『菜々美が行く!江戸城トンデモ脚本道中 ~吉良も浅野も、ついでに将軍も私の手のひらで踊りなさい!~』

志乃原七海

第1話。このじいさん、チョロい!



物語紹介:『江戸城繚乱!不潔脚本家とブチギレ内匠頭』


時は元禄。平和なはずの江戸城に、未来からとんでもない女が迷い込んだ!

その名は佐藤菜々美、売れないフリーランス作家。

持ち前の図太さと美貌(自称)で、なんと時の将軍・徳川綱吉と禁断の不倫関係に!

「これも全部ネタのためよ!」と嘯き、夜な夜な将軍の閨で「脚本指導」と称して甘い蜜を吸う日々。


だが、菜々美の魔の手はそれだけでは終わらない!

勅使饗応役の指南役、吉良上野介にも接近。

耳が遠いのをいいことに「吉良様、あなた様こそ真の伊達男…私を導いて」と囁き、まさかの二股疑惑!?

(菜々美の狙いは、吉良の屋敷にあると噂の「秘伝の媚薬」の情報だったり…?)


一方、真面目一徹の若き饗応役、浅野内匠頭。

ただでさえ吉良の嫌味(本人は無自覚)にイライラMAXなのに、

「なんだあの女は!?将軍様を誑かし、あろうことかあの吉良のじじいとも…!不潔千万!許せん!!」

正義感と潔癖症から、菜々美の奔放すぎる行動に怒り心頭!

しかし、菜々美はそんな浅野の怒りすら「最高のスパイス」としか思っていない!


言葉の聞き間違い、言い間違い、勘違いが渦巻く江戸城で、

一人の不埒な脚本家が投じた爆弾が、前代未聞のスキャンダルと刃傷沙汰を巻き起こす!

果たして、松の廊下で斬られるのは吉良か?それとも…!?

笑いと怒りとちょっぴりエロス(?)が交錯する、ハチャメチャ時代劇コメディ、ここに開幕!


第一話:脚本家、江戸城に降臨す ~不浄の始まり~


ザザ…ザザ…という衣擦れの音と、微かな白檀の香りで、佐藤菜々美は意識を取り戻した。

(…あれ?私、確か古寺の古井戸に…って、何ここ!?時代劇のセット!?)

目の前に広がるのは、豪華絢爛な襖絵と畳敷きの広間。そして、自分は美しい着物を身にまとっている。


混乱する菜々美の前に現れたのは、いかにも高貴そうな男性。徳川綱吉だった。

綱吉:「おお、目覚めたか、異国の女よ。そなたが井戸から現れたと聞き、余が保護したのだ」

菜々美は、持ち前のハッタリと口八丁で「私は未来の世界から来た脚本家で、この時代の物語を紡ぐために参りました」と大嘘をついた。

綱吉は「未来の脚本家」という奇抜な存在に興味津々。菜々美の語る現代ドラマのあらすじ(もちろん脚色済み)にすっかり魅了され、彼女を「おもしろき女」として側に置くことにした。


その夜から、菜々美の「脚本指導」が始まった。

菜々美:「上様、物語には『禁断の愛』が不可欠ですの。例えば、高貴な殿方と、身分違いの謎めいた女の…」

そう言って、菜々美は綱吉に妖しく迫る。綱吉も、若く美しい(と菜々美は信じている)異国の女の誘惑に抗えず、二人はあっという間に深い仲になった。

(チョロいわ、将軍!これで衣食住は安泰ね。あとは、この時代で一発当てて、元の世界に帰る方法を探すだけ!)

菜々美にとって、綱吉との関係は「取材」であり「ネタ集め」の一環でしかなかった。


数日後、江戸城に勅使饗応の指南役として吉良上野介が詰めていた。

年のせいで耳が遠く、滑舌も心もとない吉良。そこへ、饗応役に任命されたばかりの浅野内匠頭が挨拶にやってきた。


吉良: 「おお、これはこれは…ええと…『あさいのー』殿、でしたかな?ようこそお越しなされた。この老骨、よしなに頼みますぞ、ふぉっふぉっふぉ。」

浅野: (む、浅い脳だと…?いきなり愚弄するか、このじじい!顔も名前も覚えられんのか!)

「…浅野内匠頭長矩にございます、上野介様。以後、よしなにお願い申し上げます。」

内心、(…吉良…きら…Killer…!ああ、なぜか斬りたくなる名前だ…!)


このやり取りを、襖の陰から見ていた菜々美。

(あらあら、古典的なすれ違いコント。でも、これだけじゃパンチが足りないわね…)

菜々美は、新たな「キャスト」に目をつけた。あの耳の遠い吉良上野介だ。

(あのじいさん、利用価値がありそう…)


その日の夕刻、菜々美は巧みに吉良に近づいた。

菜々美:「吉良様、先ほどのお声、大変聞き取りにくうございましたわ。ですが、それがかえってミステリアスで…まるで、何か深いお考えを隠していらっしゃるかのよう」

吉良:「(ん?何か褒められておるのか?よく聞こえんが…)ふぉっふぉっ、さようか、さようか」

菜々美は、吉良の耳元に顔を寄せ、甘い声で囁いた。

菜々美:「吉良様ほどのお方が、ただの指南役で終わるはずがございません。私、あなた様の隠された魅力…もっと知りたいのですわ。例えば、夜の…お強さとか?」

吉良は、菜々美の言葉の半分も聞き取れていなかったが、若い女が自分に興味を持っている(ように見える)ことに、まんざらでもない様子。

(この女、なかなか見どころがあるではないか。わしの若かりし頃の武勇伝でも聞かせてやろうか、ふぉっふぉっ)

菜々美は、吉良が聞き間違いをしているのを百も承知で、さらに思わせぶりな態度を取る。

(よしよし、このじいさん、チョロい!おだてて屋敷にでも上がり込んで、何か面白いネタ…例えば、お宝とか、秘密の書状とか、そういうのがあれば最高なんだけど!)


この一部始終を、偶然通りかかった浅野内匠頭が目撃していた。

浅野は、昼間の吉良の無礼な態度にすでに腹を立てていたが、今度は得体の知れない女が、その吉良に媚びへつらっている(ように見える)光景に、さらに眉をひそめた。

(なんだあの女は…?昼間、上様の側にいた者ではないか。上様を誑かした次は、あの吉良のじじいまで…!なんと不潔な!見るに堪えん!)

浅野は、生真面目で潔癖な性格。菜々美のあからさまな色仕掛けと、それに対してデレデレしている(ように見える)吉良の姿に、生理的な嫌悪感すら覚えていた。

(江戸城の風紀が乱れる!断じて許せん!)


浅野は、菜々美に対して強烈な不快感を抱き、その怒りの矛先は、菜々美と親しげな吉良にも向かい始めていた。

しかし、菜々美はそんな浅野の怒りなど気にも留めず、次の「脚本」の構想に胸を膨らませていた。

(あの真面目そうな武士…いいわ、彼も私の物語の登場人物にしてあげましょう。タイトルは…『禁断の三角関係~将軍と老獪指南役、そして私を巡る愛憎劇~』なんてどうかしら?ふふふ、面白くなってきた!)


かくして、一人の不潔(と浅野は思っている)な脚本家の登場により、江戸城は混沌の渦へと巻き込まれていく。

言葉の誤解、恋の誤解、そして壮大な勘違いが、やがて来る悲劇(あるいは喜劇?)の幕を開けようとしていた。


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