42話:監視役
握手をしているとイヴは思い出した様にハッとした様子を見せる。
何か忘れ物でもしたのだろうか?
すると勢い良く立ち上がり、
「それじゃ私はそろそろ行くから。」
「あ、またね」
そう小さく手を振る私に無言ながらも大きく手を振り返してくれた。
彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、窓から自室へ戻り寝床につく。
お昼頃に寝たとは言え流石に夜中まで起きて話をしていれば眠くもなる。
小さく
翌日、私は窓から差し掛かる日の
時刻を確認するととっくにお昼を回っていた。
今日は二度寝でもしようかと思ったその矢先、外が騒がしく感じる。
窓の外は昨夜イヴと話をした林となっているため何が起きているかは分からない。
仕方がないのでこの宿を一度出ることにした。
「おばさーん!」
階段を下り辺りを見渡すが誰も居ない。
どうやらこの宿に居た人も皆外に出ていってるらしい…ガヤつきようから祭り事とかでは無さそうだし、何があったのだろう。
不思議に思いつつもギラギラとした光を放つ太陽の下に出て直ぐに人集りを見つける。
そこに居る人々は何だか不安そうな表情を浮かべていた。
「あの…何かあったんですか?」
「あらあんたは……まぁ良いわ。実は捕まったの」
私を知っている様子のお婆さんは眉を細め耳打ちをしてくる。
「魔女って知ってる?それが今捕まったのよ」
その内容は頭の疑問符を消し去るには十分すぎることだった。
魔女。確かにこの人はそう言った。
しかしどうも納得いかない……私の知っている魔女のそれと同じならばここは阿鼻叫喚の嵐になっていても可笑しくはない筈だ。
なのにそうはなっておらずましてや怪我人の一人も出ていない。
私にはその違和感が強くて仕方がなかった。
魔女の顔を一目見てやろうと人集りの隙間を縫うように前へ出る。
そうするとポツリと立っている一人の女の姿を捉えた。
その少女はあの時助けた、あの夜共に話をしたイヴと言う名の少女だった。
「────え」
受け入れがたい現実を前に膝から崩れ落ちそうになる。
それを必死に堪え彼女をじっと見つめていると
その目は酷く驚いた後気まずそうに逸らされた。
あの時と同じだ……何か言葉を掛けようにも声がでない。
違いがあるとすればあの時は恐怖、今は驚愕と言ったところか。
イヴは特に抵抗をするでもなく二人の警備員らしき人に連れていかれる。
彼女と話がしたい。でも何て声を掛けたら良いか分からず連行される姿を目で追うことしか出来なかった。
彼女が連れていかれたからか皆ガヤガヤと話ながらこの場を後にしていく。
そこに最後の一人になるまで居たのは私だけだった。
「あんたあの魔女と知り合いかい?」
「……はい、友達です」
一人で突っ立っていた私を心配してか宿屋のおばさんが話し掛けてくる。
こうしてくれるのはありがたいが正直何も話したくない気分だ。
私は今きっと酷い顔をしているのだろう。それがおばさんの目から読み取れる。
「そんなに気にしてんならあの子の監視をやりな。私から言ってやるから」
この人は突然何を言い出すのだろう。
他所から来たばかりの私が監視だなんて出来る筈がない。ましてや一宿屋のおばさんがそれを頼んだ所で……
「その気持ちも分かるがちょっとは信じてみなって」
おばさんは私の心を読んだかの様に言葉を並べ頭をくしゃくしゃと撫でる。
そんなに分かりやすかっただろうか?ともあれここまで自信があるんだ、賭けてみても良いだろう。
私はおばさんに向かって小さく頷くと早速あの警備員の元へ行ってしまった。
特に出来ることもないので自室へと戻り一息つく。
目を閉じるとあの光景が鮮明に映し出される。
連行される彼女……何だか悲しみの中に
冷静さを取り戻した私は今一度先程の出来事を思い出していく。
そうするとやはり彼女が魔女であることに違和感を持ってしまう。
もし本当にそうだとしても、あの時抵抗の素振りを一切見せなかった彼女が今まで出会った魔女とは別である事は明白だ。
そうしてベッドに座っているとコンコンッとノックが聞こえ扉を開くとおばさんが立っていた。
私の顔を見るや否や親指を立てウインクをしてくる。
どうやら本当に私が監視役をする事になったらしい。
・・・・・・このおばさん何者なんだ?まぁ何はともあれイヴともう一度話が出来るならそれに越したことはない。
早速明日から彼女の監視をする事になった。
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