ダンジョンで拾った俺専用の相談役【AI】は異世界知識が豊富らしい
穴楽ルチア
第1話 ダンジョンで拾った妙な板
そろそろ地上に戻るか──。
そう思いながら、ダンジョンの壁際に腰を下ろした。
中層階。三日目。背負い袋は魔物の素材でずっしり重い。
目的の物は大方そろったし、無理に欲張っても帰りがしんどくなるだけだ。
この《ドラグの寝床》には何度も潜っている。
街の中心に口を開けた、かつて“竜の棲み処”だったというダンジョンだ。
今じゃ都市の名前もそこから取られて、《ドラグロウ》って呼ばれている。
年寄りの中には、今でも《ホロウ》と呼ぶ者もいるけどな。
片手剣を握ったまま、壁にもたれて目を閉じた。
深層の魔物に比べりゃ、このあたりの相手はまだ楽なほうだ。
とはいえ気は抜けない。怪我して動けなくなったら、ソロの俺はそれだけで命取りになる。
……そろそろ、こういう生活も潮時かもしれない。
そんな考えが頭をよぎって、自分で苦笑した。
俺はリオン。年齢は──まあ、四十手前ってところだ。
平民だから生まれ年なんて記録にない。季節の巡りでざっくり数えてるだけ。
冒険者になって十数年。今はBランクの中堅どまり。
若い頃は昇格や名声に憧れてたけど、今はもう……そういうのを横目で見る側になった。
Aランクに手が届きそうで届かない。
Cランクの若造がぐいぐい上がってくるのを見て、「ああ、今が一番微妙な時期だな」と思う。
夢も目標も、特にない。
ただ、ダンジョンで魔物を狩って、素材を売って、その日暮らしをする──それが当たり前になっていた。
「……ん?」
ふと足元に、妙な光がちらついた。
さっきまで気づかなかったが、すぐそばの岩陰に、小さな宝箱がひとつ転がっていた。
まるで、誰かがそっと置いたみたいに。いや──「出現した」というほうが正しいか。
このダンジョンでは、たまに“素材じゃない何か”が出ることがある。
運が良ければ装備品。悪ければ、ただの錆びた鉄の塊。
今回は……どっちだ?
俺は腰を上げ、警戒しながら宝箱に近づく。
鍵は掛かっていない。罠もなさそうだ。
慎重に蓋を開けると、そこにあったのは──奇妙な“板”。
金属とも木ともつかない素材で、異様に滑らかな表面。
薄い直方体で、手のひらに収まる程度の大きさ。重さは──軽い。
「……魔導具、か?」
思わず声が漏れる。が、すぐにかぶりを振る。
どこにも魔石は見当たらない。魔法陣の刻印も、魔力の流れもない。
あるのはただ、ぬるりとした無機質な触感だけ。
この世界で“魔導具”と呼ばれるものは、大抵どこかに魔石──魔力を蓄積・運用するための結晶──が組み込まれている。
火を灯す灯具、冷気を生む保存箱、姿を隠す結界器まで、用途は様々だが、仕組みは基本的に同じ。
使用時にごく微量の魔力を注げば、内部の魔石が作動し、所定の働きを果たす。
精度や性能は製作者の腕次第だが、魔力の少ない幼子でも扱えるという点で、魔導具は広く普及している。
都市の貴族や商家では“生活魔導具”が、冒険者には戦闘や探索向けの“実用魔導具”が使われる。
どちらにせよ、魔石がなければ──ただの器。
だが、目の前のこれは──
「……どこにも魔石がない」
飾りか、模造品か。魔導具の外殻だけを模した子どもの玩具、という可能性すらある。
だが、どこか引っかかる。
この手触り。無駄に丁寧な加工。どの国の製品とも違う、異質な造り。
「ジャンク屋に持っていけば、銀貨一枚にはなるか……?」
俺はそれをポーチの隅に突っ込み、再び旅支度を整えた。
ひとまず、帰る。
調べるのは、それからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます