可愛いは正義

京野 薫

可愛いは……

 ※この作品は容姿に対する差別的と取れる言動が多々あるため、人によっては不快感を与える恐れがあるため、そのような表現が苦手な方は読むのを控えて頂ければと……





 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●


 可愛いは正義。


 この言葉、世間で良く広まってるけど本当に実感する。

 あ、と言っても男子はダメね。

 可愛い男子も市民権は得てるけど、やっぱり男子はそれだけで生きていけない。


 その点、可愛い女子と言うのは勝ちだ。

 可愛いというのは文字通り、顔の造作の良さ。

 所謂「美少女」と言う奴ね。


 世に数多の才能があるけど「美少女」と言う物ほど、恩恵を得られる才能は無い。

 同じ事をしてても可愛いとそれだけで許される。


 何かイタズラをしても、私が瞳を潤ませてうなだれるとそれだけで男子や……時には先生も私の味方だ。

 冷静に考えると高校一年の女の子にそれもどうかと思うけど、可愛いんだから仕方ないのかな。


 良く「顔の良さだけで楽して生きて……」「顔がいいだけで中身空っぽ」って言う人が居るけど笑えるほど滑稽。

 あれほど分かりやすい負け犬の遠吠えも無くない?


 だってそう言う人たちは「生まれつき足が飛び抜けて早い人」「天才的な作曲の才能がある人」「息をするようにベストセラー小説が書ける人」に対しても同じ事を言うの?

 そう言うと必ず言われる。


「ああいう人たちは才能を磨く努力をした」


 あ、そ。


 でもさ、私に言わせればああいう「選ばれし天才」の努力って、普通の人に比べると遙かに楽。

 だって努力を努力と思ってないし、何なら「遊びの延長」と思ってるって、絶対。

 で、一の努力だか遊びだかに対し、五かそれ以上のリターンがある。

 結局生まれついてのギフトを楽しみながら階段を、軽やかに数段飛ばししていく。


 何で分かるのか? って?

 私も一緒だから。

 私の可愛さを才能とするなら天才なの。

 だからその基準で言ってるだけ。


 話を戻すと、だったら「可愛い」も一緒じゃ無い?

 生まれついての「容姿」と言うギフトを生かすために髪型や表情、振る舞いを磨く。

 それと、ああいう人たちの作曲や走る練習や執筆と何が違うの?


 いい加減「カッコいい」「可愛い」も才能として評価しても良いのにね。

 ま、そうなったらなったで私にとっては楽しみが減るんだけど。


 え? それって何なのか?

 ふふっ、何でしょう。

 当たったらキスしてあげようか。


 ……え! ホント、可愛い!

 その反応……可愛すぎてドキドキするんですけど。


 うん、その可愛さに免じて答え教えてあげる。

 私、可愛い人って大好きだからさ。


「カッコいい」「可愛い」が才能として評価されちゃったらさ……面白くないじゃん。

 だって、そうなったら負け犬たちがキャンキャン吠える声が聞きにくくなるんだよ?


 楽しくない?

 どう頑張っても可愛くない子達が私の事を影で「見た目だけで得していいよね」って言ってるのって。

 あれほど分かりやすく「私は魅力がありません。あなたにかなわない詰まらない人間です」って言ってるのって。


 私、盗聴器の録音を聞くのが趣味なんだけど、あれに録音された私への悪口聞いてるとゾクゾクするんだ。


「ああ……私の周りってこんなに生け贄が居るんだね。ごめんね、いっつも踏みつけちゃって」って。

 私の可愛さに苦しみ、憎悪し、それを本人にぶつけることも出来ずにもがく愚か者たち。

 ギフトを持てなかった奴らの敵意……

 私を嫌う奴らの数って、そのまま私の才能への……う~ん……メダルみたいな物だと思わない?

 ほんと、批判って大好き。

 選ばれし者に許された娯楽だよね。

 負け犬の泣き声をS席で聞けるのって。


 そう言う「欲張りセット」の候補者たちがわんさか湧いてくれてるのって、喜びだよね。

 へ? 欲張りセットって何? って?


 あ……どうしよっかな。

 ま、いっか。

 そろそろあなたの代わりも見つかりそうだし。


 私ね、自分に敵意を持つ人たちの存在って楽しくて仕方ないけど、同時にムカつくの。

 なに、生意気に私に敵意向けてるの? って。

 え? さっきと言ってることが違う?


 ……馬鹿なの?

 ねえ……私を否定するの?

 可愛くも格好よくも無いのに?

 ゴメンね、理解不能。


 豚が人間に質問出来たっけ?

 はい、もうムカついた。

 おしおきする。

 ……ダメ、もう決めた。


 ……早く指、出しなさいよ!

 あ、そ。

 顔、焼かれるのと爪剥がされるのとどっちがいい?

 そうそう。

 不細工のくせに自己主張しないでよ、面倒くさい。


 はい、お疲れ様でした。

 ゴメンね、痛かったよね?

 ゴメンね、私もさっきはカッとなっちゃった。


 でもさ、あなただって分かるでしょ?

 蚊が夜中にブンブン飛び回ってたらうっとうしいじゃん……って、そんなに泣きわめかなくてもいいじゃん。

 って、そういうのも好きなんだけど。


 人の泣きわめく声って良くない?

 ああ……この人、何かで苦しんでるんだ、って……

 え? 狂ってる?

 狂ってなんか無いよ。


 不幸な人を見るのって楽しいから。

「あの人に比べたら自分はなんて幸せなんだろう」ってお風呂に入った時みたいな優越感に浸れる。

 ウィンウィンだって。

 私は「あの人よりマシ」って優越感で楽しめる。

 相手は私みたいな「選ばれし者へ奉仕できた」

 良い感じ。

 天才はそのギフトにふさわしい人生を送らないと。


 さて、話を戻して……っと。


 さてさて、欲張りセットだっけ?

 そうそう。


 あのさ、私に生意気に敵意を向ける奴。

 楽しいんだけど、何かムカつく。

 何で凡人の敵意ってあんなにムカつくのやら……


 で、そう言う連中に時々身の程を教えたくなるの。

「分を弁えて大人しくしてね」って。


 どうするのか。

 それはね……目の前に座ってるあなた。


 6月5日木曜日17時48分。

 何してたか覚えてる?


 覚えてない?

 あ、そ。

 うん、今の返事アウトね。

 私の望む返答じゃ無かった。


 はい、これ。

 開けてみて。

 私からのプレゼント。

 この箱の中に何が入ってるでしょ……


 きゃっ! 嘘でしょ! なんで吐くの……あり得ない。

 ま、いいや。

 ちょっと面白かった。


 そうそう。

 5本の歯。


 成人女性は28本だから、どこまで頑張れるでしょ! のチャレンジだったのに生意気に5本で死んじゃってさ。

 思わず死体蹴っ飛ばしちゃった。

 人ってそんなに弱いんだ……ってショックだったよ。

 今度は止血とか痛み止めとか勉強しないとね。

 ま、次回は目指せ、五本越え! だね。


 ムカつくと思わない?

 私の事を批判するならこのくらい頑張ってよ! って。

 天才に奉仕するのを何だと思ってるんだろうね。

 はい、これ画像。

 言うのもめんどいけど、あなたの大切な人だよ。


 ……うるさい……

 いい加減……悲鳴……聞き飽きた!


 ……落ち着いた?

 スタンガンって良い感じ。

 別のも買ってみよ。

 あのさ、私がうるさいって言ったらすぐ静かになってくれない?

 言ったよね? 蚊が夜中に飛び回るのってイライラするよね? って……ねえ!

 全く……

 私、自分の想定を裏切る人に魅力感じないの。

 だからあなたも頑張らないとね。


 あいつ、私の悪口をあなたと一緒に言ってたでしょ?

 録音して全部知ってたんだから。

「君も充分可愛いよ。あの子よりも魅力的だ」だっけ?


 あなた、案外誠実で良い感じだと思ってたのに、アイツとキスなんてしちゃって……

 ねえ、なんで私の告白断って、あの子と付き合ってたの?

 ……は?

 幼なじみだから?

 それだけ?

 それ、なんてラノベ?

 ってか、まさか私モブじゃないよね? 


 私って可愛いよね?

 何で私を馬鹿にする安藤と付き合って私を拒否するわけ?

 まさか「外見では見ない。中身で見るんだ」とは言うんじゃないよね。

 私をけなしてた奴なんだけど……答えて。


 私、批判されるのは好まない。

 これは感情的に言ってるわけじゃ無いけど、私を批判するような人間生きてる資格が無いと思うの。

 だって、私とそいつらで価値が違うんだよ。

 石ころがダイヤを傷つけようとするなら、石ころは遠くに捨てないと。


 ……は? 愛?

 好きな理由?


 もういい、ムカついた。

 えっと……このスタンガン、もうちょっと試させてよ。


 あれ?

 ごめんね、やりすぎちゃった?

 でも死んじゃダメだよ。

 まだやりたい事があるんだから。


 最初に戻るね。


 可愛いは正義。

 でもさ……人って脳の中の快楽を司る報酬回路って言うんだっけ?

 あれって、刺激ですり減っちゃうんだってさ。

 だから、私正直言うと人から「可愛い」って言われても、最近嬉しくなくなっちゃって。

 悲しいよね。

 あんなに人生のほとんどを捧げて磨いた才能なのにさ。

 命の次に大事な美貌なのに……


 で、人ってさ……与えられた才能を享受しつくすと次の段階に移るの。

 その才能を分析したくなる。


 つまり最近私「美と醜」を研究し始めててさ。

 なぜ美しいのか?

 なぜ醜いのか?

 この両者の差はなに?

 心理学や解剖生理学とか、あらゆる方向から研究するの。

 それが、選ばれし者の責任だと思うから。


 で……あの女にも協力してもらって調べたんだ。

 なぜ、不細工は不細工なのか。

 頭蓋骨? 筋肉の付き具合? 脂肪の着き具合?

 美も追々調べようと思うけど、まずは醜から……


 で、あの子の顔も……色々調べた。

 筋肉の付き具合から、頭蓋骨の形まで。

 面白かった。

 新しい刺激だった。

 人の顔って……美醜ってまだまだ奥が深いんだね。

 あの子にはありがと、だね。

 医学で言うなら「献体」って所かな。


 と、言うことで今からあなたにも協力してもらうから。

 あの子は死んでたけど、生きてる状態だとまた違うかも……


 あ、安心して。

 このマンション。

 ここも新しい「パパ」に買ってもらったの。


 可愛いは正義、だからね。


【終わり】

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