学校のクラスごと転移したけどクソスキルのせいで追放された僕の成り上がり~うんこマンといじめられていた僕が異世界で手に入れたスキルはうんこマンだった~
四熊
うんこマン
俺は
今思えば、あの時から俺の人生は詰んでいたのかもしれない。
昼休みの教室。
そんな蓮がわざとらしく大声を上げた。
「おい、そこのうんこマン! 窓際でくっさいオーラ振りまいてんじゃねえよ!」
取り巻きがドッと笑う。女子たちも口元を押さえてクスクス。俺は反論しない。いや、できない。ただ、唇を噛みしめて耐える。
――その時だった。
突然、視界が白い光で満ちた。教室全体が揺れ、まるで落雷に直撃されたような轟音が響く。思わず目を閉じた俺が再び目を開いたとき、そこはもう学校ではなかった。
白い光が収まったとき、俺を含めたクラスのみんなは見知らぬ大広間に立っていた。天井は高く、宝石をちりばめたシャンデリアが輝き、壁際には甲冑姿の兵士がずらりと並ぶ。
——明らかに教室とは違う空間。
そして、奥の玉座には威厳ある髭の王が腰掛けていた。
「……なんだここ」
「映画? 夢? ……いや、これ異世界召喚ってやつか!?」
クラスがざわつく。蓮は真っ先に状況を飲み込み、堂々と前へ進み出た。まるで自分を中心に世界が回っているかのような自信だ。
俺たちを
「異世界より来たりし若者たちよ。我らは汝らを勇者として召喚した。魔王の軍勢に抗うため、汝らの力が必要なのだ」
教室ごと連れてこられた俺たちは、互いに顔を見合わせてざわめいた。戸惑いよりも、期待や興奮の色が濃い。現実にゲームやアニメの展開が降ってきたのだ。当然だろう。
俺だってそうだ、今はうんこマンと馬鹿にされているがここで俺がみんなを見返すチャンスもあるかも知れない。
「では、みなが召喚の際に得たであろうスキルを知りたい。頭に強く思い浮かべれば分かるはずだ。それを教えてくれ」
王はそう言うと金箔をあしらった大きな書物をゆっくりと開いた。ページが自らめくれ、淡い光の文字が浮かび上がる。
「これでスキルの説明を行う。分かったものから前へ」
その言葉にクラスメイトは胸を高鳴らせ、なんとなく誇らしげに前へ進む。
まずは蓮が名乗った。
「俺は《勇者》だ」
王が辞典に視線を落とし、朗々と読み上げる。
「《勇者》あらゆる武器に適性を示し、戦闘成長率が飛躍的に高まる特級職。前衛としての耐久・攻撃共に優れ、戦局を左右する存在と記載される」
広間から拍手と歓声が上がる。蓮は誇らしげに胸を張る。
次に、クラスの人気者で蓮の彼女である
「私は《聖女》です」
「《聖女》。回復と浄化に長け、重傷者の回復、死傷者の蘇生すら行えるとされる。希望を象徴する支援職である」
女子たちがため息まじりに羨む。美咲は照れ笑いを浮かべる。
続いて、
「俺は《雷帝》だぜ!」
「《雷帝》。雷術を扱う魔導の極致。複数の敵を瞬時に殲滅し得る攻撃特化の職とある」
近衛の男たちが「頼もしい」と囁く。
――剣聖、弓聖、賢者、暗殺者、竜騎士、錬金術師、治癒士、狩人。
王はそれぞれの長所・短所を淡々と述べ、その有用性を明確にする。歓声、期待が溢れる。俺はその光景を少しばかりの焦りと共に眺めた。ここで一発逆転、皆を見返す機会かもしれない。――そう思っていた。
だが、俺の番が来たとき、突きつけられた単語はあまりに現実で、あまりに酷な単語だった。頭に浮かんだ文字は――《うんこマン》。
奇しくも俺の最悪なあだ名と一緒だった。
「どうした? 早くスキルを言わぬか」
王の言葉とクラスのみんなの視線でもう言わないという選択肢はなかった。
「……うんこマンです」
大広間に静寂が落ちる。次の瞬間、爆笑が生まれた。肋骨が揺れるほどに連鎖する嘲笑。俺は顔が真っ赤になった。恥だけでなく、胸の奥が凍りつくような自分への嫌悪がこみ上げる。
王は困惑した表情を見せながらも本に目を落とした。だがページをめくれどめくれど、読み上げる言葉はない。しばらくの沈黙の後、王は眉をひそめたまま、低く言った。
「……これは本に載っていない。未知の記録されざるスキルだ」
その言葉は、俺を更に打ちのめした。伏せられた評価すらない。存在が記録されていない、世界に存在し得るかどうかさえ判定できぬもの。それを王は、だが続けてこう付け加えたのだ。
「だが、名から察するに不浄に関わるものであろう。名の通り穢れを連想させ、城に置いてはおけぬ。未知故に危険――よって追放とする」
大広間がどよめく。神谷の取り巻きが「あーあ」と笑い、誰かが口々に「お前マジかよ」と吐き捨てる。辞典に載らぬものは危険扱いだ。
この追放すべしという空気に俺は思わず声をあげた。
「待ってくれ! ちょっと待ってくれって!」
声が震える。必死に前へ出る。汗が額を伝う。
「辞典に載ってないってことは、可能性があるってことだろ! 未知だからこそ、もしかしたら役に立つかもしれない! 追放なんかされたらどう生きればいいんだ! 食料も住む場所もない、この世界で――!」
その言葉は、切実なものだった。ここで捨てられれば、文字通り死ぬかもしれない恐怖が胸を締め付けていた。
——どこかも分からないが、魔王という脅威がある世界で一人になってしまえば確実に死ぬ。
だが、返って来た答えは冷たかった。蓮が鼻で笑う。
「なら死ねよ。リスクは排除する。それがみんなのためなんだ」
美咲は顔を背け、誰かが「あいつなんか連れてったら絶対足手まといだよ」と囁く。だがクラスメートの一人である
「ちょっと待ってください! 未知のスキルなら可能性もあります。捨てるのは早計です、王様! それにみんなもちょっと酷すぎるよ!!」
彼女はいつも窓際で本を読んでいて口数は少なく臆病だが、優しい沙耶が勇気を振り絞って声を震わせながら出てきた。彼女の瞳は真剣で、俺の方へ視線を向けている。彼女だけは、こちらの世界に飛ばされてくる前からたった一度でも俺の存在を否定しなかった。
その声に一瞬、会場の空気が揺れた。しかし王は静かに首を振った。
「予測不能な存在を庇うことは、国のためにならぬ。それにそこにいる魔王を倒せるかも知れない勇者蓮たちの邪魔になる可能性がある以上、追放する」
その王の言葉に蓮が冷たく付け加える。
「そうだこいつは仲間になるどころか、足手まといにしかならない。ここでの王様の判断は正しい」
沙耶の肩から小さな震えが伝わる。彼女の目に浮かぶ悔しさと戸惑いは、俺には痛いほど伝わった。彼女が一歩、俺の方に来る。だが周囲の女子の圧が強く、彼女の姿は次第に見えなくなる。
兵士が俺の両腕を掴んだ。冷たい鎧の感触。引きずられるようにして広間を出されると、クラスメイトたちの嘲笑が背に突き刺さる。俺は何度も足をふんばり、叫んだ。
「やめろ! せめて説明しろ! こんな世界で追放なんかされたらどう生きればいいんだ! 試させてくれ、お願いだ、誰か聞いてくれ!」
だが兵士の一人が足蹴りを浴びせ、膝を崩される。俺の声は次第にあの大広間には聞こえなくなり、城門が冷たく閉じられた。クラスメートの笑い声と、沙耶の押し殺した嗚咽が最後に聞こえた。
門の外に放り出された俺の先には鬱蒼とした森。風が葉を鳴らす音。遠くで獣の鳴き声が聞こえる。
土に手をつき、泥の匂いを嗅いだとき、怒りと屈辱が熱となって湧き上がった。
「上等だ——」
俺は小さく、しかし確固たる声で言った。
「生きて、力をつけて、必ず見返してやる。笑ったやつら全員を後悔させてやるんだ」
俺は振り返らずに、森の奥へと足を進めた。
——
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