建設的暴動:スパナで殴れというバンドの記録

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機関誌『現場主義』/2019年7月号

特集:「スパナで殴れ」──現場発、爆音系パンクバンドの正体(前編)

取材日:2019年5月10日


結成から1年。建設現場で自然発生的に誕生した“工具系パンクバンド”「スパナで殴れ」が、今、現場と音楽の境界を破壊しつつある。

本誌は某資材置き場にて、彼ら4人による初の座談会を実施。なぜバンドになったのか? なぜ火花が飛ぶのか? そして、なぜマンホールを叩くのか?(取材日:2019年5月10日)


──メンバー紹介(編集部注)

・火花スズ(Vo):元溶接工。ライブでは火花を実際に散らす。愛機はアークスパーク式点火装置。

・ドリル寺田(Gt):ギターに電動ドリルを装着。演奏中に火災報知器を鳴らす常習者。

・セメント小町(Ba):作業服フル装備の土木系ベーシスト。MCはすべて土木用語。

・ナット田中(Dr):ドラムセットは廃タイヤ、ドラム缶、一斗缶、マンホール等で構成されている自作仕様。


──まず、なぜ“バンド”をやることになったのでしょうか?

スズ:たまたまだよ、マジで。2018年のクッソ暑い夏。現場の昼休みに、寺田がグラインダーで鉄骨削りながらスピーカーでメタル流してたの。 火花も音もすごくて、「……これ音楽じゃん?」って言ったのが始まり。

寺田:俺、マジで音作るつもりはなかったんだけど、スズが叫び出してさ。「鳴らすしかねぇ」って思った。

小町:私が「じゃあ基礎から組もうよ」って言ったら、スズが「お前ベースな」って。今考えるとだいぶ雑(笑)。

田中:(コーヒー缶のプルタブを開ける)

スズ:で、田中が近くの廃タイヤをスティックで叩いて、「……イケるな」って。それでバスドラ決定。


──なぜ“パンクバンド”だったのでしょう?

スズ:現場じゃ怒鳴っても誰も聞いてくれない。でも音にしたら、ちゃんと届いた。それがパンクだった。

寺田:あと、理論わからなくても爆音出せるのがいい。電動工具でもギターになるって証明したし。

小町:現場もバンドも、図面と違うことばっかり起きるし。そういう意味でも相性いい。

田中:(マンホールをライド代わりに軽く叩く)


──ではあえて聞きますが、火花スズさん、歌は得意なんですか?

スズ:得意じゃないよ!ていうか下手だよ!(即答)わかってるくせに聞くんだから、ひどい。カラオケで平均70点くらい。音程バーに「?」出るし。

寺田:俺、最初は叫んでるだけだと思ってた。ていうか、今もそう思ってる。

小町:でもね、スズの声って“通る”んだよ。現場でもライブでも。

下手とか上手いとか、そういうの超えてる感じがある。

田中:(親指を立てる)

スズ:一回だけボイトレ行ったけど、先生に「あなた、叫ぶほうが向いてますね」って言われて泣いた。

でもあたし、叫ぶのだけは昔からうまいんだよね。うまいっていうか、止まんないってだけ。

──だからこそ、パンクなんですね。



──バンド名「スパナで殴れ」の由来は?

スズ:その日、スパナでマジで殴ったの。機材じゃなくて感情を、ね。

工具って、人を守るものでもあるけど、ぶつけたくなる瞬間もあるじゃん。

寺田:スパナって、叩いたときの音がいいんだよな。軽くて、でも芯がある。

小町:私はあの名前、けっこう構造的で好き。力が一点集中する感じっていうか。

田中:(静かにうなずく)



結成1年とは思えない完成度のなさと、整っていないがゆえの説得力。

工具も魂もぶっ叩くこのバンドが、今後どんな現場を揺らすのか──。

後編では、ナット田中による「自作ドラムセット完全図解」、

そして火花スズの工業高校前でCD配布事件に迫る。

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