第2話『平山角左衛門と動くパンダ』

お腹も満たされ、尾道の商店街をブラリ。

最初に目についたのは、自転車屋さん。店の中も、店の前にもタイヤのちっちゃい自転車。

しかもスポーツタイプ。

カッケ〜♪

さっき通ったクロネコ宅急便の営業所。自転車の全国発送って書いてあったの、何かなと思ったけど、あれってしまなみ海道が近いからだな、きっと。

自転車の聖地か。

わたしも休みの日は乗るけどな、ママチャリ。名前はガンダム号。白いからそう名付けた。

おっ!

ノスタルジックな町の銭湯。

大和湯。

ひとっ風呂浴びようかな。

···ん?

水色の『ゆ』って書いてある暖簾もかかってるのに、ここ銭湯じゃない。

昔の銭湯の建物をそのまま利用した中華料理屋さんだ。

おもしろい。

こんなの好きだな。

店の前にあるメニューを見ると、美味しそう。けど、今はお腹イッパイで何も入らない。

おや。

こんなとこに石でできた座像がある。石のお侍さんだ。

尾道町奉行 平山角左衛門。

チョンマゲに裃。閉じた扇子を持っている。袴の上におっきなドングリがお供えみたいに置いてある。町の守護神として、今でも愛されてるんだね。

尾道の商店街はおもしろい。

メインの通りはオシャレなカフェとかもあるけど、どの店も派手過ぎずどこかレトロな雰囲気。お店の前には1回いくらみたいな昔の子どもの遊具がオブジェとして飾られてる。色の剥げたオバQや動くパンダ。

動くパンダ。

背中を下にしたパンダ。笑顔のパンダは、弧を描くように体を内反りに曲げ、首にはハンドルがあり、お腹は小さな子なら乗り込めるようにくり抜いて座席になっている。頭上にはカラフルなボールを、芸をするオットセイのように持っている。足下の注意書きには1回30円。体重制限は15キロまで。両替はお店までどうぞと書かれている。

30円か。

乗れはしないけど、動かしてみようかな。

···ヤッパ、やめとこ。奇妙な動きをしたら、夢に出てきそうだ。

狭い路地。

気になった。

足を踏み入れてみる。

古い住宅が壁のようにそびえている。電柱についた配電ボックスは正面が赤、側面は黄色いカラースプレーで塗られている。落書きのようなイラスト。品のない芸術家は何を訴えたかったのかはわからない。

見たことのないレトロなデザインのスクーター。艶消しの白い塗装は所々剥げていて錆びている。タイヤの空気は抜けていないことから、コレが乗り捨てられたのか、近所の住人のものなのかわからない。

天気のよい昼間なのに、建物の陰になって薄暗い空間。

目の前、そのずっと奥。

開けていて、明るい。手前に踏み切りがある。その先に見えるのはずっと山の上に伸びる石壇。

レトロな商店街。メインを外れた路地。そこを抜けると、目の前に広がるのは一面の坂だった。

登り斜面に住宅、お寺がズラリと並び、それを縫うように石段がずっとずっと上まで伸びていた。


第3話へ続く🐾♪

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