第12話 白猫、黒影と相対し、開眼す

まりこは、一気に加速、階段を駆け上がる。

そこに、なんとか国木田と谷崎も続く。

バタバタと、足音が激しく響く、団地の階段。


――ガチャ


鍵のかかっていない、団地の一室。

まりこが嗅ぎつけたのは、たしかにこの部屋の匂いだった。


まりこ「あれ……この部屋だと、思ったんだけど……」

谷崎「誰も……いない、ですね」

国木田「普通の部屋……何故、ここから危険が?」

まりこ「あ、でもこれ……黒い、羽根。しかも――」

国木田「……まりこの言った通り、少し焦げているな」


まりこの危機察知は、当たり。

だが、そこに犯人の姿はない。


国木田「これ自体、罠の可能性もある……一旦、部屋から出るぞ」

谷崎「はい!」


谷崎が、扉を開けた。

――そのとき、風に乗って『黒い羽根』が大量に舞い落ち、視界を遮った。


国木田「な、何者だ!!」


三人に、緊張が走る。まりこも、四つの足に、グッと力を込めた。

視界は黒い羽根に埋め尽くされ、身動きが取れない。


???「嗚呼、実に滑稽だ。こんなにも早く、“白猫”が尻尾を出すとは……此れだから、感情で動く馬鹿共は、直ぐに死ぬんだろうなぁ?」


三人の知らぬ声が、羽根の向こう側から怪しく嘲笑う。


谷崎「この、黒い羽根は一体……!?」

まりこ「……こいつ、全然気配、分からなかった」

国木田「見えないんじゃ、何もできな――う゛っ……!」

谷崎「国木田さん!?」

まりこ「なんでっ……、国木田が……!」


三人の背後から、銀色に光る日本刀が、国木田の腹を貫いていた。

国木田は血を吐き、その場にうずくまる。


???「フッ……無様だ。武装探偵社とも在りながら、我が異能に於いては、為す術、無し……愉快、愉快」

谷崎「僕たちのことを知っていて……わざと、はめたのか!?」

まりこ「ねぇ……谷崎。どう、しよう……」

谷崎「大丈夫だよ。僕が、ついてる」


まりこは、血溜まりに倒れる国木田を見て、立ち尽くす。

何も、できない――ひたすら、怯えるのみだった。


国木田「……谷崎、これを、使え……『独歩吟客――“麻酔銃”』」

谷崎「国木田さん、動かないほうが……!」


国木田は痛みに耐えながら、血まみれの手で、文字を書いていた。

そして、現れた麻酔銃を手に、谷崎も敵を狙う。


???「そんな物、視界が遮られた状態で、どのように当てようと云うのか……」

谷崎「お前だって、姿が見えなければただの人間だ!! 僕たちに手を出したこと、後悔させてやる!!」


谷崎は立ち上がり、大きく叫ぶ。


「異能力――細雪!!」


黒い羽根の中に、白い雪が降り始める。

こちらも敵も、姿が見えない――均衡状態。


???「それで? ――我が異能『こく』を解除したくば、私を殺すしかあるまい」

谷崎「くっ……! 僕一人じゃ、歯が立たないってことか……」

???「貴様らの姿が見えなくとも、脱出は不可能。さて、私の刃を、避けきれるか?」


黒い羽根を操る男の日本刀が、再び羽根の隙間から怪しく光った。

今度は、谷崎が狙われる――


そのとき、まりこの中で、何かが弾けた。

瞳は突然、金色の強い光を帯び、まりこの眼には敵の姿が映し出された。


「私の、大切な仲間に……これ以上、手を、出すなぁ!!」


まりこが声を荒げると、背後に巨大な化け猫の影。

牙を剥くと、ギロッと敵を睨む。


???「な、何だ……!? 動け、ない……!!」


謎の男は、化け猫と視線を合わせたまま、動きが止まる。


「吾輩は猫である――猫鬼眼びょうきがん!!」






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