因縁

 二〇一五年。東京。

「肝臓を一突き、凶器はワンハンドオープンの折りたたみナイフ。即死に近かったと思います。被害者ガイシャは銃を持っていたのにセイフティも解除していない。狭い車内の運転席側から刺していますし、犯人ホシは相当な手練れですね」

 ナイフが刺さったままの傷口を確認していた鑑識課員に、捜査一課の刑事が頷いた。

 不審な乗用車が昨日から駐車しているとの通報で、臨場した機捜が助手席で死亡している女性を発見。助手席の床に落ちた被害者が所持していたと思われる拳銃も見つかり、状況から殺人事件として所轄と本部による鑑識作業や聞き込みが始まっている。

 足元のトートバッグに入った財布には、現金とカード数枚、コンビニのレシート。女性の身元は、カードケースに入れられていた免許証と身分証明書からすぐに割れた。

 中島なかじま あきら。国籍は日本だが、ハーフなのか地毛と思われる髪と眉は茶色、そして琥珀色の瞳を持ち、鼻も高い。

 勤務先は在日米軍やCIAの出先機関と噂されている、福生市内の特殊法人だった。

 だが、管轄する所轄に捜査本部が起つ直前、公安部長の命で事件は刑事部の手を離れ、以降一切の情報は開示されることがなかった。

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