第3話 躓いた入学式の続き


 そして、時は再び入学式前。


 隣の子への自己紹介を失敗した後に戻る。


 ……完全にやらかしたよなぁ。


 俺はまともに女子と会話もできない自分に呆れてため息を漏らす。


 まぁ、急に彼女いない歴=年齢の奴を女子高に投げ込んだら、委縮しちゃうのは当然といえば当然かもしれない。


 いやいや、それでもせっかく憧れのWEB小説みたいな設定の世界に来たのだから、頑張らなくては!


 俺は気合を入れ直すように小さく握りこぶしを握る。


 すると、微かだがもこっと前腕の筋肉が膨れ上がった。俺はそんな前腕の筋肉を見て、ふふっと小さく笑みを浮かべてしまった。


 俺は退院したばかりの頃、自分でも引いてしまうくらいにガリガリの体をしていた。六年間もベッドで寝た切りだったのだから、それも仕方がないことだ。


 それからリハビリをしていく中で、徐々に筋肉がついていったのだが、ほぼゼロの状態から筋肉がついていくのが面白く、リハビリを終えてからも筋トレを続けていた。


 そのおかげで、俺は前の世界にいた以上に筋肉質な体になったのだった。


 そして、筋トレと並行して勉強をすることで、この高校に入れるだけの学力を身に着けることができたのだった。


 まぁ、前の世界で高校入試を終えていたこともあり、歴史以外の科目はほとんど勉強しないで済んだのだが。


あとは、男子が優先的に入学できる男子枠制度があったことも大きいのだろう。


 どうやら、この世界では高校に男子がどれだけいるかで倍率も変わる世界らしい。


 そんなこんなで無事高校生活をスタートすることができたのだが、スタート直後に躓くことになるとはな。


 ちらっと正面を見ると、俺の前に座る女の子が俺をじっと見つめていた。


 俺は女の子に見つめられるという慣れない状況に驚いてから、一瞬パッと目を逸らす。


 いやいや、これじゃ失礼だろ!


 俺はそう考えて慌てて視線を女の子に戻して、笑みを浮かべてみた。当然、ぎこちない笑みだが友好関係を結びたいという意思表示にはなるはずだ。


「っ!」


 しかし、前の席に座る女の子は俺の笑みを見て、慌てたように俺から顔を逸らして正面を向いてしまった。


「あ、あれ?」


 まさか、笑顔がぎこちなさ過ぎて、気持ち悪いと思われたのか?


(「清楚系の伊勢君が私に笑みを向けてくれたんだけど! む、ムリ! 緊張して話せない!!)


 くそっ、彼女いない歴=年齢のつけは貞操観念逆転世界に来てまで影響するのか。


 ……なんか俺が笑みを向けた女の子、激しく首を横に振っているんだけど。俺の笑みってそんな忘れ去りたいほど、ぎこちなかったのか?


 さすがに少しショックだな。


 それから、俺は担任の先生がやってくるまで教室の隅で静かに過ごすことにしたのだった。

 うん。女子と二回も接触を計ろうとしたんだ、初日としては悪くはないだろう!


 それから、担任の女性の先生がやってきて、プリントを数枚配って今後の予定などを話した。


 プリントを配る際、やけに後ろの子と手が触れるような気がしたが……まぁ、こんなこともあるだろう。


(「これはわざとじゃないから! 偶然何回も手が当たってしまっているだけ! 合法だから!」)


 なんか顔をブンブンと横に振っているけど……そんなに俺と手が触れるのが嫌だったのかな。


 おかしい、確か貞操観念逆転世界に来ればモテモテになるんじゃないのか?


 俺はそう考えてから、この後に体育館に移動するときのことを考えて気を重くさせる。


 先生の説明が終われば、この後に体育館に移動をすることになる。


 WEB小説のような展開が待っているのなら、移動するときにも両手に華のような状態になるのだが、この状態からそうなるとは思えない。


 男子一人で移動をするってなると、まぁまぁ浮きそうだよな。


 やっぱり、童貞で女子慣れしていないと女子から人気が出ることはないのか?


 俺はそう考えて、入学して早々に躓いてしまったことを後悔するのだった。




「伊勢くん。一緒に体育館いかない?」


「へ?」


 しかし、先生の話が終わって移動するとなったとき、俺の隣に座る宇都宮さんが笑顔で俺にそんなことを言ってきた。


 俺は思いもしなかった展開にフリーズしてしまう。


 あれだけ自己紹介に失敗したのに、俺と一緒に体育館まで移動してくれるのか? なんで? 罰ゲームってことはないよな。さすがにみんな初対面過ぎるわけだし……。


 俺がそんなことを考えて頭をぐるぐると回していると、宇都宮さんが不安そうに眉を下げた。


「えっと、だめかな?」


「えっと、よ、よろこんで」


 俺がそう言うと、宇都宮さんはぱぁっと顔を晴らさせて笑みを浮かべたのだった。


 もしかしたら、まだまだ挽回のチャンスがあるのかもしれない。


 俺がはそう考えて小さくガッツポーズをするのだった。



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