「別れの刻〜冷たかったアナタにさようなら」

椎茸猫

「別れの刻〜冷たかったアナタにさようなら」

ねえ、覚えてる?

あなたが小さかった頃、最初に頼ったのは、たぶん私。

固いものでも何でも、黙って受け止めてあげた。奥の奥で、誰にも気づかれない場所で。


ちょっと欠けたときも、何も言わなかった。

でもね、冷たいものもしみるようになって、夜中には泣きたくなるくらい痛くて……それでも、あなたは知らんぷりだった。


それでも、私だけは残ってた。

前の子たちはいなくなっても、私はずっとここにいたのに。


ようやく会えたと思ったら、白い部屋で、知らない人にこう言われたの。

「もうダメですね、抜歯です」って。

ふふ、あっけないのね。


あなた、少しほっとした顔してた。

それがちょっと、さびしかった。


最後にひとつだけ。

今度は、もっと大事にしてあげて。

……でもね、私みたいな子は、もう二度と生えてこないのよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「別れの刻〜冷たかったアナタにさようなら」 椎茸猫 @Runchan0821

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ