30話:救済

「はぁ…結局謎が増えただけだったな」

「あの光景、夢に出そうだよ」


 僕達はげっそりとした顔であの家から逃げるように出ていった。

 手掛かりとしては一応あの日記帳を見つけれたのは不幸中の幸いと言ったところだろうか。


「あの日記帳の書き方からして、あの人は誰かに改造されたって訳だよね」

「あー…そう言やそんなこと書いてたな」


 小さな化物、これは一体誰の事なんだろうか。

 順当に考えればあの人を改造した者なんだろうけれども、何をどうしたら殆んどの骨を金属に出来るって言うんだ。

 しかもあれを骨として扱うには全然本数が足んないし。

 僕は思わず"はぁ"とため息をつく。

 兎に角今は早く二人のところに戻る事だけを考えよう。

 その時だった隣で僕と同じように肩を落としていた少年が騒ぎ始める。


「なんだ!どなってんだこれッッ!!?」


 何を騒いでいるのかと見れば彼の持っていた鉄の棒がぐにゃぐにゃも生き物の様に動いている。


「え、なにこれキモっ」

「俺がやってるんじゃねぇよ!!」


 さっきの驚き様からアデラがしているのではないと分かっている。

 ただ一感想として思わず出てしまった。

 そうしてその鉄棒は形を何度も変え、終いにはバキッと折れてしまった。


「な、何だったんだよ今の」


 地面に落ちたそれから距離を取り僕の後ろに身を隠す。

 しれっと僕を盾にするな。

 確かに気味が悪いが調べない選択肢はない。

 そうして恐る恐る二つの棒に触れる。

 その瞬間あの時と同じ様に電流が走る。


「今のって…」

「あの人をああしたヤツが居るって訳だな!」


 それを確信したのかアルシア達の元へ一気に走り出す。

 僕も置いていかれないよう走るがあまり距離は詰めれない。

 そうして体力が殆んどの尽きようとしていた時二人と人影の様なものを見る。


 と言ってもまだ距離はあるけれど。

 兎に角大声で二人を呼んでみようと思ったその時。

 隣の男は一瞬にして姿を消した。

 次の瞬間アデラは一気に距離を詰め少女の前に立つ鉄人形を蹴り飛ばす。


「その目・・・」


 彼は蹴り飛ばすその瞬間にマキナの瞳が光るのを見た。

 その姿はあの夜に見た魔女にとても近かった。


「何するんですか!貴方って人は──」

「なぁアルシアをどうするつもりだったんだ?」


 少女の言葉を遮る。


「わたしは彼女を救います。もう怯えないように」

「そうかい…ならそうはさせらんねェな」


 二人の間に火花が散る。

 僕は本を開きじっと動きがあるのを待つ。

 一滴の汗が地に落ちる。

 二人が動くのはその瞬間とほぼ同時だった。


「トラン!!」


 彼は後ろで横たわっている少女を掴み此方に投げ飛ばす。


《"浮上体クァルポス"!》


 飛んできている少女を一秒でも早く受け止め着地する。

 直ぐに状態を確認するがただ気絶しているだけのようだ。

 その様子にホッとする。

 どうする、一先ずアルシアを安全な場所へ連れていってここに戻ってくるか?そう考えていると少年は隙を見て僕の所に避難してくる。


「さっさとこっから出ていくぞ」

「──やっぱり魔女だった訳ね」


 あの家で起きたあの出来事、それに目の前にいる金属人形。

 あれを使役しているのはマキナっぽいしそれにあの目の光り方、どう見てもあのメリヌと同じ感じだし魔女で確定と言って良いだろう。

 となるとここから出ていくのには大いに賛成だな。

 魔女との力の差は身を持って経験しているのだから。

 抱えている少女を彼に代わってもらい念のため魔術書を取り出す。

 二人で走り出そうとした時虚ろな目をした人達が僕らの前に立ちはだかる。

 あの感じ・・・きっと全員あの女性と同じなのだろう。


「何でですか…何で邪魔するんですか」


 ボソボソと何かを呟きながらゆっくりと歩いてくる。

 挟み撃ちにあっている状態だが罪悪感は残るけれども正面突破すれば問題はないだろう。

 そう思い本を開いた瞬間後ろから怒りの声が響いた。


「わたしの邪魔しないでよ!!」


 その声に呼応するかの様に両手を突き出した人達は、グチャリと嫌な音を立てながら腕から鉄の棒を枝分かれしながら伸びてくる。

 それは一本一本が針のように鋭く此方を貫かんとする。


《"拘束蔓ヅルクハイト"!!!》


 無数の鉄針を何とか止めようとするが少しでも気が緩めば串刺しになるだろう。


「──っらァ!!」


 少年は鉄針が止まったと同時に一瞬複雑そうな顔をしながらも、一番距離が近い者を蹴り飛ばそうとする。

 しかしそれはびくともしない。

 恐らく足からも同じ事をし地面に自身を固定しているのだろう。

 ならばトランを抱えて上に跳ぶのみ。


「うわっ!!?」


 二人を抱えた少年は大きく跳び上がり脱出に成功する。

 蔓が外れた鉄針は一直線に伸び前にいる少女を貫きそうになるがその瞬間、緑の髪が剣のようになり鉄針を全て切り落とす。

 鉄人形の動きが止まったと同時に此方をギロリと睨み、対象を切り裂こうと髪を伸ばす。


《"燃盛短剣フローガー・スティレント"》


 短剣をその場で回転させ何とか着地するまで防ぎきる。

 先端が少し削れているのを見た少女は、小さな怒りを表しながら髪の硬化を解く。

 その隙に次の攻撃に備えながら逃走ルートを模索する。

 そうしていると少女はまたぶつぶつと何かを呟く。

 その声は次第に大きくなっていき怒号へと変わった。


「ママとの約束を破らさせないでよッ!!」


 再び剣となった髪で此方を切り裂こうとしてくる。

 さっきは一本だったから良かったものの複数となると話は別だ。

 だが、もしも魔女の構造は全て同じだと言うのならアイツのようにどこか脆い箇所がある筈だ。

 そこを上手く攻撃していって何とか逃げ切ることが出来れば…残された時間が少ない中もう一度魔術を発動させようとしたその時、僕の名を呼ぶ少年の声と同時に右へと突き飛ばされる。

 その瞬間突き飛ばされると同時に赤い雫が宙を舞う。


「──ってェ」


 その男の腕は後から伸びる鉄針に貫かれていた。

 それを抜き取ろうにも先端がまるで手のようになっておりアデラの腕をガッチリと掴んで離さない。

 そうこうしている内に剣へと姿を変えた物が身動きの取れない少年へと迫る。

 さっき僕を狙った様に見せかけていたのはこれを狙っての罠だったのだ。


《"燃盛短剣フローガー・スティレント"!!!》


 先程と同じ魔術を使い地面に刺さっている鉄針を斬る。

 この魔術は瞬間的にだが約九〇〇度を超えるようだ。

 さっきは"斬る"のではなく"防ぐ"を優先していたから削れたのだろう。

 ともかくこれは嬉しい誤算だ。


「やっぱ取れねェ」


 腕を掴んでいる鉄をどうにか取ろうとするが、ビクともせず寧ろ掴む力が増したようにさえ思える。


「何で逃げるんですか…大人しくしていればずっと笑っていられますよ」


 そう悲しそうな声で少女は話す。

 その言葉通りに後に並び立つ鉄人形は口角を上げる。


「そんなあからさまに作られた笑顔なんて嫌だね」

「そうですか。やはり貴方とは意見が合うことは無いですね」


 少女は僕らに指を指すとそれに応えるよう鉄人形が一斉に走ってくる。

 きっと逃げようにもこの人数差じゃかなり厳しい。

 どの道あの鉄人形達は何とかして倒す他無いように思える。

 それにさっきみたいに鉄針を伸ばしてくるなら対策済みと言っても良いだろう。

 そう構えているとヤツらは全力疾走で此方に向かってくる。


 でもただ向かってくるなら──嫌、それだけな事なんてあるのだろうか。

 さっきまで散々遠距離からの攻撃をしてきたのにいきなり接近戦に持ち込もうなんて。

 それに遠距離の方が確実に有利だろうに一体何故。

 彼女のしてきた事を思い出す。

 そうして最も可能性が高い最悪の答えに辿り着いてしまった。


「アデラ!何としてもその鉄を──」


 その瞬間少年の右腕は爆発したかの様に、血飛沫ちしぶきを上げた。

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