イカれた私のロードオブ乃木坂46

北村灰色

第1話

 私のまわりはピエロばかり

 私のまわりはピエロばかり

 私のまわりは映画のスクリーン

――30人の教室、喧騒に犯し殺し犯され殺されるカーストと低能の猿ども。私の机に置かれた花瓶、匿名の落書き。

 そう、私がいるこの小さな世界は、いつかの内田裕也のリリックみたく、苛烈なまでに下らない虚構と虚無に溺れ死んで沈んでいる。

 片隅の澱んだ水槽。其処で揺蕩う死んだ金魚の様に浮上したくて、一心不乱にスカートの(秘密)を弄る。

 行方不明の酸素を欲しがるまま、行先不明の舌足らずなその指を欲するまま――

 濁りの中に揺らめく透き通った熱病。わたしはわがままなママに貴方の投じた歪な深紅のチョークの切っ先を思い浮かべて……

♫思いこんだら試練の道を

行くが女の ど根性

真赤にもえる 王者のしるし

巨人の星を つかむまで

血を汗流せ 涙をふくな

行け行け×× どんと行け♪

 150km/hのデッドマンズ・ギャラクシー・デッドボールが、私の紅潮を青褪めた月へと変換させたのは、瞬く間の刹那だった。

 開け放たれたドア、カーテン暴かれた世界、彼と彼女の表情が「世界の終わり」を描く。

 一重をぶち殺した二重の世界系・ワードワンダーランド。ゲームセットを描く放送延長それとも炎上、軽薄なルッキズムを喚き嘲る馬鹿ども。

 慰みのsecret CMに映された乃木坂死轆の姿に、君たちは私と彼女たち、どちらにイロを感じられるのかな?

 それはきっと私! 鏡に映る私は星飛雄馬! 

 最後に投じられた大リーグボールが、パーフェクトゲームを完成させたラストシーン。それは狂ったブラウン管でリピートされる、永遠の「ヘビーローテーション」となるのだから。

 虚構に浸されたピラミッドカーストのミイラと真相。腐敗を防腐するのが関の山なあなた達。

 ぶっとい眉毛ノリマシマシアブラマシヤジマシヤシマタカシマヤ、ちゃぶ台返しの化粧倍返しどんでん返しなStory of the Year,――そう私はシンデレラ・ストーリーをこの手で掴み取る。

 ジャック・ケッチャム系に血塗られた両手、KG楽坂殺人事件、あっぱらっぱっぱああんじゃばしゃばいいゆぅだなぁんあははんと銭湯を阿鼻地獄へと変換したPV撮影もといさつがいを夢見る機械のオートメーション・オーディションを尻目に、受かった気分ルンルンというよりも受かるのは必然なのだから、深海の様に静謐な図書館を満席の武道館へとmake loveすることもまた然りでしょう?

「アイドルなんて呼ぶのはよせよ! そんなに呼ばれちゃ照れるじゃないか!」

――繰り返すサビ、わたしはサイコぉ〜☆彡

 キメるヒロポンヘロインアヘンコカインおどりゃおどりゃなムスビと隆太のBLじゃけぇ♥

……唐突にビリビリと破り裂かれる、いつかのスポニチと週刊新潮、田代まさしの名言録。

 バカヤローこの野郎拍手喝采はてめぇの幻聴だとビートのたけちゃんソックリのオヤジに叫ばれて、これは強い殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意だ、と。

 愛国党のTシャツざわめくビートルズの来日公演みたく、彩冷えるフロアの空気。催す様な冷めざめとした気配に深くうなだれたのは、きっと私のなかの殺したい「成れの果てのわたし」

 ううん、こんなことで挫けちゃダメダメ★ 

 私は乃木坂死轆のセンターにすぐにでもなるような、最高にプリキュアなアイドルなのだから♥

 ピースサインは孤独な蝿の女王の証。

 右手に絡む蛇が私を淫らな匿名に変えて。

「溺れている」のはお前たち、それとも――

――幾多の死んだ魚の目が浮かんでは沈む、カルキ漬けの水槽のような教室。

 青1号の食紅で犯されたセーラー服の冷やかさ、アイデンティティを喪くした漆黒に塗り潰されし学ランから零れ落ちる、腐りきったライチを蹴散らして、私は走りだす。

 飛びだしたベランダの先、刹那に澄み切った水色の空を焦がす飛行機雲と、屋上で舞い踊る名もなき鴉の群れが、わたしの網膜に消えることの無い炎を宿して――

(続)

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イカれた私のロードオブ乃木坂46 北村灰色 @kitamurahaiiro

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