潮騒と龍の瞳
アガペエな呑兵衛
第1話 Capitanu Pirata
波に揺られて日光浴 …… 風が気持ち良い
「船長〜、現実逃避は止めましょうや ?」
無粋な声を無視して、優雅な手付きで冷えたグラスのワインを一口 ……
「ブフォッ!!ゲホゲホ!」
冷えて汗をかいたグラスに入ったワインの筈が、何故か生臭いブーツに溜めた海水だった
辛ーーーい!ぺっぺっ!
アタシはブーツを逆さにして中身の海水を海に戻す
ドポドポドポン
「ねぇ、この間降った雨水は ?」
「船長が全部飲んじまっただろ ?だから大事に飲めって言ったのに …… 」
「じゃ、何で海水が入ってんのよ ?」
「釣った魚を入れるとか自分で海水汲んでたじゃねえか、忘れちまったのかい ?」
「えぇ~覚えて無えなぁ …… ?」
ずぶ濡れのブーツに素足を突っ込んで、無理矢理引っ張って何とか履く
街に戻ったら新しいブーツを調達しなくっちゃ
「海水飲み続けるとアタマおかしく成るって言うわよ、ブーツより服を何とかしようぜ ?」
全裸のサポルテは船の帆を操り、風を捕まえる
船と言っても、丸太と流木を組み合わせた小さな筏だ
だけど、いっちょ前にマストと帆が有る
「帆って言っても、ウチ等の服を縛り付けてるだけだからな〜、良い加減全身隈無く日焼けしちまったぜ」
遮る物すら無い海の上で、照り付ける日射しで全身火傷に為らずに済むのは、真夏では無いお陰だ
神に感謝しなくちゃね
乗組員の叛乱に会い、無人島に置き去りにされたけど、副長と力を合わせて筏を作り漂流し始めてかれこれ一週間
全然陸地が見えない
島で捕まえた蟹もとっくに食べてしまった
「島に残った方が良かったんじゃ無えの ?」
「水も緑も無い孤島で、どうやって生きて行くのよ ?」
「海の上で野垂れ死にするよかマシかもなぁ」
この海域には無人島が散在するお陰で潮流が不安定だ
「少なくとも木が生えてる島なら水くらい有るでしょ」
アタシがもう一度寝っ転がると、サポルテが頭の上から覆い被さって来た
「なに ?」
「飽きた」
「 …… する ?」
サポルテは答える代わりにアタシにキスをして来る
「不思議だよなぁ〜、飲まず食わずでオシッコも出ないのに、上も下もこんなに潤うって」
「何でも、人間の身体の8割は水分だそうよ … 」
「へえ ?さすがサポルテ、何でも知ってるわね」
二人して素っ裸で筏に寝転がり、夜空に輝く満天の星と2つの月を見ながら、他愛ない会話を続ける
星座の方向からすると、今は北寄りに流されているみたいだ
「このまま陸地まで連れてってくれると助かるんだけど」
「それ、毎晩同じ事言ってるわよ」
「そうだっけ ?」
その時、2つの月が雲で翳る
風が出て来た
「ピラータ」
「ええ、帆を!」
サポルテはマストを操り、アタシは湿ったブーツを脱ぐと海水で濯いで上を向ける
ポッポッ … サアアーーーー!
雨だ
もう片方のブーツも脱ぐと、雨水を貯めるために筏に並べ、アタシは久し振りの雨で喉を潤しながら頭を流す
潮風と日焼けでバサバサの髪が少しは潤う
幸い、波が荒れるほどの強風では無く、航海は順調に進む
翌朝まで降り続いた雨が止むと、一面の霧に包まれて右も左も分からなかった
「ねぇ、どっちだと思う ?」
「さっぱりだよ、なあんにも見えやしねえ」
やがて陽が昇ると霧が晴れ、眼の前に陸地が見えた
あつらえた様に、虹まで架かって二人の生還を祝福しているかの様だ
「ヤッた!ヤッたあ!!」
「ヒャッホゥ ♡」
ピラータとサポルテは抱き合うとキスをし、マストからボロボロになった服を外して身に着ける
「海岸まで2キロって所かしらね」
「どうする ?」
答える前にピラータは海へ飛び込んだ
「2キロ泳ぐ体力が良く残ってるわね ?」
呆れながらサポルテも後を追って泳ぎ出した
やがて海岸へ辿り着いた2人は、岩の上に大の字になって息を整える
「ああーーーっ、揺れない地面って大好き♡」
「良く生きて戻れたよねアタシ達 …… ♪」
手を繋ぎ、互いに指を絡めるとサポルテがピラータに抱きつきキスをする
「んん …… こんな所でしないわよ ?」
「何で ?誰かに見られるのが恥ずかしいのかい ?」
「そんな事無いけど … ねぇ、それよりお腹すいたわ、もうペコペコ」
「あ〜、そりゃ賛成だ ♪どっかで、食いもん探すとするか」
2人は立ち上がるとブーツの中の水を捨て、ビショ濡れの服を搾ってから歩き出す
ピラータはコートのポケットから丸めた三角帽子を取り出すと頭に乗せた
亡くなった祖父の形見の帽子は擦り切れてボロボロだが、正面にはドクロマークが誇らしげに刺繍されている
所謂、海賊船長の帽子だ
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