第2話 師の孫、弟子の庇護

少女はキョトンとした顔で探偵社員を見つめる。

瞳の色は子猫と全く同じで、ビー玉のように澄んでいる。


乱歩「猫に化けるだけの異能力とは限らない。とりあえず、太宰くんが触れたままで話を聞こうか」

国木田「おい太宰、変な真似すんなよ?」

太宰「私にそんな趣味は無いから、安心したまえ〜」


応接間のソファに少女、太宰、乱歩、国木田が座り、あとの探偵社員は側で見守る。


国木田「君、名前は?」

少女「……まりこ」

太宰「まりこちゃんかぁ〜可愛い名だねぇ」

乱歩「歳は、鏡花ちゃんより少し下くらいかな」

国木田「まりこは、猫に化けている間の記憶はあるのか?」

まりこ「ほとんどない。気づいたら猫になってたり、人間に戻ってたりする」

太宰「出逢ったばかりの敦くんと同じだね」

国木田「異能力操作はまだできないというわけか……」


乱歩はこのとき既に少女の正体に気づいていた。

だが、社長 福沢諭吉が現れるのを待っていたのだ。


福沢「彼女は探偵社で育てる」

国木田「社長っ!?」

福沢「驚かせて悪かったな。その子は私の師匠のお孫さんだ」

敦「そうだったんですか!?じゃあ、この異能力もご存知で……?」

福沢「ああ、師匠の血を継いでいる。孤児院に連れて行かれる前に、猫の姿にして探偵社に連れてくるように連絡しておいたのだ」


そう、師匠とは夏目漱石のこと。

まりこは漱石の異能力『吾輩は猫である』を継いでいたのだ。


国木田「社長、お言葉ですが……どうやって彼女を育てるのでしょうか」

福沢「案ずるな。まず、異能力操作を可能にしないと彼女の身が危ない。この異能を欲しがる輩は数多く存在する」

太宰「ということは、探偵社員にするってことですね?」


福沢は頷いた。

だが、探偵社員になるには条件がある。

適性試験に合格せねばならないのだ。

敦や鏡花もなんとか合格してきたものだが、わずか十歳ほどの子供に何ができようか。


福沢「太宰、すまないが今まりこを頼めるのはお前だけだ。まりこを連れてこの書類を先方へ届けに行ってほしい」

太宰「え〜やっぱり私かぁ。分かりました、可愛いお嬢さんとデートしてきます!」

福沢「くれぐれも気を付けてな」


早速、適性試験開始。

太宰と書類を届けに行く道中、福沢はいくつか仕掛けをしておいた。

この仕掛けを太宰を守りながら突破して、書類を無事届けることができれば試験合格となる。


まりこ「ねぇ、太宰」

太宰「なんだい?まりこちゃん」

まりこ「手、ずっと繋いだままなの?」

太宰「そうだねぇ、ここらへんは人が多くて危ないからね。それに、社長に頼まれてるんだ」

まりこ「ふーん……あ、ちょっと止まって」

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