魔スコット・ガーディアン2
文月 想(ふみづき そう)
プロローグ
プロローグ(一)
それは小さい頃、まだ、彼が小学三年生だった時。
だんだんと暖かくなってきた春の日に噂されるようになった。
「ねえ、あの三丁目にあるぼろぼろの家あるじゃない? やっぱり誰かいるらしいよ」
「ほんと? わたし、ママから誰も住んでないって聞いたけど」
「私も聞いた! 夜に隣のクラスの子が見かけたんですって。窓に浮かんでる白い人影」
「そこだけぼおって白く光ってたらしいのよね」
「やだ、こわい! もしかしたらお化けかも」
「えー、誰か調べてくれないかなぁ」
―—放課後。
そう言って、きゃらきゃら笑っている女子の横を通り過ぎて、ずんずん人気のないところへ歩いてく。そうして、きょろきょろと辺りを見回すと、ふうっと息をついた。懐のものが、さわっと動いた気がしてぎゅっと抱きしめる。
ランドセルにかかる給食袋が揺れる。
「おーい、宮田ー! かえろーぜー」
「! あっ、わりぃ。今日は図書室寄って帰るから先に帰っててよ」
「そっか、じゃあな」
「おー」
宮田 尋(ヒロ)は友人が走って廊下を去っていくのを見送ると、自身は図書室へと足を向け歩き出す。けれど、図書室は通り過ぎて遠回りして下駄箱まで来るとふっとまた、息をついた。
だいぶ遠回りしたおかげで、人気が少なくなっている。
予想通りだ。
小走りでとある場所へと向かいだすと、鉛雲から雨がパラパラ降ってきた。
目指すは三丁目の“空き家”である。
そっと、辺りを窺って裏から開いた壁の隙間から入っていく。
勝手知ったるというか、もう、家の中はどんな構造かもわかっているからためらうことなくとある部屋へ向かおうとした。
ふと、外からがやがやと声がした。
「なあ、ほんとに入るのかよ」
「確かめたいじゃん」
「女子も騒いでたよな」
「やった、肝試しだ」
ちっと軽く舌打ちした。ああ、やっぱり。昨夜は塾の帰りに寄らなければよかった。
家に入るのをやめて、すぐそこの雑木林に入って身をひそめる。
幸い、彼らの言う人影は家にいない。
すぐにあきらめて帰るだろう。
「ごめんな、家に入れなくて」
服の中をそっと覗いて言えば、何かがさわっと動く。
ふわふわとしたカラフルな綿のようなまるいのがいくつも出てきて、彼の周りを飛び回る。
目も鼻も口もない。
でも、フワフワと動いている。生きている。
「今日はいづるに見せてやるって約束、したんだけどなぁ。あいつ、熱出してこなかったから……また明日、会わせてやるからな。すげえ、いいやつなんだ。きっと、お前らとも仲良くなるって」
それは言葉が分かるのか、フワフワと周りをダンスするかのように飛ぶ。
さすがに二日続けて自分の家に置いておくわけにいかず、元の場所、彼らと会った空き家へ戻しに来たのだ。
けれど。
彼は、空き家へ来たことを小さい友人たちを置いていってしまったことを後悔した。
「あの空き家、昨日の夜に燃えたらしいわよ!」
「すごい火柱で、隣の雑木林も燃え立って」
「ねえ、なにかやばいのいたのかなぁ」
「ひとがいなくてよかったよね」
クラスメートたちの声が遠い。
ああ、ああ、どうしておいていってしまったんだろう。
ごめん、ごめん。
今でもその出来事は、彼のひっそりと心のトラウマになっている。
そして一つ、こわいことがあった。
その小さい友人たちと友達になった時のことだ。
約束をしたのだ。ある、声と。
「ねえ、この子たちと友達になりたいの? そうねぇ、約束しましょうよ。もし、この子たちを守れなかったら……あなたの友達頂戴ね」
くすくすと笑ったのは、誰だっただろうか。
あの声におびえ一年、二年、数年過ぎて。
少しずつ忘れ始めた時に、再び思い出すきっかけが起こるとは、つゆにも思わなかった。
ああ、あの言葉は、まだ、続いているのだろうか。
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