A Girl In Wonderland

まゆほん

第1話 とある少女のワンダーランド

 学校を出て駅へ向かう途中、茂みの向こうで――まさかのキノコの着ぐるみらしきものが跳ねていた。

「な、なにあれ!?」

 好奇心が勝ち、気づけば私は森の中を走っていた。こういう不思議体験なんてそうそうない。『不思議の国のアリス』みたいに、追いかけた先で物語が始まるかもしれない――そんな妄想が背中を押したのだ。


 突然、足元が崩れた。

「あっ…!」

 土の匂いとともに、私は深い穴へと落下する。着地の衝撃で視界が揺れて、しばし動けなかった。

「ここは…穴の中…?」

 立ち上がろうとした瞬間――


「こんにちは」


 頭上から澄んだ少女の声が降ってきた。

 驚いて見上げると、そこには少女が立っていた。それは少女には不釣り合いなほど大きすぎるローブを着て、怪しげな杖を携えていたのだ。


・・・(なに、この怪しい格好の女の子)

「失礼ね。“怪しい格好”だなんて。これでも高尚な魔女なのよ?」


「わ、私の心の声まで聞こえてる!?」

 思わず身構える私を見て、彼女――フェイリスはくすりと笑う。


「ま、魔女…?」

「そう。物語の魔女。人間を物語世界に招くのが私の仕事なの」


 心を読む理由も、キノコの着ぐるみも、すべては“招待”のため。アリスをワンダーランドに導いたウサギと同じ役目を、今回はフェイリス自身が担っているらしい。


「ということは――私もワンダーランドに行くことになるの?」

「うん。アリスのワンダーランドとは違うけど、助けを求めてる物語があるの」


 フェイリスの瞳はどこまでも真剣だった。

「あなたに、その物語を救済してほしいの」

 私の胸が高鳴る。読者であるだけだった私が、今度は物語を創る側になれるかもしれない――。


 だが次の瞬間、景色は白くかき消えた。


「え、ええええーっ!」

 気づけば私は見知らぬ草原に立っていた。フェイリスの姿はなく、ただ風だけが草を揺らす。

「ここはどこ? 私はどうなっちゃったの――?」


 物語の魔女が残した杖を握り締め、私は一歩を踏み出す。

 そう、これは本好きの女学生が“次のアリス”として綴る、まだ誰も知らない物語。ページはまだ白い。

 ――さあ、書き始めよう。私自身の手で。


この第1話目のYoutube小説は以下のリンクから!

https://www.youtube.com/watch?v=jPbCbkh2XbI&t=15s

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る