sideroad✦蜜月(R15)
「……ッふ、……ぁ…、……ッ」
ふるりと白い身体が震えた。
身体から引きずり出される感覚はまだ慣れない。
まだ赤子だなどと脅されたせいだろうか自分を不安にさせまいとひどく丁寧に、壊れ物かのように触れられる。
ベッドに横たわったまま、まだ整わない呼吸を抑えようと自分自身を抱きしめていた私をそっと抱き上げると額や目元に口づけながら胸に引き寄せて座り直す。いつの間にか汚れた身体は綺麗に浄化されてさらりとした感覚が気持ちいい。無体を働かれたばかりだと言うのに撫でられる感触に全てを許してしまう。
「大丈夫か…、何処か痛くはないか」
「…はい…、あ、の…」
「なんだ」
そっと聞いてみようか迷っていたことを口にしてみようかと思った。この
「こうして…、身体をあわせるのなら…女性の身体の方がよいのではないかと…」
「…? …女……?何故だ」
「私の身体は受け入れるようには創られておりません…、硬くて柔らかみもなく…その…、受け入れる器官もありませんの…、で」
「うん…?此処ではダメなのか」
「…ッう、ぁ……ッ、ンンん…ンー……」
前触れもなく秘部に指を這わされくぷりと既に柔らかかったそこへ二本ほど指を埋め込まれた。突然の衝撃に目の前の胸へと顔をうずめて耐える。
「……んん…ッ、ダメ、で…、す……ぁ、ぬいて……」
「……? なんだ、おかしなことを言う。此処で何度も俺を受け入れたろう」
「……お話が…、出来、な…ぁ、ぁ……」
「…うん…?なら話せ」
悪戯に奥を虐めようと蠢いていた指がゆっくりと引き抜かれて宥めるように口づけが瞼に落ちてきた。
「は、……ん、ぅ…… ……いきなり、悪戯はいけません…」
「そんなつもりはなかったが…なんだ、天使になると人間とは何か変わるのか。満足出来なかったなら…」
「違います!」
「……そうか」
本当に素なのだろうか…、軽く首を傾げて自分を抱き込んだまま見下ろしてくる。こしょこしょと耳元の髪を弄ぶのは最近の彼の癖だ。最初の頃からそうだったように思うが、どうやら自分のこの髪が好きなようで、よく無意識に弄んでくる。
だが違う。今はこの甘い空気に流されてはいけない、気になっていたのだ。
「クロード様は生まれた時のままがいいだろうとそのままの身体で創ってくださいましたが…、そもそも天使というものは性別などないのでしょう…?」
「あぁ…、そうらしいな。というか性別が違うと何かあるのか。人間は色事で愛情を交わし合うんだろう?そこに性別が何かあるのか」
「……ぇ…、あの…ステラ様は…男性…、なのでは…」
「……、その問いにはどう答えたら正解だ?この人間の身体は、オスだな」
「それはどういう…」
「俺自身にも性別はないからな」
そう言えばはっきりそう聞いた事はないが近いことは言っていた気がする。
「
オスは身体が、メスは心が強いと言うが魂は神である自分なのだから身体が強ければいいだろうと言うことだったらしい。
「人間は…、男と女が番うのが本来なのです…。子を成すための自然の摂理の話としてですが」
「子が欲しいのか」
「…いえ、そうではないのですが」
びくりと身体が震えた。
そう、自分には子がいるのだ。人であった身体で成した子が。……それを彼は、よく思っていないのではと 少し気にもしていた事だった。
「…? 何をそう考えることがある。よくわからんが、お前が憂いていることがあるならひとつずつ聞いてやる、全部話せ」
「…怒りませんか」
「お前のすべてが愛しい」
さらりと何のことはないという顔でそんな事を言う。負けてはダメだ。
「番うならば、男女の身体の方が交わりやすいかと思ったのです…」
「おまえはこの身体で生まれたのだろう」
「え、…はい」
「なら、これでいい。この身体で俺を受け入れるのが嫌だと言うなら色事はしなくても構わんが」
「え…」
「お前は、人であった時間の方がまだ長いせいか時折不安な顔をする。俺を疑うわけではなさそうだが…触れて、抱いた方が安心するんだろう」
一瞬よぎる胸の痛みが看破された。人間の愛し方しかまだ知らない自分は神の愛というものがまだ理解できない。
「子が欲しいと言うなら宿してやるが…、それだけならお前の性別などどっちでも構わん、種が必要な訳では無いしな。だがお前を子に取られるならいらんぞ」
「宿して…?」
「うん…?子など俺達は一人でも産めるのは知っているだろう。お前が欲しいなら俺とお前の子を創ってもいいが…、俺以外におまえが気を向けるのは面白くない」
そう言われればそうだった。実際彼自身が
「慌てず馴染め、ゆっくり俺の伴侶に創り変える。不安も苛立ちもすべて俺にとってはおまえの中の一つだ。おまえが何かを悩んでいる顔さえ面白い、全部喰って愛してやる」
「面白いだなんて…、意地が悪い」
「くく…、そうだな。だが…、今俺は愉快で仕方がない。俺には…ずっと何もなかった…、お前の全てが俺の存在理由だ」
「私は…、そんなに想われるような…」
「俺がお前以外の何かに欠片でも想いを分けたことがあるか」
「…ッ 貴方がそんな顔をするなんて、人であった時には気づきもしませんでした」
「俺はどんな顔をしている…?」
早くこの
でも、……人は神の映しだと言うではないか。
「私が、欲しくて欲しくて堪らない…、というかお…、んぅ…」
彼は口づけが本当に好きだと思う。隙あらば人前だろうと奪ってくるので正直最初は辟易したのだ。
口内を柔らかい舌が追ってくる。おそるおそる応えれば喜んで絡みついて深く息を奪われる。髪を絡みつかせ頭ごと抱き込まれてしまうから呼吸もままならなくてうまく流せない。下手だと言われればそれはそうだろう、こんなに強く、深く求められる口づけなど彼が初めてなのだから。
濡れた音が頭に響く。同時に永い永い刻を独りで過ごした慟哭を飲み込んでいるかのようで…こんな悲しい
「…、ふぁ……、ステラ、さま…」
「ん、なんだ」
「……いやだと言っても……やめないで欲しい…、……でも狂うのはイヤです、貴方が分からなくなる…」
「………くく、難しいのに愛しい事を言うな だが、いいだろう お前の望むように…してやる」
❀❀❀
「…楽しそうだね、お前」
「それはもう」
「クソが。俺も彼奴に触りたい」
「引きずり出せばよろしいでしょう。貴方はあの方に甘過ぎる、本当はどんな手でもあるでしょうに」
もう気が遠くなるような年月をこいつらはこうして過ごしているのだ。こんな不平不満さえもいちゃついているようにしか見えない。好きでやってるんだろうから構う必要はないのだ。
「そんな茶番より
「おい、よく言ったな。なんだよ」
「アレは後ろから抱こうとすると酷く…、嫌がるわけではないのですが…淋しそうにするのがわからないんですよね、貴方わかりますか」
「知るかァァァあ!」
役に立たない親だ。
「じゃあ…」
「まだあんのかよ…、なんで息子の蜜月の話聞かされてんの」
「息子って言うな。アレが先日女の身体でなくていいのか、と聞いてきたのですが…どういう意味か分かりますか」
「あん…?」
「身体の形が違うだけでなにが良いのか悪いのか、何故女の身体だといいんです?愛情とやらを交わすのに不都合はないと思うのですが」
「…あー、あ?何となく、わからんでもないが…お前にはわからんだろうなぁ…」
「なんだ貴様、思わせぶりだな」
「おい、クチ」
「失礼いたしました…、教えていただけませんか」
「まぁ、元が人間だからだろ余計なことを考えるのは。そこの部分はお前はどうひっくり返しても理解できんだろうから諦めるとして、刻が経てば気にしなくなるさ。あとは単純に抱きやすいからじゃねぇの」
「…ふ、ん……?そうなのですか」
珍しく親の意見を求めたらなにやらわかるようなわからないような。こいつらは少なくともどちらの身体も相手にも自分にも経験している。間違ってはいないのだろうが何か釈然としない答えだ。
「お前は人間にはなれねぇから
「ん…、キースじゃない形になるのはなんだかどうにも不快だったので、そのままでいいと。俺はアレがいい」
「ははは、おまえホントにあの精霊使い好きだね」
「…えぇそのようです、自分でもどうしようもありません。面倒くせぇな、と思っていましたが今なら貴方の気持ちも少しは汲んでやらんでもない」
「オイコラ。…まぁいいけどよ、んじゃ変えねぇの」
「だがそうか…、あの身体だと負担なんですか」
少し思案する。
だがどうにもキースの形を違うものに変えるのは嫌だった。
❀❀❀
「あの…、クロード様」
「ん、なんだい 私の可愛い花の子よ」
「……久しぶりに聞きましたね、それ」
「ははは、懐かしくなってね。今はもう私の子といってもいいから何となくね、で どうしたんだい」
こんな話をしてもいいのか、この期に及んで迷いながらゆっくりと言葉を選ぶ。
「ステラ様、が…」
「うん?あの子がどうかした」
「ツライなら…、代わろうか…と 仰るのですが…どう答えたものかと……」
「……うん、どんな話か経緯がわからないが…、君のその複雑に可愛い顔からして勇気がいる内容なのだろうねぇ…、なぁステラ?」
「は、え…?ス、ステラ様…!」
いつの間にか音もなく部屋の隅に現れていたステラが足を組んで、頬杖をつき、キースが気づかないのをいい事に盗み聞いていた。
「俺を呼ぶから何の話かと思えば」
「名を口にするだけで来てたらきりがないだろう。で、何の話なんだい」
「いや…、
「……交代しようと?」
「ステラさま!」
ゆっくりと隅のソファから立ち上がり歩み寄ると、なんとか口を塞ごうとキースが抱きついてきた。あまりに珍しくてついわざと話を続ける。
「思えば、子も成しているのですからそちらの方が慣れているのかと」
「ステラ様!彼女とは初夜の一度きりですから!」
ハッと我に返ったキースが固まっているのに思わず吹き出す。
「……君がそんな風に笑うのは初めて見たよ」
「クク、アハハハハッはは は…、
「貴方という
「お前がツライだけなら意味がない。だが触れてやらんと不安がるしな、だからどっちがいいか聞いてみただけだ…、どちらがいい」
すり、と指の背で頬を撫でながら優しげに優しげにそれはもうヒドイ事を聞いてきた。
「成る程、ベリルが言っていた息子の話が腹が立つと言うのはこういう事か…、成る程成る程。自分の部屋でやれ」
「うぅ…、申し訳ありません」
「君には怒ってないよ、ははは。君の悩みならいつでも話は聞こう」
「…何がいかんのだ」
本当に分からないという顔でステラが首を傾げる。そもそもこの
「…あとで…、ちゃんと話しましょう…今は…ダメです」
「…? そうか、ではあとで迎えに来る。いい子にしていろ」
さらりと頬に触れた体温が一瞬で離れて消えた。
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