ音と共に、化け物の少女は動きが止まる。
「今だ!!」
雅は、両手で化け物の少女の黒いハートに手で触れるとネックレスの鎖は砕け散り、少女の中へ入っていく。そうすると、元の少女の姿に戻った。
「今宵、あなたの心を盗みに来ました。魔法少女雅です。今まで、よく魔法少女業を頑張りました。お一人で寂しかったのでしょう。私が解放して差し上げます」
雅は少女を抱きしめた。そして、唇を奪った。少女は目を見開いたが、雅のキスに体を委ねた。その間に愛理は雅の肩へと戻った。唇同士が重なった途端、少女の胸元が光りだし、先程吸い込まれていったハートがまた飛び出し、闇は払拭され、明るい赤色になり、また元に戻っていく。雅は名残惜しいが、唇を離した。
「あの……助けてくださって、ありがとうございました。まさか、私が闇落ちをしてしまうだなんて……」
「いえいえ、どういたしまして。可愛い女の子に似合うのは涙ではない。笑顔です」
「あなたは弱音を吐かずにこの魔法少女業を頑張っているのですね……すごいです……私は孤独にやっている内に、自分の心の不安に打ち負けてしまいました」
「ですが、もう大丈夫ですよ。口づけの時、あなたの魔力は私が引継ぎましたから。もうあなたは魔法少女を卒業です」
「ありがとうございました。これで、もう孤独な戦いをしなくていいんだ。あなたには心強い相棒がいて良いですね」
「えぇ、まぁ。あれ、魔法少女になる契約した時、使い魔になってくれる人いなかったのですか?」
「私がなった時は、私だけ魔法少女にしてすぐに魔女さんは去っていきました。だけど、驚きました。救ってもらう方法がキ、キスだなんて。私は魔法で浄化だったのに……」
「これも魔力が籠った口づけですよ」
「良かった……呪縛から解放されたんだ……本当、良かった……昔、アニメで魔法少女もの見ていて憧れがありましたが、現実は厳しかったです。これで、普通の高校生に戻れます」
「私より、年上!! 年上もイケます! お姉さん、私とお付き……愛理、噛むな!!」
「あはは、ご主人様が取られると思ったのかな? 取らないよ~。では、本当にありがとうございました。さようなら」
「あぁ~行ってしまう~」
「もう、雅ちゃんったら……今回は、投げキッスまでしてサービスが多すぎだよ!!」
「俺もここまでするとは思わなかった……」
「愛という最強の魔法を使っているのじゃ、もっと胸を張れ、雅や。だが、浮気になってしまうかのう」
「うぅ……」
「愛理、泣いているのか……?」
愛理の頭を撫でようとすると……
「うぅ……うあああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
突如、愛理の体が宙に浮く。そして、その体は徐々に闇に染まっていく。指パッチンをしていないにも関わらず人間の姿に戻り、堕天使のように黒い翼が生え、空高く飛んでいく。
「愛理が闇落ちしたのか!?」
「そのようじゃ、後を追わんか!!」
「そうだった。翼よ!!」
天使のような翼を背中に生えさせ、愛理の後を追う。
「待ってくれ!! 愛理!!」
「魔法少女を続けていたら、雅ちゃんが他の女性とキスしているところを見ないといけない……そんなの耐えられないよ……もう、こんな世界、滅ぼしてやる……」
堕天使の翼が愛理を包み込むように折りたたまれ、さらに愛理を取り囲むように黒色の棘(いばら)が生えてくる。
「愛理!! お、俺が悪いのか!? 魔法少女になって、他の女性とキスをしていたから……」
「雅や。落ち着きなされ。お前さんの本当の気持ちをぶつければ愛理は元に戻る。世界を滅ぼすと言っておるが、魔力はワシの少し残っていた程度のもの。せいぜい、この辺りを吹き飛ばすくらいが限度じゃろうな」
「爆発みたいなこともできるのか!?」
「あぁ、できる。じゃが、自身も巻き込まれるがな」
「そんな自滅技させねぇよ、愛理!!」
「先程の魔法少女の魔力も受け継いだ雅は、より強くなっている。臆することはない。ゆけ! 雅!!」
「おうよ!! 愛理、待っていろよ!! 元に戻してやるからな!!」
黒色の棘はすっかり愛理を覆いつくしてしまった。
「まずは、あの周りの棘をどうにかしないとな……中の愛理に危害が及ばないように……ファイヤースネーク!!」
蛇状の炎が雅の手から噴射され、棘に向かっていき、とぐろを巻く。
棘は焦げ付いた程度でびくともしない。
「火力を上げないとダメか!? なら、ファイヤードラゴン!!」
火龍が棘に向かっていき、とぐろを巻く。しばらく燃焼させていると、中の愛理が見えてきた。よく見ると、先程までなかった愛理の周囲は青く半透明のクリスタルのようなもので囲まれている。だが、それは一瞬でまた棘によって遮られてしまった。
「棘に、クリスタル、堕天使の翼に囲まれているのか。あのクリスタルも魔力で形成されているのか?」
「そのようじゃな。あのクリスタル、どうやら魔力を吸収するようじゃな。だから、炎の火力を上げても愛理に何ともなかったんじゃ」
「そういうことか。なら、遠慮なく、魔法をぶっ放していいってことだな!! クリスタルは一旦放っておいてよ!!」
雅は手から無数のファイヤードラゴンを召喚し、棘に向けて放っていく。棘は根絶やしになり、クリスタルが宙に浮いている状態となった。
「さて、こっからどうすっかな……」
「雅や。先程の魔法少女から受け継いだ魔力でお主に新たな力に目覚めておる」
「何だって!?」
「目を閉じ、愛を意識するのじゃ。お前を愛する家族や友人の愛、助けた少女達の愛、何よりいつもそばにいる愛理の愛……」
「……」
雅は目を閉じ、受けた愛への意識を向ける。愛のオーラが雅を包み込み弾けた。雅の服装はタキシードから、巫女装束となっていた。
「げっ、いつもの巫女装束……いや、下がズボンみたいになっている」
そして、手には弓、背中には矢を持っていた。
「これが新たな力か……騎士になるとか鎧を期待していたのに!!」
「お主の霊力には、やはりこの恰好が似合うということじゃな。今のお主は霊力と魔力が融合し、最強の魔法少女となっておる!!」
「何!? この恰好がか!?」
「さよう。その手に持っている破魔矢は退魔の矢。愛理に憑りついた闇を立ちどころに払ってくれよう」
「俺が普段、鍛えている弓道がこんなところで役に立つ日が来るとはな……」
「矢は五本しかない。然るべき時に当てるのじゃ」
「わかった。クリスタルのどこを狙えばいい?」
「中央を狙うのじゃ。そうすれば、割れるだろう」
雅は呼吸を整え、弓を引く。一本も無駄にするな。これで決める。
ヒュッ!!
放たれ、勢いがつく内に光を纏う破魔矢。破魔矢は、クリスタルの中央を捉えた。バリーンとガラスが粉々になるような音が響き渡り、中から愛理が出てくる。だが、その姿は堕天使の翼に包まれたまま。まだ、愛理の心は閉ざされたままだ。
雅は背中から矢を取り出し、弓に宛がう。そして、破魔矢を放つ。
破魔矢は、光を纏い、愛理の方へ飛んでいく。だが、闇のバリアが、破魔矢の進行を防ぐ。光と闇が拮抗状態でぶつかり合っている。
「仕方ない、もう一本いくか……」
「待つのじゃ!! お前さんがすべきことはあの破魔矢に光のエネルギーを注ぐことじゃ。破魔矢を無駄遣いしてはならん!!」
「わかった。ホーリーシャワー!!!!!」
光のシャワーを破魔矢に浴びせる。そうすると、破魔矢は勢いづいて、闇のバリアにぶつかっていく。
パキーン!!とクリスタルより質量がなかったようで、プラスチックが割れたような音が響く。
「クリスタルより薄かったくせに、曲者だったな」
「そうじゃな。さて、愛理は目を覚ますかのう?」
球状になっていた翼は広がり、愛理の姿が目視できるようになった。だが、その姿は白い肌だったのが闇色に染まっていた。
「愛理……何て姿に……」
「雅、不本意じゃろうが、戦うのじゃ。愛理もまた闇の魔法少女となっておる」
「雅ちゃん……」
「! 意思疎通が可能なのか、なら戦う必要ないだろう。愛理、聴こえるか! 俺だ! 雅だ!! 元に戻ってくれ!!」
「無理だよ……これ以上、雅ちゃんといたら私、嫉妬で耐えられない。好きな人が自分以外の人とキスしているところ、あと何回見れば、世界は平和になるの? そんな気が遠くなるようなことより、今すぐ世界を滅ぼした方が辛いことから解放される」
「愛理……そんなに俺のこと好きだったのか……!! すまない鈍感で。愛理は幼馴染だと思ってた……だけど、違う。いつまでも隣に居て欲しいのは、愛理だった。俺も気づいたんだ。自分の気持ち。愛理、好きだ!!!!!」
「なら、その愛情を証明してよ!!!!!」
愛理は涙を流しながら、堕天使の翼から羽根を飛ばしてくる。
「ホーリーシールド!!」
光輝く盾を繰り出した。羽根は全て防ぐことができた。
「わかった! 愛理!! 俺の愛を証明してやる!!!!!」
雅は弓を構え、破魔矢を宛がう。そして、破魔矢を放ち、愛理の堕天使の右翼に当てた。今度はバリアとかはなく、堕天使の右翼は浄化され、天使の翼となった。
「よし、浄化された!! この調子で左も……」
「させないよ」
愛理は翼をはためかせて、飛んで逃げる。
「あ、飛ぶな、狙いが定められなくなるだろ!!」
雅も翼を羽ばたかせて、後を追う。
「こんなことなら流鏑馬も鍛えておくんだったな。そうすれば、動いていても、的に射ることができるというのに……」
手が震えることはないが、どうしても狙いがぶれる。どうすれば……そうだ。
雅は、右手に弓を持ち、唇に左手で人差し指と中指を添えて、愛を込める。そして、放つ!! 大きい赤いハートが現れ、愛理の方へ飛んでいく。
「ひゃっ!!」
愛理は愛の虜になり、動けなくなった。
「投げキッス、すげぇ。よし、今だ!!」
雅は破魔矢を構え、左翼に向けて放つ。堕天使の左翼は浄化され、天使の翼となった。翼の羽ばたきが段々なくなる。ついには、愛理は力尽きて、落ちてしまう。
「愛理!!!!!」
雅は、推力を高めて、愛理の元へ飛んでいき、お姫様抱っこで受け止める。
「ん……」
「愛理、大丈夫か!? 今、元に戻してやるからな」
そういって、黒いハートに触れようとした瞬間……闇のオーラが愛理を包み込んだ。雅は一旦、距離を取った。愛理は巨大な闇のオコジョとなった。
「シャアアアアアアァァァァァ!!!!!」
「くっ、あと少しだったというのに……」
オコジョは引っ搔き攻撃をしてくる。雅は紙一重でかわし、フェンシングの剣を召喚する。そして、爪の攻撃を薙ぎ払う。爪の攻撃が効かないとわかったオコジョは、嚙みついてくる。
「小さい時でも痛かったんだから、あんな大きかったらひとたまりもないぞ!?」
雅は翼を素早くはためかせて、あとずさんだ。また、オコジョの顔が近づいてくる。雅は思わず、オコジョの鼻に口づけた。
「!?!?!」
「言ったろ、俺の愛を証明するって……体の全部にキスしてやるよ!!」
キスされて、思考回路が停止中のオコジョは顔が赤くなり、どうしたら良いかわからないまま立ち尽くしている。
その間に、雅はオコジョの体にキスの雨を降らす。ビクッビクッと体を震わせるオコジョ。全身に受けた愛は、くすぐったさと温かさが溢れる。仕上げに、雅は、オコジョの黒色のハートを手で包み込むように触れ口づける。黒色のハートはオコジョの中に吸い込まれていった。後は、唇に口づけるだけなのだが、雅は何故か緊張していた。
(な、何故、今頃になって躊躇っているんだ!? 散々していたというのに!?)
意を決し、唇に口づける。オコジョの胸元が光りだした。先程吸い込まれていったハートがまた飛び出したが闇は払拭されない。
「婆さん、キスしたのに、闇が晴れないぞ!?」
「深淵の闇となっておるのじゃろう。なら、キスもさらに深いものにしないといけない。唾液を口移すのじゃ」
「……つまり、ディープキスをしろということか」
「そういうことじゃな」
「うわっ恥ず」
「ハーレムを築くとかほざいていた奴が何を言っておるんじゃ」
「いや、だって……」
「魔法少女のものは何でも魔力が籠る。唾液は聖水になるということじゃな。さ、早うせい」
ディープキスというのは、もっと大人なことしている時にするキスだと思っていた。だから中学生である雅にとっては、大人の階段を上るような感覚になった。幼馴染は俺のことを好きだと言ってくれていた。だけど、ディープキス、していいのか? と葛藤する雅。
だが、早く決断せねば、闇が広がり、また愛理は暴走してしまうかもしれない。
雅は決意し、愛理の顔に唇を近づけていく。
「「ん……」」
巨大なオコジョから人間の姿に戻った愛理。だが、まだ胸元のハートは闇色のまま。ドクンドクンと脈を打っている。一旦、唇を離す。
「愛理、俺の声が聴こえるか?」
「うん、ごめんね。迷惑かけちゃって……」
「いや、いいんだ。それより……その……」
「……?」
「これから、大人なキス……していいか?」
「え……う、うん。雅ちゃんになら私の全部、あげちゃう」
そう言って、目を閉じる愛理。
「わかった」
返事をしてすぐに口づけた。軽くちゅ、ちゅと啄むように口づける。これは準備運動だ。そう言い聞かせながら、少し吸い付くように口づける仕方に変える。口を開きくっつける。舌を伸ばし、愛理のと絡める。ビクッと震える愛理、けど、応じて自らも舌を伸ばし雅のと触れる。上に下に動き、右回り、左回り、あらゆる角度から舌を感じあう。はぁはぁと荒い呼吸になる二人。そして、雅は唾液を口の中で少し溜め、舌に伝わせて、愛理の口の中に流し込んだ。魔法少女の魔力の籠った唾液は聖水となり闇を浄化する。愛理は唾液を飲んだ。愛理の胸元が光りだした。ハートがドクンと強い鼓動を打ち、闇は払拭され、明るい赤色になり、中に戻っていく。
「ぷはっ、愛理、元に戻ったな。良かった……」
「ありがとう、雅ちゃん。闇に吞み込まれるところだったよ」
「なぁ、愛理。これからも魔法少女をしている時は、他の女性とキスして浮気してしまうことになるかもしれないけれど、一番好きなのは愛理だから……」
「嫌!!!!!」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ……」
「雅ちゃんのその破魔矢を使おう。あとね、私に聖水を流し込んでくれたおかげで何だか力に目覚めたみたい。ね、雅ちゃん、私ともう一度キスして?」
「へっ!? あ、ああ! いいぜ! 愛理から言われると調子狂うなぁ」
「私だって、言うのが照れくさかっただけで、雅ちゃんとキスしたり、手を繋いだりしたかったもん!!」
雅は愛理をお姫様抱っこして、見つめる。愛理は目を閉じた。そして、顔を互いに近づけあい口づける。雅はタキシード姿に戻り、愛理の姿はウェディングドレス姿になった。
「俺の姿が元に戻った。だが、背中にはまだ破魔矢と弓があるな」
「私はウェディングドレス姿になっちゃった。雅ちゃんのお嫁さんだよ」
「で、ここから、どうするんだ? 愛理」
「雅ちゃん、破魔矢はあと何本残っている?」
「あと、二本だな」
「この二本を合体させよう」
「そんなことできるのか!?」
「私がやるね。破魔矢を貸して、雅ちゃん」
「ああ」
背中から破魔矢を二本取り出し、愛理に差し出す。
「えいっ」
愛理の手が神々しく光輝いたと思いきや、二本の破魔矢は一本の破魔矢となった。
「本当に一本になった!! 少し大きくなった以外に何か変わったのか??」
「破魔矢の威力が上がったよ。あとは仕上げに私達のキスを乗せるだけ」
「だけど、打つ相手がいないだろう? もうこの破魔矢はいらないんじゃ?」
「そんなことはないよ。むしろ、これを使うことによって、地球上全ての人を救うことができるよ」
「すげぇ!! でも、何でそんなことがわかるんだよ」
「雅ちゃんの聖水が私の中の魔力を引き起こしてくれたんだよ!! これで、雅ちゃんが浮気しているところを見なくて済むんだよ!!」
「おいおい、褒めてから貶すのやめてくれよ……。ということは、俺はもう他の女性とキスをして救うことから卒業なんだな……少し寂しいな……」
「じーっ」
「ごめんなさい、嘘です、目が怖いです、愛理さん」
「世界が平和になっても浮気……しないでよね?」
「はい、善処します」
「じゃあ、始めよう。この一分一秒経っている間に苦しんでいる人々を救うため、私達の奥の手を使っちゃおう!!」
「いくぜ!! 必殺!! ……技名は何だ?」
「接吻×KISS×XOXO」
「おおぅ、濃厚な必殺技名だな。なら改めて……必殺!! 接吻×KISS×XOXO!!!!!」
破魔矢を間に二人で持ち、キスをする。最初は、軽く当てるだけのキス。顔の角度を適度に変えながら、唇を余すことなく味わう。そして、舌を絡ませる。二人の魔法少女の唾液という聖水が破魔矢に染み付いていく。
「ぷはっ、そろそろ良いんじゃないか?」
「そうだね、惜しいけど、そろそろ射ろうか。雅ちゃんお願い。空中にこの破魔矢を放って!!」
「任せろ!!」
いつもならば、前方を狙うが、狙いは天に向けて。破魔矢がどうなるか未知数だけど、愛理が言うならば、この矢は地球上の人々を救うのだろう。ならば、俺達のキスで願掛けした破魔矢をお見舞いしてやりますか!!
弓を構えて、矢の先端を空中に向ける。破魔矢は放たれた。煌めく光を纏っていたが、
「「ホーリーシャワー!!!!!」」
二人がさらに光を与えたため、眩く輝く矢となり、大気圏を突入した。
「宇宙まで行ったんじゃないか……?」
「そうだよ、これから、あの破魔矢は愛に変わる」
「愛?」
「そう」
破魔矢は、宇宙に到達すると、地球より遥かに大きい金色の女神となった。女神は、地球を抱きしめ口づけた。キスをしたところから、光の雨が降り注ぐ。それが全体に広がっていき、地球は一瞬だが、金色の星となった。心病む者の闇は消え去り、世界は平和になった。
「よくやった、二人共。まさか、接吻×KISS×XOXOを使い熟す魔法少女になるとはな……ワシの見立て通りじゃ。本当、ご苦労様じゃった」
「じゃあ、これで、俺達も魔法少女卒業なのか?」
「いや、それはわからん。お前さん達が生きている間に、闇が再び復活すれば、魔法少女として活躍せねばならない」
「え~、そんな~!! 雅ちゃんがまた他の女性とキスしなくちゃいけないではありませんか!!」
「いや、接吻×KISS×XOXOのおかげで、人々の心に愛が灯った。二人の合体魔法で牽制すれば、無事、解決じゃ」
「ちなみに、合体魔法って何だ?」
「雅と愛理のキスして発動する愛の魔法じゃ」
「え、雅ちゃんとキスして人々を助けるのですね!! 惚気になりませんかねぇ~、えへえへ!!」
「おい、愛理、顔がふにゃふにゃだぞ、大丈夫か?」
「二人を見ていると懐かしいのぉ。ワシにもパートナーがおったが、先に逝ってしまってな」
「あぁ、何だかすみません!!」
「良いんじゃよ。その代わりと言っては何だが、二人とも、かけがえのないパートナーじゃ。仲違いしないようにな」
「はい」
「おう。婆さんに見抜かれたように、俺はどうやら愛理を幼馴染以上の感情で意識している部分があったんだな。そういうところも含めて大事にしていくよ」
「あぁ、ワシみたいになっておくれ。ワシにも幼馴染で愛していた者がいたんじゃ」
「婆さんもハーレム希望者だったか」
「違うわい!! 一途じゃったわ!!!!! 雅のそういうところ治さないと、愛理に愛想を尽かされるぞ」
「雅ちゃん、齧るよ?」
「オコジョじゃないのに、怖い!! ごめんなさい!! ……ところで、もし、また魔法少女として活躍しなきゃならない時が来た時は、愛理はオコジョとして活躍なのか? それとも愛理も魔法少女なのか?」
「お前さんの魔力を分けてもらったから、機会があれば、共に魔法少女として活躍すれば良かろう。せっかく、合体魔法や接吻×KISS×XOXOを使えるのだし」
「え、接吻×KISS×XOXOって、まだ使えるのか!?」
「あぁ、この技は地球上の愛が消えそうな時に放つ奥の手だからな。また、人々が病み、悲鳴を上げれば使えるじゃろうな。または、どうしても倒せない強敵が現れた時とかな」
「ほぉ、覚えておくよ。でも、そんなの忘れちゃうくらい、平和な世の中が続けば良いよな。学生の内は、普通の青春送ってれば十分だな」
「私は魔法少女のお仕事悪くないと思うよ……だって、雅ちゃんとキスできるから……あ、そういえば、お婆さん。雅ちゃんを変身させる時はもうオコジョじゃなくて良いですよね?」
「あぁ、人間の姿でも口づければ互いに魔法少女になれるじゃろうな」
「わ~い、これで対等だ!」
「俺は、オコジョとキスするのも悪くないぜ」
と言いながら、指パッチンをする雅。だが、愛理の姿はオコジョにならなくなった。
「あれ、愛理がオコジョにならない……」
「やった~、これでキスする時は人間の姿でってことだね!」
「もう、愛理も魔法少女になれるだけの魔力を備えたということじゃな。残念じゃな、雅」
「えぇ~オコジョの手触り良かったのになぁ~。一日だけでもあの姿で過ごして欲しかった」
「私は人間の姿で雅ちゃんと、そのぉ……イチャイチャしたいから……そんなこと言わないで」
「さて、夜ももう遅い。早く家に帰って寝なされ。いくら明日、学校が休みだからと言って、夜更かしはよくない。あ、そうだ、魔法少女の恰好の解除の仕方は、私服を想像すれば戻れるぞ。また、変身する時もなりたい服を想像すればなれるぞ。お主達はそれくらい魔力を持つようになったからな」
「ふぁ~、そう言われればそうだな。眠い。愛理、帰るぞ。今日はうちに泊まっていけ」
「うん!!」
二人は翼をはためかせて、破魔家に飛んで行った。
母親にこんな遅くまで何をしていたのと怒られたが、散歩していたら遅くなったと言い訳したら、案外通じてしまい拍子抜けした二人。両想いとなった二人は、お風呂でも、ベッドの中でもキスをしたり、体に触れ合ったりした。
「愛理、愛しているよ」
「雅ちゃん、浮気しないでね。私、ずっと雅ちゃんのこと想っていたんだから!!」
「悪いな、俺が惚れっぽくて……だけど、今は愛理しか眼中にない。こんな俺のことをずっと想ってくれている人いるのならば、ハーレムなんか必要ない。愛理、今日は寝かせないかも」
「いいよ、ずっとずっと抱いていて。だけど、優しくしてね」
「悪い、つい情熱的に求めすぎてしまったかな?」
「まだ、体が未成熟だからか痛く感じるの。だから、壊さないようにお願いします」
「ああ、ガラス細工に触れているように大切に触れることにするよ」
想い人は案外近くに居たんだ……灯台下暗しとはこのことを言うのだなと思った雅。長年の想いが報われた愛理。互いに好きな人に触れられる幸せを嚙みしめていた。
時は経ち、中学三年生の受験生となった二人。イチャイチャは受験が終わるまでおあずけにしていた。接吻×KISS×XOXOの効果か受験の間は病んだ者が現れず、受験に集中することができた。そして、二人は同じ進学校の高校へ進学した。
そして、高校一年生になった二人、相変わらず、部活に入らず、勉強に家業の神社の掃除に勤しんでいた。
「そういえば、受験生の最中は病んだ者が現れなかったよな」
「そうだよね、私達の接吻×KISS×XOXOの効果のおかげかな♡」
「はははっそうかもな! それにしても魔法少女が戦う時にキスをするだなんて前代未聞だよな」
「私達が先駆け者か~。何だか感慨深いね!!」
「!! おい、愛理、病んだ者が現れたんじゃないか」
「私も感じたよ。行こう!!」
神社の掃除をさっさと済ませて、終わった父親に報告して、遊んできていいぞという許可を貰い、誰もいないところで二人は口づけをして魔法少女に変身した。もう口づけをする必要はないのだが、これが二人なりのルーティン変身のようである。
「学生は学業に専念させてくれよな!!」
「こんな、青春も案外悪くないんじゃない?」
二人の目の前には、闇色のハートを抱えた病んだ者がいる。同級生から病んだ者が現れてしまって、二人は屋上にいる。あやうく飛び降り自殺寸前だった。どうやら、部活が厳しくてついていけないようだ。そう嘆いていた。サッカー部らしく、巨大な闇色のサッカーボールになっている。
「いくぞ!! 愛理!!」
「いつでも、大丈夫だよ!! 雅ちゃん!!」
二人は唇に左手の人差し指と中指を添え、解き放った。赤いハートが現れて、虜にして動きを止めた。
そして、必殺技である
「接吻×KISS×XOXO!!!!!」
で、病んだ者を闇から解放した。
二人の魔法少女の戦いはまだまだ続く!!!!!
接吻《キス》×KISS《キス》×XOXO《ハグ&キスィズ》 シィータソルト @Shixi_taSolt
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