雨降る中の吸血 後

 突然の吸血行為に、ゾロは自身の鋭い三白眼を一瞬見開いたものの、すぐに元に戻り、抵抗もせずにエリスに吸血された。

 やがて満足したエリスはゾロの首筋から離れ、汚れた口許を手で拭いながら、ゾロを放って歩き出す。向かう場所は、扉のなくなった屋上の出入り口。


「大人しく帰る気になってくれたんだな。助かる」

「別にあなたの為じゃないんだけど。喉が潤ったからお腹を満たしたくなっただけ」


 ゾロは彼女の後を追おうとしたが、その場に立ち止まったまま、彼女の姿が見えなくなるのを待つ。


 待つ。

 待つ。

 待つ。

 待つ。


「──ちょっと! あなたが来ないと、ご飯が買えないじゃん!」


 エリスが頬を膨らませながら戻ってきて、ゾロは苦笑しながら、やっと動き出す。


「オレはお前の財布か?」

「忘れているようなら教えてあげる。あなたはエリスを拐ったのよ? だから、エリスの衣食住をどうにかする義務があるの。分かった?」

「はいはい」


 どこか緊張感のない誘拐だ。

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