心、ひとつ残して

KEIKO

プロローグ

光の中じゃなく、

私は闇の中に生まれた。


借金と埃と、

静かすぎる空気に包まれた家だった。


父は私が言葉を話す前に亡くなった。

母は父だけを愛し、家族も友達もすべてを失った。


祖母と三人で、

泣くたびにきしむ古い木造の家で生きていた。


お金持ちになれば、

この世界から抜け出せると思っていた。


絵に夢を描けば、

神様はいつか気づいてくれるって、信じてた。


でも、夢では病気は治らない。

夢では、人は死なないようにできない。


十八歳の時、

私は橋の上に立っていた。


何も信じられなくなってた。

奇跡なんて、あるわけないと思ってた。


でもその時、

彼が現れた。

彼は「飛び降りないで」とは言わなかった。

ただ、私の手を優しく握った。

まるで前から私を知っていたかのように。


なぜか、その温もりが

痛みより重たく感じた。


誰かに一度救われたとしたら、

あなたは、その人の愛を受け入れる?それとも……また逃げる?


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