まえがき 改訂版④
⚫︎郡は霜積町、日見見町、二馬憩町、常咲町、客住町、渦末町、足安町、みはるヶ丘町、贋吉原町、鬼不去町、砂昇町、ふゆほたるハッピータウン、火下雪町、穴底町、浮穂村、水留村、蝉鳴村、墓無村、の十三町五村から構成される⚫︎⚫︎県の郡である。
筆者の生まれ育ったこの地は明治時代の廃藩置県によって周辺地域とともに⚫︎⚫︎県に統合されるまで、⚫︎藩と呼ばれていた。
石高は1万5千石。南には月の浜が広がり日本海と太平洋を一望できる。
北と東には野鯨山や坂船山をはじめとした八つの活火山が連なり、戦国の終わりから江戸時代初期にかけて多くの温泉が湧出した。
豊かな陸海の資源に恵まれたこの土地は、交易の拠点としても重宝され、大いに栄えたと記録されている。
現在では東京・大阪・京都・青森・熊本から車で1時間程度という交通の便の良さから観光地として知られ、特に二馬憩の温泉街や月の浜海水浴場は夏休みやGWに多くの観光客で賑わう。
郡全体を横切る足取川はかつてはたびたび氾濫し恐れられたが、現在では整備されて休日はキャンプ客も多い。
秋になると例年行われる似火祭りでは明暦の大火に倣って家々を赤い紙で飾り、その間を火まとい行列という真っ赤に着飾った子どもたちが練り歩く。
この際、先頭の子どもは赤い紙吹雪を四方に振り撒くので、まさしく赤尽くしといった趣だ。
この行列は午後から火が沈むまで休みなく行われるが、夕方になると本当に町が燃えているようで、息を呑むような美しさである。
行列を撮影したものが⚫︎郡の公式YouTubeからも上がっているが、カメラ越しではあの美しさを本当の意味で実感していただくことは難しいため、可能であればぜひ一度はその目に文字通り焼き付けていただきたい。
また、月の浜は古来より音楽に縁のある地であり、平成12年から毎年人気アーティストを招いて音楽フェスを開催しているため、それを目当てに足を運ぶ方も多いだろう。
そのような活気ある観光地である一方、実は⚫︎郡は怪談・奇譚が多く伝えられる地でもある。怪異の伝わる土地といえば遠野が有名だろうが、⚫︎郡もなかなかどうして引けを取らない多彩な伝承が残っているのである。
その多くはよくある妖怪や幽霊に関するものだが、中には何が起きていたのかもわからないような異様なものも散見される。
そしてその大半は⚫︎藩時代、すなわち江戸時代に残されたものだ。
幼少期、筆者は祖父母からそれらの怪異譚を聞かされ、恐怖と同時に強い高揚感を抱いた。
そこには当時を生きた人々の生々しい恐れと不安、そしてそれらを飲み込んで生きる強かさが根付いていた。
そして何より、話を聞くたびに当時と今が繋がっているような感覚を覚え、その感覚はしばしば時空を超えて筆者のいる場所と当時の⚫︎藩が重なっているような錯覚さえ生み出した。
本レポートは、旧⚫︎藩の怪異譚を紹介し、観光名所の影に隠れた「もう一つの魅力」を広く知っていただくことを目的としたものである。
主に民間の伝承・武士階級の人々が個人的に記した日記、当時の映像や音声記録などを元に、可能な限り忠実に当時の様子を伝えられるよう努める。
それを通してこの文章を読んでくださった方々もまた、時空を超え⚫︎の歴史と文化、その裏側にあった人々の恐怖心を見つめていただくことができたなら、これほど嬉しいことはない。
このレポートを読み、旧⚫︎藩に興味を持たれた方はこの機会にぜひ、ご自身でも旧⚫︎藩のことを調べ、旧⚫︎郡だけでなく、旧⚫︎藩にも訪れてみて欲しい。
(最終更新 2017/8/3)
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