第7話 騎士の家柄

 ジャンは幼少期、ロラン家の領地で過ごした。

 これは父のカールの教育方針だった。

 カールは王都で幼少期を過ごし、爵位を継いで初めて所領に出向いた。

 そこで生活に慣れるのに苦労したので、息子のジャンにそういう思いをさせたくなかったためだ。


 今でこそロラン家は繊維業や服飾で財を成しているが、元の家柄は騎士である。

 これは代々受け継がれており、カールも幼い頃から元騎士団員が教師としてついて剣術の訓練をさせられた。

 ジャンは父の所領で地元の剣術士の道場に通い、王都に出てからは父同様、元騎士団長に手ほどきを受けた。

 その結果、ジャンは王国の騎士が習得する流派で王国で数人しかいない免許皆伝とされるまでに腕を上げ、教授をしていた元騎士団長からスカウトを受けた。


 その時、ジャンは王立修学院の生徒だったが、特別に父のカールの許可をもらい、学院卒業までの三年間、騎士団員として活動した。

 その後も臨時に訓練官として、不定期に騎士団員を指導していたが、そこで出会ったのがクラウディアだった。

 クラウディアはスペンサー侯爵家の長女で、幼少期から剣術の才能に恵まれ、騎士団に入団していたのである。


 婦人の剣士は初めてと言うわけではなかったが、王国統一以降の歴史では数えるほどおらず、現在も彼女だけだが、いずれ騎士団の幹部になることは確実と言われていた。

 もちろん有力貴族である家柄のこともあるが、騎士としての腕も騎士団でも上位に位置していたからだった。

 その彼女が師と仰いでいたのが、ジャン・ロランだったのである。


 クラウディアが一人前の騎士となる礎を築いたのはジャンであり、ジャンが騎士団の訓練官を辞めたあとでも、機会を見つけては騎士団に招いて、団員と共に稽古をつけてもらっていた。

 そのジャンに突然愛を囁かれても、クラウディアは面喰うだけで応じることができなかったのは当然のことである。

 ジャンにとってクラウディアは一人の令嬢であっても、クラウディアにとってジャンはただの貴族の子弟ではなかったのである。


「ではクラウディア、稽古の報酬の先払いをしてもらうとするかな」

 そう言ってジャンはクラウディアの手を取ると、ダンスに誘った。

「私はあまり上手くありませんから」

 尻込みするクラウディアにロランは首を振った。

「そんな風にしていたら、僕が無理やり連れて行こうとしているように見えるじゃないか。そんな風ならもう二度と騎士団にはいかないよ」

 もうっ、ロラン様はと、クラウディアは仕方なく立ち上がり、姿勢を正すとジャンのエスコートされ広間の真ん中に向かった。


 クラウディアがダンスが苦手でも、そうは見せない腕がジャンにはあった。

 どんな力量のダンスの踊り手でも、ジャンの手にかかれば名手のように映る。

 案の定、クラウディアは自分の体に羽が生えたかのように軽やかに踊れることに驚いていた。

「信じられません。これはどういうことですか」

「僕は免許皆伝者だよ、クラウディア」

 そう言ってジャンは片眼をつぶって見せた。

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